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サクラはどこ!?


「さあ、今年もやって参りましたミス皇立の季節! 司会は私、シェアラ・ファーガソンが勤めさせていただきます!」


 ステージ中央に躍り出たシェアラ先輩が、マイクを振り乱して挨拶する。彼女も十分ミスコンに出場できる美貌の持ち主だが、毎年司会を勤めている。おそらくそう言うことに興味がないのだろう。ちなみに、出場者より目立ってしまうことを避け、地味めのスーツを着用し、大剣も外している。


「それでは! 学校が誇る美女達に登場してもらいましょう! どうぞ!」


 会場に明るい行進曲が流れ出すと同時に、出場者が一人ずつステージ脇から出てくる。それに合わせてシェアラ先輩が軽くプロフィールを紹介してくれる。そんな中、リーさんは七番目に登場した。


「チウシェン・リーさん! 入学後すぐに複数のファンクラブが設立された程の美少女! 今大会期待の新星です!」


 リーさんはガチガチに緊張しているようだった。顔は強張り、歩く姿など、手と足が同時に出てしまっている。


「ありゃ、緊張してるみたいだね」


「本当だ。何か意外」


「そ、そりゃそうですよ! こんなにたくさんの人に見られているんですから!」


 ステージに並ぶ他の美女達よりも明らかに緊張しているリーさんだが、そこは流石に普段から制服を着こなしているだけあって、制服姿が堂に入っている。これなら十分本戦出場が狙えそうだった。


「続いて! 学校の二大お姉様の一人! マリア・シーサイドさん! 昨年度は惜しくも第三位でしたが、今年もミス皇立のトップ候補の一人です!」


 次々と出場者が紹介されていく中、マリア先輩が登壇した。今年は彼女にとって辛いことがたくさんあったはずだが、そんなこと微塵も感じさせない見事な笑顔だった。そこには彼女の強い意志が見て取れる。


「そして最後は! 昨年のミス皇立、海底都市王・竜宮城乙姫さん! 絶大な人気を誇る彼女が連覇を果たすのか!?」


 そしてじゃろ先輩が出てきた。笑顔で観客の声援に応えている辺り、もう慣れたものだ。


「以上、総勢三十二人で今年のミスコンはお送りします!」


 男子生徒達の怒号が会場を埋め尽くす。今年も見事に美女揃いのミスコンだ。そりゃ興奮もする。


「では、早速ですが、制服審査に入りたいと思います! 皆様のお手元の用紙に、この娘が可愛い! と思う三名のエントリー番号を記入してください!」


 制服審査はこのようにして、毎年あっさり終わる。ようはぱっと見の美しさが勝負というわけだ。本番は水着審査であり、そこでもっと個人個人にスポットライトをあて、人間性を見ていく。


「それではよろしいですか!? 係の者が回収しますので、少々お待ちください!」


 実はこの待っている間も勝負だったりする。心得ている出場者は、自身が一番魅力的に見える立ち姿を取っている。ポーズを決めたり、髪をなびかせたり、そういう細かな点が、後々の水着審査に影響することがわかっているのだ。


「ダメだ、ありゃ」


「そうですね」


 しかし、リーさんは完全にステージ上で固まってしまっている。表情が強張っていた。まさかここまで人前に出ることが苦手だとは思わなかった。よく本人が出場するって決めたな。


「はい! 集め終わりました! それではこれから水着審査に移りますので、出場者の皆さんは降壇して準備してくださいね!」


 司会の声を皮切りに、端から降壇していく。


「じゃあ、私らも行こうか」


「はい」


「そっすね」


 ガチガチのリーさんに、何か一言かけてあげなくてはならない。そして、オレにはもう一つやることがあった。


「すみません、オレ、ちょっとトイレに……」


「わかった。いい? 控え室に入る前には、ちゃんとノックするんだよ?」


「わかってますよ!」


 リーさんは控え室で水着に着替えるのだ。もしその最中に間違って入ったりしたら、オレの命がない。そんな情け無い理由で死にたくない。ぞろぞろとしばしの間、会場を後にする人の波に紛れて進んでいく。トイレは近くの場所は混んでいるので、あえて遠い方に行く。そして、シンシアにも一声かける。


「おい、シンシア。リーさん頑張ってんだ。出てきて応援してやってくれよ」


 返事はない。


「まだ怒ってるのか? もう許してくれよ。オレが悪かったからさ」


 それでも返事はない。


「おい、シンシア?」


 声をかけても返事や反応がないことは、よくあることだ。だが、今回は何かいつもと違った。まるで、シンシアが本の中にいないような、本自体が空っぽのような気がするのだ。


「……? 何だよ」


 この時、オレがもう少し、シンシアのことを気にかけてやれたら、後からあんな事態にはならなかったかもしれない。






 ふわふわする。何だろう。この感覚は。まるで、温かな水の中を、一人漂っているみたいな……。わからない。こんな感覚は初めてだ。

 シンシアは考える。何が起きているのだろう。わからない。わからない。

 あ、サクラが私を呼ぶ声がする。言わなきゃ、もうそんなに怒ってないって。私の方こそごめんなさいって。

 沈んでいく視界と思考の中、手を伸ばしたシンシアに、煌めくような光が降り注いだ。






『あれ、ここは……?』


 シンシアが覚醒した時、辺りの風景に違和感を覚えた。いつも、サクラの肩の上から眺めている光景と違う。何だろう、これは。


『わっ!?』


 気がつくと、自分は地面の上に立っていた。普段なら絶対にあり得ないことだ。


「あれ? あなたこんな所で何してるの?」


『っ!? わ、私は……』


 突如知らない男に声をかけられた。


「困るよ。関係ない人が舞台の裏にきちゃ。どこから入ったの?」


 その人はシンシアの腕を掴んで、外に誘導しようとする。


『え、え? 待って、これって……!』


 やっと気づいた。彼女、シンシアは、普通の人間と変わらない大きさになっている。


『ど、どういうこと……?』


「それはこっちが聞きたいよ」


 いやだ。怖い。何だこれは。わからない。わからない。


『そ、そうだ、サクラ!? サクラはどこ!?』


「あ、ちょっと! そっちは……!」


 男の手を振り払い、シンシアが駆け出したその先は……。

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