表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/140

オレの顔に見覚えはねぇか!!



「ああ!? なんだガキ、てめぇ?」


 それは、天井に頭が付きそうなほどの大男。そいつがオレの行く先を遮っていた。両手にはめられたメリケンをガシガシと打ち合わせながら、オレを威嚇してくる。


「ああ、あの、ちょっとそこ、通してくれませんかね?」


「殺してやるよ!」


 ダメだ。会話にならない。闘うしかないのか。ゆっくり腰を落とし、術の発動態勢に入る。その時、


鯨雷弾ホエール!』


 凛とした叫びと共に巨大な物体が、オレのすぐ隣を駆け抜けていった。


「!?」


「!?」


 透明に輝くそれは、巨大な鯨。恐ろしい速度で大男に向かっていく。

 爆音と共に世界樹の壁に大穴を開けた。大男は、どうなったのだろう。


『ふん。あのような小物にいちいち時間を取られているのではない』


 オレの後ろからゆっくり歩いてきた声。振り返ると、そこには青い艶やかな着物をまとったじゃろ先輩。裾を膝上までまくしあげて、紐で固定している。


「い、いや、あいつ、多分ですけど、結構強かったですよ?」


『妾よりは弱い』


 世の中のだいたいの人間がそうだよ。しかし、思わぬ超戦力が来てくれた。じゃろ先輩となら、並み居る強敵と渡り合いながら展望台を目指せる。


『む? そう言えば、何故お主がここにおるのじゃ? 作戦は精鋭のみの参加じゃし、迷子かの?』


「あのですね……」


 じゃろ先輩にかいつまんで事情を説明する。


『ふむ」


「わかって下さいましたか?」


『わからぬ』


 あれ? オレの説明の仕方が悪かったかな。


『お主、見たところあのちびっ子精霊がおらんことで、まともに術が使えんのではないか? もしくは制限が厳しくなっておるか。なのに、何故ここまで来た?』


「は、はい。それは」


 そうだ。おそらく、大技の湖面月鏡は使えて一回。その他の術も似たようなものだ。


「でも、行かなきゃならないんです。オレがあいつを迎えに行ってやらないと」


 迎えに行く、とはどういうことか自分でもはっきりとはわからない。しかし、あの展望台に行けば、シンシアに会える気がするのだ。


『ふむ。まあ良い。妾の後についてくるが……ん?』


 その時、未だかつて経験したことのない程の怖気が、オレの背筋を襲ったのだった。







「おや、もうこんなところまで来ちゃったか」


 大階段の前、階段に腰掛けて、酒をあおる小男がいた。


「流石は学内最強の男ってか。対君用に準備したやつらは全員やられちゃったのかねぇ?」


 カツン、と小さく音を立てて、生徒会長は立ち止まる。


「あなた、ベン・ベントナーか」


「お、ご名答。オレ様の名前を知ってるのか」


「知らない方がおかしい」


 ベン・ベントナー。ヨロハ教国特殊部隊副隊長にして、一時世界を震撼させたテロリストでもある。


「そこを退いてくれないか?」


「ム・リ。ここから先はオレ達の隊長と、小僧しかいない。行かせられないね」


「ならば、押し通る」


 会長が姿勢を低くする。それを見て、ベントナーは口角を上げて、歪んだ笑い顔を作る。


「じゃ、こんなんどうかな?」


 バチンと指を鳴らすと、その背後から、何人もの人間が現れた。


「人体操作か」


 現れた人間は、全員虚ろな目をして、幽鬼のように揺らめきながら立っている。


「そういうこと。ちなみにこいつら全員君とこの生徒だから。さあ、君は守るべき生徒相手に、その短剣を振れるかな?」


「ゲスめ……」


 うおおお!! 雄叫びを上げながら、操られた何十人もの生徒達が、会長に殺到する。七人で全方位から会長を取り囲む。が、一閃、円状に煌めきが走ったかと思えば、七人全員が仰向けに崩れ落ちていく。


「ほうほう……!」


 なおも会長の動きを止めようと、次々に生徒らが襲いかかるが、その全てを一刀のもとに斬り伏せていく。ものの数十秒で、二十人以上が薙ぎ倒された。さらに空中から二人の獣人の男が会長に飛びかかっていく。


「ガウウ!!」


「っ!!」


 その鋭い爪を、短剣で薙ぎ払うように叩き折り、そのまま行き過ぎ、振り返ったところで獣人の後頭部に肘を叩き込む。さらに迫り来る二人目の攻撃をしゃがんでかわし、下からねじり込むように顎を短剣の柄で打ち上げる。二人の獣人はバタリと倒れた。


「あれ、おかしいなぁ。その獣人二人はかなり動ける奴らのはずなのに……」


 小男は、右手親指の爪を噛みながら、思案する。


「ふん、じゃあ、こんなんどうでしょう?」


「……?」


 小男の後ろから、再び現れた二人の男子生徒らが、向かいあい、


「……! やめろ!」


 銃口を互いに突きつけた。バン! と小気味良い音が、する直前に会長が投擲した短剣が、銃を弾いた。


「きっさま……!」


「ふふん。どうやらこれは効くようだね。なら……」


 会長が倒していたはずの人間全てがゆっくりと立ち上がり、手に手に武器を持つ。


「派手にいこうか……!」


「このっ!!」


 会長は、もう周囲の生徒らに構っていられなかった。最速で小男を無力化するしか方法はない。その焦りが、一瞬の隙を生んだ。


「グ……ガハッ!?」


 会長の足元に倒れていた獣人が、瞬時に起き上がり、なにか注射器のような物を会長の首筋に刺した。


「ふふん。これでオレ様は」


 小男が歪んだ笑顔をつくる。


「千人力だ」






 


 オレの全身を襲う怖気は、徐々に強くなっていく。その悪寒の発生源は、視線の向こう、奥の階段から生じている。


「な、なんだ?」


『ふむ』


 カツン、カツンとゆっくり上階から誰か下りてくる。なんだ?一体何が……?


「あ、あれ」


『む?』


 会長だった。


「会長! あなたも闘ってたんですね!」


 思わず駆け寄る。じゃろ先輩に会長。学内二強が揃った。この二人となら十分展望台を目指せる。だが、


「会長? どうしたんですか?」


 会長が何も答えてくれない。元々明るい人ではないが、そういうこととは少し違う気がする。


『お主、下がっておれ』


「え?」


『あれは、妾やお主が知る会長ではない』


 はい? 何言って……。そう思った時、会長が、ゆっくりと二本の短剣をいつものように、逆手に構えた。まるで、オレ達と闘おうとしているかのように。


『下がれ!』


「う、グハッ!」


 じゃろ先輩に突き飛ばされた。見上げると、先ほどまでオレがいた場所で、じゃろ先輩の鉄扇「冥海」と、会長の二本の短剣がつばぜり合いをしていた。


「会長!? なんで!?」


『わからぬ! おそらくこやつ、操られておる! たぁ!』


 じゃろ先輩が膂力で会長を押し返す。離れぎわ、会長の蹴りがじゃろ先輩を襲うが、それもきっちり冥海で防ぐ。その攻防はあまりに速く、オレは目で追うのもギリギリだ。


「じゃろ先輩!」


『狼狽えるな。大丈夫じゃ』


 確かに、会長の様子はおかしい。操られているというのは本当だ。そして、それが出来る奴は、オレの知る限り、


「ベン・ベントナー……!」


 ミスコンのステージ上に立った小男に見覚えがあった。世界中で事件を起こしている過激派テロリスト。あいつの契約魔書「蠱毒」だ。


「むむ、その様子だと、オレ様がやってるってバレちゃったかな」


 すると、ひょっこり階段の影から、ベントナーが顔を出した。下卑た笑いを浮かべながら、飄々と歩いてくる。オレはその顔に唾を吐く勢いで怒鳴り散らす。


「てめぇこら!! オレの顔に見覚えはねぇか!!」


「なんだ、うるさいなぁ」


 ベントナーは、オレをまともに見ようともせず答える。


「知らないね。オレ様有名人だし、そっちが勝手に知ってるだけじゃない?」


 なら、


「じゃあ、リエラテロ事件を覚えてるか!!」


「……? ああ、それは流石に覚えてるよ。オレ様プレゼンツの企画だったからね。何、君生き残り?」


 違う。生き残れなかったのだ。


「タイジュ・ミナセと、リリエル・ミナセ。てめぇに殺された図書士の息子だ!!」


 オレの怒号は、虚しく響くだけだった。


「へえ、世の中狭いのか。それともオレ様が手広く仕事をしすぎてるのか」


 こたえた様子も、反省するそぶりもない。当然だ。こいつは凶悪テロリストなのだから。


「じゃろ先輩、会長のことは、すみませんがお任せします」


『うむ。引き受けよう』


 オレは、


「オレはあいつをやる!!」


 完全に血が上りきった頭を、冷ますことは難しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
a href="http://narou.dip.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ