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推して参る


「はっ!!」


「ぬぅん!!」


 会長の右手の刃は、ガードするレンベルトの左腕に突き刺さり、途中で止まった。会長の短剣でも切断できないほどの硬さなのか……! レンベルトがニヤリと笑う。


「私の、勝ちだ!」


 レンベルトの右の大振り。会長は短剣から手を離し、スウェーでその大振りをかわし、そのまま右脚の回し蹴り。それは、


「むぅ!?」


 レンベルトの左腕に浅く突き刺さったままほ短剣を強く蹴りつける! 会長の追撃によって、短剣はさらに深く突き刺さっていき、


「ぐあっ!?」


 左腕を斬り落とした。勢い落とさず蹴りがレンベルトのこめかみに入る。鈍い音がして左腕が樹面に落下し、レンベルト自身も膝をつく。


「素晴らしい」


 左腕を抑えてうずくまるレンベルトの前に、会長が立つ。


「次は、あなたの心臓に突き立てます」


 会長が蹴り飛ばした短剣は、そのままレンベルトの左胸に浅く突き刺さっていた。ふっと、その巨体から力を抜くレンベルト。


「いや、私の負けだ。降伏しよう」


「そうか」


 残った右腕を、頭の上にあげた。そこに、


「ちょっと待てよぉ!? お前の仕事はそいつを倒すことだぞ!? あっさり負けを認めるなっ!!」


 ベン・ベントナーが口から泡を飛ばして喚き散らす。


「無理だ。私にはこの男を倒せない。仕事を果たせず、すまないと思っている」


「んなこと聞いてねぇよ!」


 あおっていた酒瓶をベントナーは投げ捨てる。


「くそ、どいつもこいつも役に立たねぇ! やっぱオレ様が出張るしかねぇか!」


「誰が出張るって?」


 ベントナーの背後に立つ人影があった。


「え?」


 ガツン! と上から打ちおろすカランザ先輩の左の鉄拳が、ベントナーの顔面にぶち込まれる。


「ぶ、ヒ……」


 そして、ベントナーは意識を失った。壊れたおもちゃのように倒れふす。その間に会長は副会長に駆け寄る。


「リーリエ、大丈夫か」


「グ……ゲホッ、か、ちょ……」


 しかし、副会長の喉は完全に潰されているようで、声を発することが出来ない。


「じ、か……グホッ!」


 それでも、副会長は自身の左腕の時計を指差す。


「そうだ。あと時間は?」


 全く考えずに闘っていた。「雪街」発動までどれくらいある?


「あと二十分だな」


 会長がゆっくり答える。


「カランザ君、リーリエを頼む」


「任された」


「僕は、先に進む」


 会長は足を進める。そして、オレはそれに追いすがった。


「待って下さい! オレも行く!」


「やめておきなさい」


 そう言ったのは、他の誰でもない、レンベルトだった。


「君だけが明らかに実力違いだ。上にいるのは私達の隊長。君が付いて行って何か出来るとは思えない」


「んなことわかってるよ!」


 拳を強く握って叫ぶ。そんなこと誰に言われるまでもない。初めからわかっていることだった。


「上にシンシアがいるんだ。オレが行かないで誰が行く!」


 オレの叫びに、


「わかった。一緒に行こう」


 会長だけが、静かに頷いた。










 オーガスト達は、世界樹に向かって走っていた。体力を回復するのに少し時間がかかりすぎた。


『おや』


「あ!」


「会計!」


 すると、世界樹の根本にもたれかかるようにして座り込むトーマス・バッシュロがいた。その姿は見るも無惨にボロボロである。リーが駆け寄る。


「ちょっと大丈夫ですか!?」


「はは、死なない程度に重傷さ」


 力なく笑う。


「ヒッ!!」


「う、わ……」


 彼女たちから見えない所にあった会計の左脚は、腿から下がなくなっていた。


「はは、翼人って結構強いんだね、少し舐めてたよ」


「翼人……」


 見回すと、そこかしこに翼人が墜落していた。その全てがおそらく息もしていない。


「そんなことより、僕が気になっているのは君たちの後ろにいる美しい女性だ。是非お名前を教えていただきたい」


「も、もう! こんな時に何言ってるんですか!」


 会計に指名された女が、一歩前に出る。


『うちの名前は小春、言うんよ。調子の良いお兄ちゃん』


 そう、オーガストとリーと共に、小春がいた。


『どれ、ちょっと見せてみぃ』


 小春がかがんで、会計の傷を見る。


「ど、どうなの小春さん」


『ふむ。まあ本人も死ぬ気ないみたいやし、大丈夫ちゃう? まあ止血はしといたるわ』


 そう言うと、小春は両手を会計にかざした。すると、両の手の平から暖かな光が生まれ、それが会計の全身をつつむ。


「こ、これは」


『はい、おしまい。昔やったらその脚ごと治してやれたんやろけど、今はこれが限界や。かんにんな』


 小春は少し申し訳なさそうに笑う。会計は両手をグッグッと握ったり開いたりして、自身の回復を確かめる。


「いや、素晴らしいです。美女三人に看取られて死ぬなら、それもいいかと思ってたけど、まさかこんな女神が現れようとは。どうです、小春さん。今度僕とお食事でもいかがですか?」


 あまりにマイペースな会計に、リーとオーガストは呆れたようにため息をつく。


『全く、ほんまに調子の良いお兄ちゃんやな』


 小春は珍しく困ったように笑う。そして着物の裾で口元を抑えながら言う。


『けどうちにはあんさんがおるからなぁ。二番でええなら付き合うよ?』


「小春さん!?」


「っ是非! しかし、あんさんと言うのはおそらくミナセ君のことだろう。いやはや、羨ましい限りだ。代わってもらいたいよ」


『せやろ?』


 何故か得意げに小春が胸を張る。


「それより、無駄話をしている暇はありません。早く展望台に」


 リーが話すかたわら、会計は片足で少しよろけながら立ち上がる。背負った矢筒から、最後の一矢を取り出す。


「なら美女三人を彼の元に送り届けるのは、僕の使命だ」


 空中に向けて高々と矢を放つ。そして、 巨体の翼竜をまた召喚した。


「さあ、乗るといい」


「会計さん、あなたも一緒に……」


 リーが会計の肩を支えようとする。しかし、その手を優しく拒んだ。


「いや、あの子は乗れて三人までだ。君たちが行ってあげた方がきっと彼も喜ぶだろう」


「会計……」


『調子の良いお兄ちゃん』


「何でしょうか?」


『借り一つ。作っといたるわ。いつでも好きに使いい』


「ほう、これは嬉しいな。さぁ行って下さい」


 三人は、ミナセと違いテキパキと翼竜の背中に乗ろうとする。


『うち、乗り物は苦手なんやけど』


「我慢して!」


「そうです!」


 ただ一人は、文句たらたら、無理矢理乗せられた。







 世界樹展望台は、第一から第三までの三層に分かれる。世界で最も高い展望台と呼ばれ、年間何十万人の人々が訪れる観光名所だ。その第一層にはいくつもの階段、書道リフトから上がってこれる。

 そこからの眺めは、はるか遠くユーラシジャス自由都市同盟の山々まで一望出来る。時として雲より高いその場所に訪れることは、世界中の人々の憧れだ。

 その第一時展望台に、一人の男が立っている。


「あなたが、ヨロハ教国特殊部隊の隊長さんかな」


「……いかにも」


 地の底から発さられたような低い声だ。うしろ姿なので、どんな顔の人間かはわからないが、長身でがっちりした男だ。緑と黄の軍服姿は、まさしく軍人のイメージそのものである。


「ああ、そうかよ」


 オレは一言だけ呟くと、ベントナーから奪った拳銃を三発放った。頭に二発、腰付近に一発命中する。


「……あまりに汚すぎないかい?」


 会長も少し引き気味だ。だが、オレはそんなこと知ったこっちゃない。


「戦場で敵に背中向けてる方が悪いっすよ。さあ行きましょう」


 急いで上の階に上がろうとした時、


「その意見には、私も同意だ」


 拳銃で撃たれたはずのその男が、そのままの姿勢で言う。カツンカツンと、小さな音を立てて弾丸が樹面に落ちる。三発全ての弾丸が、傷一つ与えていないようだった。


「ここから見える景色があまりに美しいので、少し見惚れていた」


 敵の隊長は、こちらに振り返る。短く刈り上げられた金髪に、右目は黒い眼帯で覆われていた。


「生徒会長と、サクラ・ミナセか。その様子だと、デン・デンドラも、ベン・ベントナーも、レンベ・レンベルトすらも敗れたか」


「もし抵抗するなら、そこにあなたも加わっていただく」


 会長が短剣を構える。


「教国の悲願成就のため、私が勝利する。我が名はザイ・ザイツカーン。推して参る」


 第一展望台を埋め尽くすような闘気がザイツカーンから発せられた。

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