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そのまさかだ


 わっと。小男の言葉を聞き、会場が一気に大混乱に包まれ出す。人々は逃げ惑い、出口へと殺到する。しかし、


「あーあ。やっぱり騒ぎ出したか。いいよ、適当にやっちまいな」


 小男が気だるそうに、出入口の軍服らに指示をする。それを聞くや、軍服らは躊躇することなく機関銃を構える。それだけではない。


「セレン、やれ」


「はい、副隊長」


 ステージ脇から現れたのは、オレの親友、セレンだった。


「少々の死人は構わない。制圧しろ」


「了解」


 セレンが小男の言葉に小さく頷き、手元から一冊の図書を取り出す。そして、


「機関銃、七」


 一言呟くと、


「な!?」


 突如ステージ上に七門の機関銃が並んだ。


「斉射」


「頭下げてー!!」


「きゃ!!」


 オーガスト先輩と二人でモミジの頭を無理やり抑えこむ。ダダダダダダ! と激しい音がして、銃弾の嵐が会場を襲う。その間約二秒。弾数にして千発近い弾丸が踊り狂う。青くなった観客が次々と悲鳴をあげる。だが、その弾丸全てが、誰か、何かに着弾することはなかった。


「全く、儂の生徒らに銃口を向けるとは。地獄の苦しみを味わう覚悟は出来ているのかね?」


 男が一人、ステージの目前、特別審査員席に立っていたからだ。額の前で交差した両腕の手のひらを開く。するとそこからは無数の弾丸が溢れ落ちていく。

 ギリ、とステージ上の小男の歯ぎしりが、オレの所まで届いてくるようだった。


「アレックス・コーエン……!」









 ステージ上の小男とセレン、そしてコーエン先生が静かに睨み合う。先に言葉を発したのはステージ上の小男だった。


「いやはや、流石は皇国、いや、大陸最強の男。飛び交う弾丸なんてものともしないか」


「武器、図書を地面にゆっくりと置き、両手を頭の後ろに回せ」


 よく見ると、会場の出入口を封鎖していた軍服たちは、全員気を失って倒れていた。


「クク、世界停止ワールド・ロックか。凄まじいねぇ」


 アレックス・コーエン先生の契約する星七魔書「小さな砂時計」の能力、時間停止が発動したのだろう。時間を止める能力、紛れもなく最強の力だ。だが、そのコーエン先生を前にしても、小男は余裕の笑みを崩さない。


「星七魔書『雪街』を発動させると言ったな。直ちに投降し、発動を停止しろ」


「いやだと言ったら?」


「殺す」


 少し、コーエン先生の重心が前がかりになった時、突如先生の背後にいた観客と思しき人間二人が、先生に飛びかかった。


「っ!! なっ!?」


 そいつらの攻撃を振り返り受けるコーエン先生。その隙にステージ上の小男とセレンは、静かにその場を立ち去ろうとする。


「クク、お前とはまた別の機会に相手をしてやる。今はせいぜいオレ様の人形と遊んでな」


「待て!」


 コーエン先生の叫び声を聞いた奴らだが、立ち止まることなくステージ脇からいなくなる。


「セレン!!」


 オレは立ち去る二人のうち一人、金髪の後ろ姿を思わす呼び止める。が、セレンはチラとオレに視線を向けるだけで、何も言わずに消えた。


「このっ!」


 コーエン先生が二人を素早く無力化する。するとその二人は、糸が切れた操り人形のように、カクンとその場に倒れ伏した。そして、


「この場にいる全図書士、図書士候補生に告ぐ!!」


 コーエン先生が声を枯らして怒号を上げる。


「現時点を持って、レーゼツァイセン全域に第一級戦闘態勢を発令する! まずは速やかに一般人の避難を遂行せよ!!」


 そして、


「そして、一部精鋭によるヨロハ教国特殊部隊撃滅を行う!!」


「はい!!!」


 会場の至る所から、生徒達の声が上がった。


「こりゃ、マジもマジ。大マジの事態だな」


「ほら、カッコつけてないで、モミジちゃんを安全な所に連れて行くよ!」


 オレとオーガスト先輩でモミジを何とか立たせる。モミジは恐怖で足腰が立たなくなってしまっていた。


「避難所は街の第一から第三図書館だ!」


「皆さん焦らずに! 落ち着いて行動して下さい!」


 図書士候補生達の誘導に従って会場を出る。外はどんな戦場になっているかと思いきや、そこには例の軍服らは一人もおらず、拍子抜けする有様だった。だが、一般人の混乱はひどく、思うように避難が進まない。


「ミナセ先輩!」


 そこにリーさんの声があった。人混みの向こう、小さく手を上げている。


「リーさん、こっちだ!」


「すぐ行きます!」


 人波をかき分けて、リーさんと何とか合流する。


「何ですかこれは!? 一体……」


「わかんねぇ、ただ、ヤバい状況ってのはわかる」


 星七魔書、ヨロハ教国特殊部隊、シンシア、そしてセレン。頭の中がグチャグチャだった。とにかく、今はモミジを少しでも安全な所に連れて行くことが肝心だ。

 集団の動きに身を任せ、とにかくついていく。その中に、派手な赤い着物が見えた気がしたが、今はそんなことに時間はかけられない。三十分ほどの時間をかけて、一番近い第二図書館にたどり着く。それまで敵の襲撃は一度もなかった。図書館の周りには、武装した図書士たちが警備している。その人数を見る限り、一応安全だと思えた。


「ミナセ君!」


 図書館に着くなり、オレを呼ぶ声がする。向こうで会計が手を振っていた。


「何すか! 今ちょっと忙し……」


「コーエン先生が君を呼んでいる。すぐに来て欲しい」


「え? わ、わかりました。モミジ、ちょっと待ってろ」


「う、うん」


「先輩、リーさん、お願いします」


「うん、任せて」


「お気をつけて」


 会計に連れられて向かうと、そこにはコーエン先生だけではなく、学校の講師達が何人も揃っていた。その全員が一級の図書士である。


「きたか」


「あの、何ですか?」


「君、『雪街』の特性は知っているか?」


「も、もちろん」


 星七魔書「雪街」。作者不明の大和の国の書物だ。精霊自身が自らの図書を持ち歩く、浮浪型の魔書、あの女狐と同種である。


「『雪街』の発動条件として、仮の契約者を精霊が選択するところから始まる。その後契約者の意思に関係なく発動するものだ」


「つまり、どこかに契約者がいるってことですね」


 オレのことも何気な発言に、講師陣が一同に渋い顔をした。


「それなんだが、おそらく……」


 そこまで言われて、オレにもピンとくるものがあった。


「ま、まさか!?」


「そのまさかだ」


 コーエン先生が苦々しげに呟く。


「『雪街』の契約者はお前だ。サクラ・ミナセ」

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