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「繰り返す夢」

 この夢を見るのは久しぶりだ。いや、この夢の中で、こうあっている夢を見るのは久しぶりだ。

 夢を見ていながら、涼はそう自覚している。

 この状態が久しぶりだ。夢を夢と自覚しながら夢の中にいる。明晰夢と言うのだったか?


 涼太と言う少年が、何か十字架のようなものに拘束されている。そして涼は、刃物を持ってそのそばに立っている。

 涼太を日頃から殺したいと思っているにもかかわらず、持っているのは刀や槍といった威力の高そうなものではない。包丁だった。殺傷力は十分なのだろうが、深く考えると目が覚めてしまうから、その事については深く考えず、手持ちの包丁で何をすればいいのかを考えた。

 決まっている。切り落とすのだ。あれを。


 心臓あたりを一突きしてしまう事も考えたのだが、何故かそういう気にはならない。

 自分が見ている夢なのに、何か自分とは関係のなさそうな考え、妙な流れのようなものに乗せられたまま、涼は泣き叫ぶ涼太の性器を切り落とそうと刃物を近付ける。


 ……目が覚めた。

 夢の中で自由に動けるはずのこういう時ですら、涼太を殺す事もできず、現実ではすでにしているはずの、「切り落としてやる」事もできない。

 いっそ刺し殺す事を選んでいれば良かったのだろうか? いや、今回もきっと駄目だっただろう。今までも、その瞬間に目が覚めてしまっていたのだから。涼はそう思ってため息をついた。


 やはり、こいつとは何かしらの和解策を講じたほうが良いのだろうか。

 気に入らない者は全て拒絶する、やっつける、それしかできないほど若くはないというか、それだけのバイタリティも最近はない気がする。喜ばしくはないが。


 とはいえ和解の手段を考えても特に思いつくでもなく、思いついたところで、それが実行できるような事であるのかないのかも分からないので、涼はその事を考えるのはとりあえずやめた。



「そろそろ、何のためにそんな事したのか、答えは出たかい」

 起きてからしばらくして、食事を作ろうとした時に鳴った電話の相手は、アキラだった。しばらく何ということもない世間話をしていたが、急にこの言葉を向けられた。

「答えなら元々あるつもりだけど。こうなるために、こうした。それじゃ駄目なの?」

「陳腐よねえ、相変わらず」

 アキラが殊更に女言葉を強調して喋る時は、誰かを煽る時だ。それは知っているし、今煽ろうとしている対象は自分なのだろう、それも分かっている。

「たまには、大宇宙の偉大な意思に命令されたとか、性転換しないとテロリストに囚われた家族の命が危ないとか、もうちょっと面白い動機聞かせてもらいたいものね。あなた以外にも言える事だけどさ」

「で、そんな事言うために電話してきたの?」

「ああ、悪い。なんていうか、自殺でもしてないか心配になっちゃって」

「今のところ、する理由ないけど」

「ならいいんだけど。最近一人、死んじゃったからな」


 アキラに聞かされた名前は、まあ一応友人関係だから知っている、そんな程度の名前だった。

 大体察しはついていたが、涼と同様に、したい事はやりきったのだが、そうなってから自分の将来に絶望し、死ぬことを選んだとの事だ。


 そうなんだ。ご愁傷様。涼はその程度の気持ちしか持たなかった。悪い人ではなかったから、もう少し優しい事を考えても良さそうなものだ、と自分で思いはしたのだが、あまり考えてもどうしようもないから、それ以上考えるのはやめた。


 電話を切った後、涼は考えていた。その死んだという友人の事ではなく、自分についてだ。

 いつも考えてはいる。いるのだが、特に斬新な思いつきや気付きがあるという事もなく、結局はぐだぐだになってしまう。

 将来を悲観している事はない。将来に別段希望を抱いているわけではないからだ。このまま平穏に過ごしていければそれでいい。

 先日話した相手のように、仕事に悩んでいるわけでもない。一応女性として働けてはいる。


 悩みと言える悩みは、やはり背が高い事だろうか。これは結構悩んでいるが、むしろ大きな悩みと言えば、そのくらいだ。

 そういえば、元バスケ部でした、バレー部でした、そのあたりの言い訳も考えたのだが、どちらも体育でしか経験がなく、細かいルールもよく知らない。本当の経験者がいたら、即座に見破られるだろうから、設定に付け加えるのはやめている。

 本当にやっていたスポーツは、中学生の頃サッカー部だったくらいか。悪いとは思わないが、特別良いとも思わない。聞かれたらそう答えよう程度に、過去の設定には組み込んでいる。


 ただただ、大きく動かずに、ただ平穏に静かに生きていければいい。

 目立ってもろくな事はない。面倒事が増えるだけだ。好きな漫画にこんなキャラクターがいたな、とよく思い出すが、別に影響されたつもりもない。


 悲観はしておらず、悩みもそれほど思い当たる事もない。ないのに、たまに焦燥感にとらわれる事がある。大抵の場合はその事故分析を続けると、どうでもいい事まで気になったり、ないはずの悩みが顔をもたげてきたりするので、普段はあまり考えないようにしている。


 気分転換が必要かなあ、涼はそう思った。だがゲームという気分にもならないし、音楽プレイヤーは探せば出てくるだろうが、少し億劫だ。

 じゃあこれくらいしかないだろうか。涼はPCを立ち上げて、適当にネットを巡回する事にした。

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