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水精霊空想観察記録  作者: 夏目りほ
第一章
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編成も知りたいしね


  コーエン先生の研究室はいつ来ても綺麗だ。図書士は綺麗好きが多いというのはよく言われるが、中でもこの人は別格だ。隅々まで整理が行き届いており、入り口付近に立つと部屋の左右でシンメトリーになるように配置されているのがわかる。先生の意図しないところに物を動かすとすげぇ怒られる。


「で?  いつまで掃除してりゃいいんだよ。もう一時間はやってるぞ」


「儂が満足するまでに決まっているだろう。ほら、その壺は動かすなと何度言えばわかる!」


「終わる気がしねぇな」


「先生、僕チーム編成見にいきたいんですけど、帰っていいですか?」


「ああ、そうか。もうそんな時期だっけか」


「生徒のくせに把握しておらんとは。クラス替え、席替えは学生の重要行事であろう。ドキドキワクワクしながらそわそわしていれば可愛げがあるものを」


「義務教育生じゃねぇんだから。まあでも、ゆるい奴らと同じがいいなぁ。去年はじゃろ先輩のせいで大変だったし」


「ホント、大変だったよね!」


  唯一良かったのはセレンと知り合えたことくらいか。どうしよう、なんかちょっとそわそわしてきた。


「そういえば、シンシアさんは?」


「プリン食ったら寝ちまった」


 本当ガキだよな。あれでオレより年上だって言い張るんだから呆れてしまう。絞り終えた雑巾を片して、コーエン先生の机の前にたつ。


「なあ、もういいだろ?  帰りたいんだよ」


「編成も知りたいしね」


 先程からセレンが話しているのは、今年いっぱいの実践課題を行うチームの割り振りのことだ。一つのチーム三人で、三百組ていど、学年、実力関係なしに組まされる。面倒なことに、この課題での成績がそのまま個人の年間成績となり、進級、卒業に影響する。つまり、普段の講義の態度や成績は一切加味されない。完全実力主義の図書士育成校らしいやり方だ。なので、チーム内で実力やモチベーションに差がありすぎると、物凄くギスギスした一年を過ごさなくてはならなくなる。 去年はそれでかなり苦労したから、今年こそは穏やかに一年をやり過ごしたい。やっぱり緊張してきた。そわそわしちゃう。


「まあ、待て。儂も講師だ。すぐに生徒全員の組み分けがとどく」


 コンコンと、研究室のドアを叩く音がして、オレとセレンが振り返る。 な? という顔をするコーエン先生に少し腹が立つ。


「失礼します。学生課です。今年の実践課題の組み分けをお持ちしました」


「うむ。はいってくれ」


 ピシリとした壮年の男性が分厚い書類を片手に入ってきた。コーエン先生に一礼して卓まで歩いてくる。


「いやぁ、いいタイミングできてくれた。この生徒達にせがまれていてね」


「先生の一番弟子たちですか」


  にこやかな顔でとんでもないこと言いやがる。


「違うっす」


「違いますね」


「だそうだ」


  学生課の人は苦笑いしながらコーエン先生に書類を渡し、また一礼して部屋から出ていった。


「みせてください」


「まてまて、今検索してやるから。ん、ほう、これはこれは」


  楽しそうにコーエン先生が笑う。細い眼がキラリと光るこの笑い方は、オレにとってあまりいいことではない。書類をセレンに手渡しながらオレを見て、


「今年も退屈しなさそうだ」


  眼鏡をくいと押し上げた。

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