そろそろかな
四日目。今日は生徒会長選挙はお休みで、五日目に決勝があることになっている。オレを破った副会長は、準決勝も勝利し、同じく勝ち上がってきたカランザ先輩との決勝戦を闘うことになった。
だが、今日はそれどころではない。祭りの二大イベントの一つ、ミスコンの予選が開催されるのだ。今日予定されているのは約三十人の出場者の制服審査、水着審査、あとは軽い壇上挨拶である。
「うー、緊張してきました」
「大丈夫。あんた可愛いんだから自信持って」
生徒会長選挙同様、出場者にはそれぞれ控え室が与えられており、オレ達チーム299の面々が集合していた。
「ほら、ミナセもなんか言うことないの?」
こういう時水を向けられても、何とも困る。やはり女性を褒めるというのはなかなか気恥ずかしいものがあるのだ。
「そうですね、制服に関してはリーさんに一日の長があるから大丈夫だよ」
「褒めてるんですかね、それは」
予選は三十人前後の人数から、生徒らの投票と、特別審査員の投票で、上位七人が本戦に出場する。リーさんなら本戦出場は固いと言えた。
「そういえば、モミジさんはどちらに?」
「ああ、あの子には場所取りお願いしてるの」
生徒会長選挙は円形のスタジアムで、誰もが見やすい環境が整えられていたが、ミスコンは違う。前方こステージに出場者が並ぶので、あまり後ろの方に座ると、全くステージが見えなくなることが多々あるのだ。だが、モミジ一人で席とりは少し心配だな。校内の美女、美少女を一目見ようと、男子生徒らは鼻息荒くしている。もしものことがあるかもしれない。オレのそんな考えを察したのか、オーガスト先輩が笑って教えてくれる。
「大丈夫。ちゃんと私が座る場所ってきっちりわかるようにしておいたから、誰も手は出せないよ」
「そうですか。なら大丈夫かな」
全く、おっかない人である。いや、それで助かっている面も大きいんだけど。そんなこんなで、緊張するリーさんを落ち着かせていると、バンと勢いよく控え室の扉が開かれて、誰かが入ってきた。
『お主! 今年は誰に投票するかわかっておろうな!?』
じゃろ先輩だ。珍しく着物ではなく制服姿だ。流石は昨年のグランプリ。普段と全く違う格好でもよく着こなしている。
「はい。リーさんに投票しますよ」
『な、なにおう!?』
「いや、チームメイトなんだから当然でしょ」
「先輩、その言い方は……」
何故かリーさんまで頬を膨らまてしまった。
『ふ、ふん! まあ良いわ。お主が票を入れたくなるようなぱふぉーまんすをすれば良いのじゃからな!』
やはり自信満々だな。去年のミスコングランプリというのは、じゃろ先輩にとってもよほど嬉しいものだったのだろう。
『む、そういえばあのちびっ子精霊の姿が見えんの?』
「あ、ああ、それは……」
「おや、先輩まだ仲直りしてなかったんですか」
「まあ、ね」
「ちょっと、何かあったの?」
そういえばオーガスト先輩にはまだ伝えていなかった。昨日も結局会えなかったし。
「いや、それが、オレとシンシア昨日から喧嘩してまして」
『なんじゃ仲違いか。良いぞもっとやれ』
じゃろ先輩はシンシアへの敵愾心を隠そうともしない。まあ、いつもの通りだ。だが、その言葉を知ってか知らずか、シンシアが本から出てきた。
『ふん。別にちょっと喧嘩してるだけよ』
「何があったの?」
『サクラに白い液体をかけられたの!!』
「!?」
「ちょっとミナセ!?」
『お主!?』
「ちゃんと牛乳って言えよ!」
何故こうもいらん誤解を受けるような事を言うのだ。あと、みんな瞬時にピンときちゃうのね……。
「コ、コホン。ミナセ先輩が水精霊空想観察記録に牛乳をこぼしてしまったみたいで」
「はあ? あんた国宝を何だと思ってるのよ」
オーガスト先輩も呆れ顔だ。
『それは、精霊なら誰でも怒って当然じゃのう』
『でしょ?』
珍しくシンシアに同調するじゃろ先輩。また何やら室内がオレへの説教モードに移り変わろうとしたその時、校内放送が鳴った。
「ミスコン出場者の皆様は、舞台裏に集まってください。繰り返します……」
リーさん達の招集がかかった。
「お、そろそろだね」
『リーさん、頑張ってね!』
「は、はい……」
『ふむ。じゃあ、リー、共に行くとするかの』
皆の意識がパッとミスコンに切り替わった。よかった。そう何度も何度も正座させられたくはない。リーさんとじゃろ先輩が連れ立って控え室を出て行く。
「じゃ、私らも会場に行こうか」
「そうっすね」
さあ、楽しい楽しいミスコンだ。まだ会場に入る前から熱気が伝わってくる。毎年のことだが、男子生徒の熱の入りようが凄まじいな。
「あ、お兄ちゃん、オーガストさん、こっちです!」
会場のほぼ最前列。特別審査員席の真後ろに座っているモミジが手を振ってきた。
「ありがと、席取ってくれて」
「いえ、これくらいは出来ます」
早速オーガスト先輩との会話に入るモミジ。本当に懐いてしまった。将来ピアスとかタトゥーとかしたいと言い出したらどうしよう。お兄ちゃん許しませんよ!
「それにしても、凄い熱気ですね。座ってるだけでも汗かいちゃいます」
「毎年こんなもんよ。それに、これからが本番だから、覚悟しといた方が良いよ」
オーガスト先輩の言う通りだ。ミスコン出場者が並べば、会場はもっとヒートアップする。秋も深まる季節だと言うのに、毎年多数の生徒が熱気にやられて医務室に運ばれるのだ。
「さて、そろそろかな」
時計を確認する。壇上には、既に司会者がやってきて、開催の最終チェックをしていた。そして、会場中にブザーの音が鳴り響いた。ワッと観客らが盛り上がる。
「大変長らくお待たせしました! ただいまより、第二百七十八回、ミス皇立コンテストを開催いたします!」
学校中の美女、美少女を集めた祭典が、とうとう始まった。




