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自分と生き残りと亜人類に贈る、たった一つの日記

作者: 紫 和春

 「宇宙船地球号」という言葉を知っているかい?昔誰かが月から撮られた地球を見て言った言葉らしい。

 地球は宇宙に浮かぶ船なんてよく思い付いたもんだよ。きっと想像力が凄かったんだろうね。太陽の周りをただひたすらに回っていただけなのに。

 そんな人でも今の地球の置かれた状況を予測することは出来なかっただろう。地球が本当に「宇宙船」になってしまったんだからね。


 どうしてこうなったか、歴史を少しさかのぼってみよう。

 始まりは謎の大質量物体の太陽系通過事件からになる。突如として現れた観測不能の物体はまず海王星に直撃した。その後水星に直撃、小惑星帯を貫通、木星に至近距離での通過とたった4年でこれだけのことが起きたんだ。ただ人類も指を咥えて見ていただけではないよ。水星、小惑星帯、木星で起きた事を観測して計算し一つの答えを導きだす事が出来た。それが、「直径10km程度の地球上には存在しない超硬質物体が、光速の99.99%まで加速した事による人為的な行為」という仮説にね。

 流石に無理があったかもしれない。でもそうでもしなきゃ説明が付かない。自然の摂理と同じようにこの仮説は直ぐに世間に浸透していったんだ。

 そして恐れていた事が起こってしまった。

 それまでも超硬質物体によって地球の公転軌道は僅かにズレていた。そこに超硬質物体が地球のそばを通過したもんだから地球は公転軌道から完全にズレたし、それのせいで地上にあった物は空に浮いたり横に吹っ飛んだり地面にめり込んだりと災害とは一言で言えないほどの被害が出たんだ。

 さらに悪い事にズレた地球の軌道は太陽に対するスイングバイ軌道に乗っかっていたんだ。太陽に直撃はしないけど一回近付いて離れるんだ、灼熱地獄の後は半永久的氷河期のコンボだよ。地球がハビタブルゾーンより内側を通ることによって地上の水はどんどん蒸発していき、スイングバイで第3宇宙速度を超え太陽から離れて氷の世界がやってくる。その事に2日で気付いた人類は当時世界中にあった6つの巨大地下シェルターに詰められる物を全て入れ身を潜める事でやり過ごすことにしたんだ。やがて太陽に最接近すると地球の表面温度は低くても100℃に達したらしい。ある人はこの時地球は水星の公転軌道の内側まで来たのではないかと考えたみたいだ。その後地球は8年かけて太陽系外縁体(エッジワース・カイパーベルト)に到達、さらに時間をかけて現在は太陽系外縁天体の代表である冥王星を通り越して早600年が経とうとしている。


 さて、地球がスイングバイ軌道に入った頃から人類は地下に閉じ籠ったままだけど実際はずっと閉じ籠ってた訳ではない。軍や自衛隊といった人間は定期的に地上に出て様々な観測をしたんだ。どうにかして地球を元の軌道に戻せないかいろんな方法を試したようなんだけど結局は上手くいかなかったみたいだよ。


 地球は今もなお、太陽から離れ続けているよ。まだオールトの雲までは約9兆km、時間にしておよそ1億年ぐらいかかるけどね。まぁ、そんなこと僕には関係ない事なんだけど。それにこのままではあと20年で人類は滅ぶとも言われてるし、僕は楽しく生きようと思う。


 僕はたった1日分しか書かれてない日記帳を持って地上に出ることにしたんだ。浅はかな考えだけど地下に置いといて潰されるより、地上で氷漬けにして誰かに読まれた方が僕は嬉しい。

 そう思ってる。


 そろそろお別れの時だ。

 また会える日を楽しみにしてるよ。


     2725年 5月 24日 エイタ

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