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「現実の形」

 仕事が終わって部屋に戻った涼は、ふと自分の下腹部に手をやった。

 そこにある、まだ一度も使ったことのない、偽物の女性器に触れていた。


 「これ」は大丈夫だろうか。間違っていないだろうか。もし男に抱かれるときに、違和感を感じられたらどうしよう。

 インターネットで女性器の無修正画像を探し回ったり、図書館で医学書にかじりついたりして情報を集めた限りでの印象では、形は人それぞれのようだ。

 しかし人それぞれとは言っても、許容される幅というものがある。自分のものは、そこから逸脱してはいないだろうか。


 たまには男に口説かれることもある。しかし、いつもそういった悩みを抱えているから、ある一線を越えることができない。

 自分の正体をこっそり明かし、それを知った上でもなお自分を抱こうとしてくれる人なら問題はないのかもしれないが、それでは全く意味がない。本末転倒とは、まさにその事だろう。


 まだ不完全だ。体の形だけは取り繕うことができているわけだが、全体の完成には、まだまだ程遠い。

 今日、バイト仲間としたやりとりも、完璧だったとは言いがたい。


 疑われるのが、怖い。疑われた段階で、終わりだと思っている。

 できるだけ完璧に嘘をつかないといけない。自分が何を言ったか、忘れてはいけない。


 一人の少女の物語を事細かに綴ったノートは、今までに何冊作ったかも覚えていない。

 矛盾はないだろうか、不自然な点はないだろうか。見直せば見直しただけ、どこかがおかしい事に気付く。


 当たり前だ。今となっては後悔の種だが、以前は同年代の女を内心敵視していたので関わりを避けていたし、ひとりっ子で姉妹もいなかったしで、少女というものがどういう生活をしていたかなど、何も知らない。

 知らない事について、どれだけ完全に話を作り上げる事ができるだろうか?


 今でこそ、ちょっと探してみれば、女子中高生のブログなどを見つけて、どういうものかを垣間見ることはできるかもしれないが、「現在の少女」では、大いに参考にはなるのかもしれないが、それ以上にはなりえないだろう。


 同年代の女に……例えば今日話したバイト仲間。結構仲がいいと思う。あの子に本当の事を話して、情報提供をしてもらおうか?

 そう思ってすぐに、涼はその考えを打ち消した。リスクが大きすぎるし、仮に自分について理解を示してもらえたとしても、真実を知っている人間は、やはり少ないに越したことはない。理想としては、ゼロであって欲しいからだ。


 やはりちょっと探してみれば、涼と似た境遇の人間の互助会のようなものは、すぐ見つかる。

 しかし涼は、自分のような人間の権利がどうのこうのという、ややこしい問題に興味はない。全くないとは言わないが、深入りしたくない。目立ちたくない。

 何より、そんな物の仲間に入るというのは、自分が「元男」である事を、不特定多数に向けて大声で宣伝するに等しい行為ではないか。

 そんな事は、やりたい奴が勝手にやればいい。徒党を組んで、私は心は女なのだとか大騒ぎする仲間に入りたくはない。


 活動方針や目標が、そのまま組織名になっているようなNPOもちょっと覗き見したが、思った通りの体たらく。活動内容や実績にあまり自信がないから、名前だけでもいかつくしようって事かななどと、かなり性格の悪いことも考えた。


 はっきり言って、見てて鬱陶しいけど、全くの害悪でもないかな。

 進んで目立とうとしてる奴には目立ってもらおう。あいつらが悪目立ちすればするほど、こっそり生きていくには好都合かもしれないから。

 だからやっぱり、関わらないに越したことはない。涼は、そう思っている。


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