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応援してますよ!


 

 何とも聞き覚えのある目覚ましの音で、今日もオレは目を覚ます。右手を伸ばして、叩きつけるようにそれをはたいた。ガリ、と変な音がして目覚ましが止まる。本来、オレは目覚ましなんかは使わないのだが、今日は特別だ。


「うう、今日が来ちまったか……」


 ああ憂鬱だ。勉強していない試験の日だってもう少しマシなテンションだ。身体が重い。気分はもちろんだが、昨日の疲れが抜けきってないとわかる。


『あら、サクラおはよう。珍しいわね、目覚ましなんて』


「ああ、ちょっとな……」


 こうでもしないと起きれる気がしなかったのだ。流石に寝過ごしましたは通用しない。いや、正直それもありか?だが、それをする度胸が幾分たりない。


『でも、サクラがやる気あるなら、嬉しいわ。私も全力で闘えそうね』


 違う。逆なのだ。嫌で嫌でたまらないから、早く起きてしまったのだ。のそこそと重い身体を何とか動かしながら、朝の支度をする。一応大勢の人間に見られるのだ。小綺麗にしておかないとモミジに怒られる。顔を洗って、歯を磨いて、服は、これを着るしかないのか。昨晩、モミジがオレとオーガスト先輩の言いつけを破ってまで届けてくれたこの服。シャツの前と後ろに、「ミナセ靴店」と大きくプリントされた、この服を。


『に、似合ってるわよ!』


「まだ何も言ってないだろ」


 確かに生徒会長選挙となれば、たくさんの人目につく機会だが。でも、どうしてオレがこんな格好をせねばならんのだ。え、なにウチの店ってそんなに経営ヤバイの? サイウェストでは腕の良い靴店で知られてるはずなんだが……。

 そうこうしていると、部屋のチャイムが鳴った。だいたい予想はつくが、とりあえず出てみる。


「おはようございます。ジークです」


「ん……おはよう」


 やはりか。それだけ言ってドアを閉めようとすると、ガッと脚を突き入れられた。


「何故閉めるんです? 外でリーさんがお待ちですよ?」


 ググっとすごい力でドアが全開にされた。ジークの声には少し怒気が含まれているように感じる。昨日の予選でオレがしたことのせいだろう。


「あの、怒ってる?」


「はて、何のことでしょうか」


 ニコニコと微笑みを崩さないジークだが、どうもその表情の裏に隠された、圧力みたいなものを感じる。


「応援してますよ。それに、リーさんがずっと下で待ってます。早く行ってあげて下さい」


 いつのまにお互い顔見知りになったのだろう。そのおかげで女子禁制の寮だと言うのに、リーさんのオレへの影響力が絶大だ。


「仕方ねぇなぁ……」


 トボトボ。本当にトボトボという足取りで外に向かう。今から闘いに行く人間の歩みとは到底誰も思わないだろう。そして、リーさんは寮の玄関の目の前に立っていた。


「あ、おはようございます、先輩。連行に来ました」


「そこは嘘でもお迎えにあがりましたって言ってよ」


 本当身も蓋もねぇな、この娘。


「そうですね。でも、先輩が普通に出て来てくれたことには驚いていますよ。昨日の様子だと、ベッドから動かないかもしれないと思ってましたから」


 そんなネガティヴな方向に感心されても全然嬉しくねぇ。


「さて、行きましょうか。時間には余裕を持って行動したいですしね!」


 そう言うとリーさんは、持っていたバックなら縄のような物を取り出して、オレに巻きつけ始めた。


「いや、これは何?」


「先輩の逃亡防止策です。ちなみに発案はオーガスト先輩と乙姫先輩です。皆さんすごく先輩を気にかけらっしゃいましたよ」


「……」


 いや、だからそんなネガティヴな方向に気にかけてもらっても全然嬉しくねぇってば。終いにゃグレるぞ。どうにも表情が渋くなるのを抑えられない。まさしく連行だな。おかげで祭りの二日目にやってきた人達の注目の的だ。そして、一部の人間、つまり図書士官学生たちが妙に納得した表情をするのにも腹が立つ。

 本来、生徒会長選挙に出る人間というのは、学生たちの英雄に近い。こうして道を歩いていれば、応援の一つでも掛けて貰えるのが普通だが、そんな様子は全くない。まあ、オレが今日対戦する相手が相手だから仕方ないのかもしれないが、こんな雰囲気だと、会場はオレへのヘイトがかなり高まってるな。どんどん嫌な気持ちになってくる。

 だが、どんなにオレが嫌がろうが、抵抗しようが、現実は残酷に迫り来る。今日の対戦会場、大演習ルームはすぐそこだった。


「うわ、すごい人ですね。やはり本戦だからということでしょうか」


 まだ対戦時間まで二時間近くあると言うのに、大演習ルームの出入り口前には、長蛇の列が出来ていた。


『毎年こんなもんだけどね』


 シンシアが何故か胸を張って答える。こいつは少し目立ちたがりな所があるから、満員御礼は嬉しいのだろう。


「さて、我々はこっちです。逃げちゃダメですよ」


 リーさんが縄をギュッと持ってオレを引いて歩いて行く。出場者専用の控え室が用意されているのだ。大演習ルームは世界樹の幹の10階にあるので、専用入口から階段を登る。


「お、来たんだね。意外」


 控え室の扉を開けると、オーガスト先輩とモミジ、そして何故かじゃろ先輩がいた。


『おお、来おったか。って何じゃその顔は。これから闘いに出る武士の顔ではないのう』


 苦笑いするじゃろ先輩。いつもの着物姿で机の上に腰掛けていた。モミジはそんなじゃろ先輩から隠れるようにして、オーガスト先輩のそばにくっついている。すっかり懐いちゃったなぁ。モミジが不良への道へと足を踏み外さないか、お兄ちゃんは心配だ。

 皆いつもの通りの姿だが、オーガスト先輩は一人、演習用のジャージ姿だった。灰色のジャージの上にいつものパーカーを羽織っている。何ともアンバランスなその格好を見つめていると、


「ああ、これ? 出場者のセコンドに立つ人間は、このジャージじゃないといけないの」


「ってことは……」


「そう。私がセコンド」


「よ、よろしくお願いします」


『本当は妾が立ちたかったのじゃがのう。ちーむめいとじゃないとダメらしいのじゃ』


 そうだっけ。去年オレがじゃろ先輩のセコンドに立った時は、そんなルールはなかった気がする。残念じゃのう、とじゃろ先輩。


『じゃが、どれ、うぉーむあっぷは妾が手伝ってやろうぞ』


「いや、遠慮します」


 この人とアップなんかしたら、疲れ果ててしまう。正直、身体のことはどうでも良かった。それより重要なのは心の問題。覚悟が決まるかどうかだ。


「あ、ちなみに」


 オーガスト先輩がニヤニヤしながら教えてくれる。


「会場は満員。その全員が、向こうのファンだよ」


「う……」


 くそ、予想はしてたが、改めて言われると、やっぱり辛いな。元来オレは小心者なのだ。


「で、でも!」


 モミジの声だ。


「私達は、お兄ちゃんの味方だよ!」


「……!」


 見回すと、皆が皆、オレのことを見て微笑んでいた。


『ま、そう言うことじゃな』


「一応ね」


「応援してますよ!」


 そうか、そうだよな。何となく、自分一人だけで闘わないといけない気がしていたが、そうではない。確かに少ないけれど、わずかだけれど、それでもオレには仲間がいる。


『私もいるよ!』


 シンシアがオレの肩でピョコピョコはねる。


「おう、そうだな!」


 そっとシンシアの頭を撫でる。よし、覚悟は決まった。


『ほう、少しはマシな顔になったのう』


 じゃろ先輩が笑う。


「あんたさ、元々主役タイプじゃないんだからさ、悪役くらいのつもりで、胸張っていきなよ」


「うす」


 悪役だって味方はいる。ここにいる皆に、オレの覚悟を見せてやろう。


「勝ちに行きますよ」



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