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山賊母さん

山鬼母さん(仮)

掲載日:2015/07/11

 日本には古くから、子供を神として尊ぶ童子信仰がある。子供には神秘的な力が宿ると考え、信仰の対象とするのだ。その為に人智を超えた存在に、異界の者の総称の意味合いとして“童子”の名を付ける事がある。“酒呑童子”や“茨木童子“などの鬼の類を童子と呼ぶのはこの一例だし、ねずみ小僧の“小僧”も童子信仰に通じている。

 

 ――戦国時代。ある地方を治める伊奈可家は、勢力を拡大し続ける岩臥元万という武将に、戦わずして降伏してしまった。

 最終的には全ての家臣がそれに同意したのだが、家臣達を説得したのは、初めから臆病風に吹かれてただただ戦う事を恐れた領主ではなく、草原介達という少々不思議な雰囲気のある参謀の一人だった。

 戦で民が苦しむ事になるのは何としても防ぎたいと、草原は皆を説得したのである。もっとも、大きな懸念もあった。岩臥元万という男は圧政を強いる事で有名で、重税を課して民を苦しめるのは明らかであるように思えたのだ。

 戦の被害から民を救っても、そうなってしまってはあまり意味がない。

 草原もそれは分かっていた。だから彼は、なんとしても岩臥元万を説得してみせるとそう言っていたのだが、それは普通に考えれば難しそうに思えた。

 ただし。

 この草原という男、妙に知恵の働くところがある。だから何か策があるのでは、と家臣達はそれに一縷の希望を託してもいたのだった。

 

 夜。

 天守閣。

 そこまで昇って、侵略者である岩臥元万は目を丸くした。子供が二三人、はしゃいで遊んでいたからだ。薄暗い中を「キャッキャ」と走り回っている。

 「これはなんとした事か」

 と、それを見て元領主の伊奈可恵三は慌てる。

 「草原介達! いったい、どうして子供達を、こんな時にこんな場所で遊ばせているのか? 新しい領主の岩臥元万殿が来ていらっしゃるのだぞ?!」

 そして、これからこの土地を統治するだろう岩臥元万の目を気にし、そう言って草原を詰問した。しかし草原は全く動じず、落ち着いた口調でこう返す。

 「はぁ、子供達が遊びたいと言いましたので。この土地では童子様を信仰していますので、子供を大事しなければいけません」

 幸い岩臥元万の機嫌はそれでは損なわれなかった。その場に座り込むと、

 「ふん。童子信仰か」

 と、そう言って子供の一人を軽く睨みつけた。子供はそれを気にせず、相変わらず走り回っている。それが気に食わなかったのか、子供が近くにまでやって来たところで彼はその子の首根っこを摑まえると、「くだらん!」と大声を上げて、子供を思い切り引っ叩いた。当然、子供は大泣きをする。

 元領主は慌てる。

 「ああ、いけません。岩臥殿。この土地で子供を傷つけては……」

 それに岩臥は笑う。

 「何を怖がっている、伊奈可よ? 童子信仰なんぞ、迷信じゃ。童子に不思議な力などあるものか。神聖な力を持つとかいうなんとか童子様とやらを、この儂は殺してやった事もあるが、何の祟りもなかったわ!」

 元領主は困惑しながら言う。

 「いえ、そうではなく……」

 しかし岩臥は「くだらん」とやはりそれを意に介さない。

 が、その時だった。

 天守閣の一角が、突然に激しい破壊音と共吹き飛んだのだ。見ると、壁が壊され、そこから金棒を持った女が覗いている。

 女は言った。

 「可哀想な子供の泣き声が聞こえてきたんだけどねぇ……? まさか、誰かが子供を虐めたんじゃないだろうねぇ?」

 元領主は叫んだ。

 「嵐花雷火らんからいか様! いえ、これは……」

 そう言い訳をしようとしている元領主を無視して、嵐花雷火らんからいかと呼ばれたその女は、子供を虐めているだろう岩臥の姿を捉えた。口を開く。

 「草原! なんだい、こいつは?」

 草原介達は淡々と答えた。

 「これから、新しくこの土地を治める事になる岩臥元万殿です」

 「ほぅ…… それで、この土地で子供を大事にしなかったらどうなるのか、こいつにちゃんと教えてやったんだろうね?」

 ところが、そこで岩臥は、自分が連れて来た部下達に嵐花への攻撃を命じてしまったのだった。

 「何をしているお前ら! さっさとあの女の賊を殺せ!」

 それを受けて、一人が刀を持って斬りかかる。しかし、嵐花はそれを軽く金棒を振るって吹き飛ばしてしまう。動かなくなった。今度は別の一人が嵐花に向けて弓矢を放つ。彼女はそれを片手で掴み取ると、「子供に当たったら、どうするんだい?」と、一瞬で間合いを詰め、その弓矢を使った男も吹き飛ばす。やはり動かなくなった。

 それを見て、戦慄きながら岩臥は元領主に尋ねる。

 「伊奈可よ。この女はなんだ?」

 元領主は怯えながらこう答える。

 「この土地の守り神、嵐花雷火様という山に棲む女の童子様…… つまり、鬼です。嵐花様は大変に子供が好きでして、もし、誰かが子供を虐めたりすれば、このように大変にお怒りになるのです」

 それを聞くと、岩臥は「なんだと……」とそう呟いた。その後で、金棒を肩に乗せ、ぽんぽんと叩きながら嵐花は言う。

 「で、ちゃんと、こいつに“子供を大事にしろ”と教えたんだろうね、草原?」

 草原介達は淡々と応える。

 「はい。伝えましたが、岩臥殿は童子など殺した事もあると言って、意に介しませんでした」

 それを聞いて岩臥は慌てる。

 「いや、違う。儂が言ったのは、鬼の事ではなく、子供の事で……」

 しかし、そう言った後でハッと気づく。最悪な事を言ってしまった。案の定、嵐花は彼を睨んだ。彼は嵐花雷火の逆鱗に触れてしまったのだ。

 「子供を殺しただぁ?」

 そう唸るように言う。岩臥は言い訳をしようとしたが、もう手遅れだった。

 「可愛い子供に、なんて事をするんだいっ!!」

 そして、それから嵐花は、岩臥の事を金棒で吹き飛ばしたのだった。それで、岩臥は、即死した。

 

 あちこち破壊された天守閣。子供の無事を確認した嵐花雷火は、既に帰っていた。元領主から、たった今現領主に戻った伊奈可が、恨むような口調で草原に言う。

 「そうげぇぇんん! 貴様、謀ったな!」

 草原はそれに首を傾げた。

 「はて、なんの事でしょう?」

 「煩い! 頭首が死んでしまったのだぞ? 一体、岩臥家には何と言えば良いのだ?」

 「そのまま仰せになれば良いでしょう。神仏霊異の事々は、人の領分を超えています。神の祟りではどうしようもありません。残った岩臥殿の部下の皆さまも事の経緯をちゃんとご覧になっていますし」

 「それで岩臥家が、納得するかぁ! 絶対に、戦になるぞぉ!」

 

 ……ところが、それから岩臥家は伊奈可家を罰しようとはしなかったのだった。どうも岩臥元万の圧政には、岩臥家の者達も反対していたらしく、むしろその岩臥元万の“不慮の死”をありがたがっているようだった。

 草原介達は、それを見越して、この計画を立てたのだ。

 

 「嵐花様のお怒りに触れないよう…… いいえ、例えそれがなくても、子供は大切にしましょうね」

 

 そう彼は、皆の前で言った。

和風にしてみました。


興味を持ってくれている方が、どれだけいるのかは分かりませんが、

山賊母さんの続編が、そろそろ書き終ります。

2015年の7月26日(日)辺りから、連載し始めるつもり。

まぁ、それだけです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなるのだろうどうなるのだろうとハラハラ読み進め、最後にスカッとできました。 童子信仰というのも興味深かったです。 [一言] 初めまして、こんにちは。面白い作品をありがとうございました。…
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