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「人には見えない」

 さて、どうしたものか。涼は少し悩んでいる。

 ここに住んでそろそろ2年になる。かなり馴染んできたし、居心地も悪くはない。不快な要素と言えば、彼氏はいるのかとか、結婚は考えているのかとか聞きたがる世話焼きが周りに出てきている事だが、まあ向こうに悪気はないのだろうとは思うが、うっとうしいのは確かだ。

 その悪気のなさが、実際の所は辛いのだが。二十代も半ばに差し掛かろうとする「女」に、浮いた話の一つもなさそうなのを、多くの人は不思議に思うようだ。

 現在のストーリーでは、元々恋人はいたが、この場所に引っ越すにあたって、遠距離恋愛になるので別れた事にしている。


 ……そういえば、遠距離恋愛を続けている事にしておけば良かっただろうか。だがそうすると、もう一人分、ある程度詳細に人物を作り出さなければいけない。聞かれたら少しは答えないといけないだろうから。

 「前の人」だったら、少しはいい加減でもどうにかなる気がするが、やはり現在進行形の場合は、それなりに作っておかねばならないと思う。

 そこまで徹底する事もないのかもしれないが、以前、そのあたりをいい加減にしていて、綻びが出てしまった事がある。


 涼は、引っ越すことは常に想定しているから、引っ越しの準備はすぐにできるようにしている。物は極力少なくし、大きな家電も極力買わない。

 引っ越し自体は楽だ。だが、それに付随して面倒な事が起きる。保証人だ。保証会社に頼んでしまうのには、やや問題を感じている。大体の場合は、個人情報を何から何まで差し出さないといけないからだ。隠しておきたい事に簡単にたどり着ける事もないとは思うのだが、やはり気になる。


 それにしても、こういう心配性は悪い癖だと思うけど、そう直るものでもないか。

 涼はため息をつくと、何か他の事を考えて紛らわそうと思った。


 珍しく、特別用もないのに街に出てみた。街と言っても、都心から結構離れた少し大きな駅という程度なので、駅周辺以外は特に開けていないような場所だが。

 洋服屋が目に留まるが、ここはトールサイズを扱っていないので入るだけ無駄だ。

 こうなる前は結構好きだったゲームセンターも、なかなか入りづらいものがある。この前、気が向いたのと、好きなキャラクターの景品だったので、プライズマシンで遊んでいたのだが、ナンパでもしようと思ったらしい男がしつこく寄ってきて、嫌な思いをした。


 男性については、あの前と後で、考えにずいぶんと違いが出たなと、涼は思う。

 線を超えてしまう、具体的には投薬を始めて戻れなくなった頃ぐらいだろうか、その後は大なり小なり、男性を見下すようになるようだ。サンプルは少ないとは言え、周りを見ていると大体そうだった。自分はそれほど大ではないつもりだが、それがないとはとても言い切れない。

 どうにも、薬や手術のおかげで自分には結構薄くなった性欲というものが、あまり透けて見える態度や行動には不快感を感じる。


 自分が失ったものを持っていて羨ましい? それはない。

 自分はお偉くなった、悟りでも開いたから、相手が低俗に見える? ないとは言わない。

 当たるものが必要で、おあつらえ向きに、向こうから当たられに来てくれて便利? さすがにそこまで性格悪くないつもりだ。

 理由や根拠はうまく導き出せないが、自分は、性欲丸出しの男より少しは偉い。高尚だ。それは少し思っている。

 見下すつもりはないが、偽女を売りにする手合いは、そうでもないのだろうか? と、少し疑問と言うか、興味はあるものの、それを聞ける機会もあまりなさそうだ。

 もしかするともっと酷い事を内心では思っていて、例えば精液と一緒に金を排出するだけの装置だとか、完全に見下していたりする人もいるのだろうか。


 そんな事を考えているうち、商店街も途切れる場所に差し掛かった。

 せっかく出てきたのに、これでは家で考え込んでいるのと変わらない。そう思って、涼は喫茶店にでも入る事にした。


 ほとんどは場所代であろう、無駄に高いと思う、コーヒーに生クリームだのミルクだのと何か色々混ざったもの。嫌いではない。

 元のコーヒーがどんなもので、どれほどの質であったかも、これではあまり分からない。そのくせ値段だけはいいものだ。

 投薬だの整形だのを結構した自分の、元々はどうだったのか。これも他人に分からないだろうか。そんな飛躍した事も考えたが、あまり深められそうな考えでもないので、やめた。


 ふと携帯電話を見てみれば、仕事仲間からの、シフトを変わってくれないかと言うメール。

 それにOKの返事を出すと、涼は改めて、元の姿の分からない飲み物に口をつけた。


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