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持て余しちゃうよ!


「ここがお兄ちゃんの住んでた場所?」


「今は見る影もないけどな」


 燃えてしまった建物の残骸は、綺麗に撤去されて今は更地になっている。そろそろもう一度集合家屋を建て直す工事が始まるはずだ。


「本当に燃えちゃったんだね……。こうして実際見るまでは嘘だと思ってたけど」


 兄を信用してなかったのか。手紙で言ったじゃん。事件に巻き込まれて全焼したって。


「いや、お兄ちゃんの能力からは一番考えにくい被害じゃない。燃えたって」


 確かに、水精霊を操る図書士の自宅が全焼したとか。プロならそいつに二度と仕事はこないような失態だ。


「いや、まあ状況が状況だったからなぁ」


 あの時は自分の命を守るのに精一杯だったのだ。オレの住んでいた場所に二人でやってきて、想いを馳せる。まさかそれが兄の言葉を信じてないが故のことだとは思っても見なかったが。


「さて、もうわかっただろ? お兄ちゃんは今寮で生活してるの。何もモミジは心配しなくていいんだよ」


 更地を見せられてもあまり説得力はないかもしれないが、そう言うことだ。


「ほら。そろそろ今日の宿に行こう。観光するにしても荷物が邪魔だろう」


 モミジは店の仕事を休んで一週間ほどこっちにいる予定だった。本当ならオレの部屋に泊めてやりたいが、あいにく寮は女子禁制だ。


「そうだね。でもお兄ちゃん。私観光に来たんじゃないの」


 あ、いかん。嫌な予感がする。


「お兄ちゃんの仕事ぶりを見にきたの!」


 やはりか。うすうすそうではないかと考えていたのだ。いくら住む場所を失ったとは言え、それはもう随分前の話だ。新しい住居もその日のうちにゲットしていて問題はない。確かに、そんな重要なことを実家に報告しなかったのはオレの怠慢だが、そのことを叱りにくるにしても手紙だけで十分だ。わざわざ、オレの制止を振り切ってまでレーゼツァイセンに来たことには、モミジなりの理由があると思っていたのだが、それがこれか。


「お兄ちゃんがチームの皆さんに迷惑かけてないか、ちゃんと調べないと! もう一人のチームメイトさんにも挨拶したいし!」


 リーさんに対してもきちんと挨拶できたかどうかは微妙なところだし、第一、今のモミジがオーガスト先輩と対面して口が聞けるとは思えない。それに、これはオレにとってもあまりいい状況ではない。


「お兄ちゃんならチームメイトさんに迷惑かけてるってことはないだろうけど、一応身内としてね」


 そう、モミジはオレの学校生活の堕落ぶりを知らない。留年したのだって皇立図書士官学校のカリキュラムが特別難しいからだと思ってる。まあ間違いはないのだが。

 オレがモミジにレーゼツァイセンに来て欲しくなかった理由、道中の危険もそうだが、やはり一番はオレの評判や素行の悪さを知られるわけにはいかないという点だ。そう、オレのこの一週間のミッションは、モミジにオレの堕落ぶりを知られることなく、過ごすこと。できることなら兄はきちんと成長していると錯覚させてサイウェストに帰したい。


『これを機にきちんとしようって思えないのがダメな所よね』


「うるせ。ほら、モミジ。宿はこっちだ」


「うん」


 今回のモミジの小旅行の宿の手配はオレが行っていた。予算はある程度聞いていたので、それで泊まれる一番いいところを探しておいたのだ。女の子一人が一週間泊まるには、少しばかり豪華な宿だ。半分は見栄だが、あと半分は安全を考えてのことである。


「すみません。予約していたミナセですが、はい、はい」


 フロントのお姉さんからカギをもらう。三階の隅の部屋だ。


「よし、ここだな」


「うわぁ、すごい! 世界樹が見えるんだね!」


 この街のシンボルだ。大抵の宿は、世界樹が見えるような方角に窓を取り付けてある。


「それに思ってたより全然広い! お兄ちゃん、こんなの私一人じゃ持て余しちゃうよ!」


「それくらいでいいんだよ」


 一人旅といえど、同伴者がいると見せかけることも大事だ。じじいもそれくらいは分かってモミジの予算を組んでる。


「観光目的じゃないって言っても今日はチームの仕事はないんだ。少し休んだらどこか見て回るか?」


「うん! やっぱり世界樹には登りたいかなぁ」


 ある程度の高さまでは一般人でも中を登れるようになっている。そこから景色を見るのもまた、世界樹の楽しみ方の一つだ。


「わかった。ちょうど陽も沈むし、夕焼けを見に行こうか」


 どうよこのお兄ちゃんぶり。お兄ちゃんの世界大会があるのなら、いい線いけるんじゃないか。

 その後はさっき言った通り二人で世界樹に登り、夕焼けを見て、そのまま世界樹内にあるレストランで早目の夕食をとった。そこそこまとまった額のお金が飛んだことは言うまでもないが、モミジのためなら喜んで支払う。


「それじゃあ、また明日ね」


「ああ、今日はもうフラフラせずに宿にいるんだぞ」


 わかってるよ、そう言ってモミジは部屋の扉を閉める。しっかりカギをかけたことを確認してから、オレも寮に帰ることにする。


「ふう。この調子であと六日、しっかりやらないとな」


 問題は明日からだ。気をしっかり引き締めて行かないとな。オレの堕落ぶりは案外簡単にバレる類のものなので、本当にギリギリのミッションなのだ。

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