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行け!ライドラ!


 世界樹目掛けて全力で走る。もうリーさんとオーガスト先輩のことは心配していなかった。覚悟を決めて戦場に立った人間を心配するなど失礼だと思ったからだ。


「くそ! これを今から上るのかよ」


 見上げる展望台ははるか高い。


「ん?」


 目を凝らすと、空に小さな点のようなものが浮かんでいた。それは徐々に大きくなっていき……


「うお!?」


 オレが先ほどまでいた場所の地面に

深々と突き刺さった。それは槍ではなくただの金属の棒。しかし、上空から一直線に落下してくるそれは、どんな武器よりも鋭利だ。


「あれ? ミナセ君? ダメだよそんな所に立ってちゃあ」


「か、会計?」


 近くの根舎から、間の抜けた声がオレの名を呼ぶ。手招きされて、オレも根舎の中に入る。


「上空に翼人がいる。僕が確認しただけでも六人」


「よ、翼人?」


 それは亜人の一種。肩からコウモリのような羽を生やす彼らは、対空戦闘を得意とする。


「ああやって、上空から述式転化で生成した棒状の金属を落下させてくる。厄介だね」


 つまり、屋根のない所にいる全員が標的だった。そして、例え屋根があったとしても、あの威力の落下物だ。こちらの姿が見えないだけで、十分屋根を貫通してくるだろう。


「僕は今からあいつらの対処にあたる。君はどうする?」


「シンシア所に行きたい」


 オレの言葉に、会計は小さく微笑むと、


「オッケー。サポートするよ」


 そう言って肩にかついだ矢筒から、一本の矢をつがえる。


「翼竜召喚」


 短い詠唱と共に、矢を空に向けて放った。ヒュウウ!といつ風切り音をまとって、矢がぐんぐん飛翔していく。そして、咆哮とともに空中で矢が突然巨大な翼竜に変化した。低い咆哮を上げながら、空中の翼人に竜が突進していく。


「さ、今のうちに」


「あの、まさか」


 会計はもう一度矢を、今度は地面と水平に放った。その矢が向かいの根舎に突き刺さる前、再び巨大な翼竜に変化し、ドスンと地面に座りこむ。


「この子の背中に乗って。これなら大分時間が稼げるはずだ」


「いや、あの……」


「大丈夫。あんまり噛んだりしないから」


 あんまりってことはたまにあるのかよ!会計の契約する星五魔書「勇者物語」は、数多の竜を呼び出して使役することが出来る。オレが翼竜に乗ることを躊躇しているうちに、会計はもう一体竜を召喚し、何でもないことのようにその竜に跨った。


「ほら、早く乗って」


「は、はい」


 うえ、なんかゴツゴツしてる……。上空では翼竜と翼人が激しいドッグファイトを演じている。


「外を殲滅次第、僕も向かう。ちなみにその子の名前はライドラ。仲良くしてあげてね」


 それだけ言うと、会計は空変化飛び立ってしまった。ええい、ままよ!


「行け! ライドラ!」


 ライドラに力強く命令した。そして、


「うおおおおお!?」


 胃がひっくり返りそうな圧を受けながら、飛び立ったライドラにしがみつく。ライドラは恐ろしい速度でぐんぐん上昇していく。あと少しで展望台という所までたどり着いた時、


「グガ!?」


 展望台の中から、より一層凶々しい文書エネルギーが発散され、それにライドラが怯んでしまう。


「うお!?」


 翼のはためきをやめたライドラは、空中で停止し、そして一直線に地面に落ちていく。あ、死んだな。そう頭でなんとなく理解したが、その途中、


「グガァァア!!」


 再び気合いを取り戻したライドラは、世界樹の幹に体当たりし、大穴を開けて入り込む。その場でゆっくりオレを下ろしてくれた。


「グググ」


 少し申し訳なさそうに鳴くライドラ。オレはその鼻先をそっと撫でてやる。


「いや、良く頑張ってくれたよ。ありがとう」


 そこは、地上から展望台までの大体中間地点。十分だ。これで何十分も時間が稼げた。


「グガ!」


 最後に嬉しそうに一鳴きすると、ライドラは消えていった。


「よし!」


 パン、と両手で頬を叩いて、先にすすむ。







「オッケー。ミナセ君は無事先に進めたみたいだね」


 会計は翼竜の背で、一人頷く。


「さあ、僕らは何して遊ぼうか?」


 彼の周囲の空には、何十という数の翼人が、円を組んで彼を取り囲んでいた。背中の矢筒から一矢取り出して、構えた。










「キャア!」


 述式結界ごと弾き飛ばされたリーが、後ろに大きく倒れる。そこにジョーンが飛びかかる。


「このっ!リー!」


 オーガストが横合いから盾に変化した左腕でジョーンをぶん殴る。が、十字に交差した両手の肘で、防がれる。そして、衝撃そのままジョーンの両手が広げられた。


「くっ!!  痛!!」


 右甲の鉤爪が、オーガストの首元を浅く斬り裂いた。着地したジョーンは今度はリーではなく、オーガストに襲いかかる。


「先輩!」


 両手の鉤爪が左右からオーガストに振るわれるが、二人の間に述式結界が生成され、オーガストを守る。しかしそれも一瞬で、まるで薄い板を割るかのように破壊されてしまう。


「せい!」


 横っ飛びで、何とかジョーンの猛襲から離脱する。リーとオーガスト、二人は肩を並べて間合いをとる。


「ハア、ハア、ハア」


「くそ、強いね……」


 ジョーンは地面に突き刺さった鉤爪をゆっくりと抜き、二人の方へ振り返る。口元がよだれでベトベトになっていた。それでも同じことを繰り返す。


「肉……肉……肉……だ」


「くそ! 変態が!」


「乙姫先輩が可愛く見える奇行ぶりですね……」


 二人はまだ一撃もジョーンに攻撃を当てれていない。だが、二人の身体はボロボロで、至る所に裂傷ができて血を流しており、衣服も様々な所が切り裂かれていた。


「どうして私の結界が効かないのでしょうか?」


「多分、あの鉤爪。なんか細工されてるね」


 ジョーンの甲から伸びる五爪の鉤爪は、刃物特有のものとはまた違った輝きを放っている。


「こういう時どうするかわかってる?」


「一応」


「今更細かい打ち合わせとかは出来ない。カンで動くよ」


「はい。了解です」


 オーガストが小さく詠唱を開始し、素手であった右腕が、細いレイピアに変化する。未だ不気味に直立しているジョーンに、オーガストが突進した。


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