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何かテキトーに


「図書士協会特務隊第二隊所属『転』二級図書士・リュウ・グレンカさん、ですか」


「長ったらしいでしょ、リュウでいいよ!」


 受け取った会員証を返しながら、リーさんは困惑している。場所は再びチーム299の個室に戻っていた。ちなみに、図書士階級は起、承、転、結とそれぞれ四段階、さらに細く三級に分けられており、「転」二級というのは、上から五番目の階級だ。


「この度、星六魔書契約者、サクラ・ミナセの適正審査に参りましたってね!」


 ニャハハ、と豪快に笑うリュウ。まあ、つまりはオレのお目付役である。


「確か、未成年が強力な魔書と契約した場合の監視、管理が目的でしたよね」


 未成熟な精神には持て余す強大な力を持った子供らを、正しく導く、協会の一制度だ。


「三年間、毎年一回審査があるんでしたか」


「まあ、サクラ・ミナセは五年だけどね」


 星六魔書という規格外の魔書と契約したオレは特別仕様だ。全然嬉しくねぇ。


「まぁ、それが今年もやってきたってことさね。しばらくはこっちにいると思うから、よろしくね!」


 よろしく、と言われても、何をどうしたものか。リーさんが目でオレに訴えてくる。だが、オレだってそんなことわからない。例年通りなら、しばらくこの女にストーカーされる日々がやってきただけなのだが、今年は少し違った。


「別に、あんたの肩書きとかどうでもいい。さっきのふざけた真似はなに?」


 オーガスト先輩の機嫌が最悪だった。リュウに片手だけで軽くあしらわれたことに、彼女のプライドがいたく傷つけられたらしい。眉間にぐっとしわを寄せて相手を睨む。


「ニャハ、元気いいねぇ。私そういう娘は好きだよ!」


 からかうような態度で答えるリュウに対し、ますます先輩の怒気が膨らむ。一触即発の空気に、オレとリーさんはゴクリと唾を飲みこみ、身構える。しかし、そんな雰囲気をぶち破った声があった。


「おいおい、さっきもそうだが、またドンパチ始める気かい? そいつはちょっと、オススメしねぇなぁ」


 喋ったのはオレではない。リュウの後ろの壁に立てかけられたハンマーだ。


「な!? しゃ、 喋った!?」


 リーさんとオーガスト先輩が目を丸くする。一気に二人の興味がハンマーへと移りかわった。しかもこのハンマー、喋るだけでは飽き足らず、一人でに空中を舞うと、オレ達が向かいあって座った机の中心に降り立つ。


「リュウは特務隊の中でも武闘派だ。嬢ちゃんたちが十人いたって傷ひとつつけらんねぇぜ?」


 机の上でくるくる回りながらハンマーは続ける。それをポカンと見上げる二人。


「この子はねぇ、ただのハンマーじゃないよ。そもそもハンマーですらないのさ。星三魔獣ハンマルって言ってね。使い手に最も適した武器に変化する特性を持った、お姉さんの相棒さ!」


 リュウの説明を聞いているのかすら判別できないほど驚いてる二人。


「そ、そんな魔獣がいるんですか……」


「まあ、もちろん珍しいけどね。オーガストちゃん。試すようなことしてごめんね。気を悪くしちゃったかな。でも、何て言うか、お姉さんの職業病のみたいなものさ。若い子をみると、つい力を見てみたくなるんだよ。だから納得してくれないかな」


「う、うん。わかったけどさ」


 オーガスト先輩もすっかり毒気を抜かれたようで、素直に頷く。


「で、わかったから。いつまでいるつもりなんだ?」


 オレの問いにリュウは首をかしげる。


「それがねぇ、ちょっと分かんないんだよ。今回サクラ・ミナセの審査はむしろついででねぇ。別件の仕事で来てるもんだからさぁ」


『別件って?』


「君たちも良く知ってるだろ? 火焔兎事件の後始末というか、調査というか。あとから他の特務隊の連中も合流するよ」


「は、はぁ」


 これは少し以外だった。火焔兎事件は、レーゼツァイセンの街単位で考えれば、確かに大事件だったが、この皇国単位だとそれ程のことではない。協会の虎の子の特務隊がわざわざ出張るような事件ではないはずなのだ。


「あ、ちなみにうちの隊の副隊長も来るから。サクラ・ミナセ、挨拶しときなよ?」


「うぇぇ、マジかよ」


 特務隊第二隊の副隊長は……


「第二隊の副隊長さんって、確かミナセ先輩のおじさんに当たる方でしたよね」


「……何で知ってんだよ、リーさん」


 怖いなぁ。どうしてこの娘はここまでオレの情報に詳しいんだろう。

 へぇ、すごいじゃんと、オーガスト先輩が感心したように呟く。特務隊は皇国の図書士の中でもエリート中のエリートだけが配属される場所だ。この学校の卒業生の約三十分の一が就職する。その中で、オレのおじさんは三十六歳の若さで副隊長に任命された、言わば一族の誇りである。

 ただ、このおじさん、いい人ではあるのだが、エリートらしく、少々ストイックな点もあり、オレは苦手としているのだ。いい人が苦手って、オレの人間性の低さがよく見て取れる。


「それ、だったらこんなとこで油売ってないで、とっとと合流して仕事しろよ」


 そしてとっとと帰ってくれ。


「なぁに、その態度は。冷たいなぁ。あ、美人にばっかり囲まれてるから、私みたいな年増には興味なくなっちゃった? お姉さん、寂しい!」


 昔はあったみたいな言い方はやめて欲しい。


「あーあ。寂しくなったら喉が渇いちゃった。サクラ・ミナセ、何か買ってきて!」


「どう言う理屈だ」


「あ、それでしたら私が……」


 流石リーさん。自然に面倒ごとを引き受けてくれようとする。スッと席を立とうとしてくれた。しかし、


「いや、サクラ・ミナセが買ってきて。私の喉を満足させられる飲み物がわかってるのは、あんたしかいない!」


 えぇ、なに言ってんだこの人。


「お酒は買えねぇぞ?」


「じゃあ何かテキトーに。ほらほら、早く行った行った! お駄賃あげるから!」


グイグイとオレの背中を押してくる。


「もうそんなのに飛びつく年でもないんだけどな」


「うそ」


 オーガスト先輩が小さく呟く。結局、追い出されるように、部屋から出された。買いに行くしかないのか、仕方ない。


「シンシア、リュウの好みってわかるか?」


『さあ、あの人、食べ物飲み物だったら何でも好きじゃない。本当に適当でいいのかもよ?』


 うむ。何でも良いが一番困るのだ。よくお母さんに言われなかったか? その日の食べたい物とか聞かれて「何でも良い」と答えると怒られるやつ。

 まあ、そんなことはどうでもいい。喉が渇いたって言うなら、清涼飲料水がいいだろう。いつものように、校内の売店に向かうことにした。

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