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「幕間」

「うまく誤魔化したよね」

 アキラは半笑いでそう言うと、ジョッキを口に運んだ。

「これ、ビールじゃないな。せこいもんだ」

「安い店選ぶからだ。まあ、こんな事だろうと思った」

 ジュンは呆れ顔で、銘柄も分からないウイスキーの水割りを飲んだ。それからしばらく、どちらも何も言わなかったが、ジュンは根負けしたようにため息をついた。

「で、俺が何を誤魔化したって言うんだ?」

「しらばっくれちゃって。逃げた理由、あれだけじゃないよね?」

 アキラがジュン相手にこの口調、意識して女性的な声色と口調で喋る時は、極端に真面目な時か、その逆、極端に不真面目な時だ。

「はっきり言葉に出してないまでも、お前が言う誤魔化した事、その意図は含ませたつもりだったんだがな」

「多分と言うか、間違いなく読み取れてないんじゃないかなあ」

「……責任取りたくなかった、これでいいか」

「このクズめ」

 アキラの言葉は辛辣だが、顔は笑っている。

「貫き通せるかどうかも怪しい信念を振りかざして、自分から血の池地獄にはまりに行こうとしてるように見えたんだよ。まあこれは、言い方変えただけで、この前あいつに言った事とあまり変わらないか。とにかく、その責任を一緒に取るつもりにはなれなかった」

「貫き通そうとはしてるみたいだけどね」

 ビールのジョッキを空にすると、アキラは続ける。

「話変わるけどさ、しばらくしたら河岸変えない? ちょっと、いや割と許せないから。あなたがじゃなくてこの店が」

「まだろくに飲んでないんだけどな……」


「貫き通すって、何だろうね?」

 結局別の店に行き、人心地ついてから、アキラは言った。ジュンは答えずに、今度はメニューにちゃんと銘柄の書いてあったウイスキーをストレートで飲んでいる。

「どこまで行けば、貫き通せた事になるんだろ」

「死ぬまでじゃないか? 死ぬ時に満足できてたら、貫き通せたんじゃないかね」

「長いなあ」

「別の相手にだが、よく泣き言も聞くよ。神様は残酷だ、ってな」

 ジュンのその言葉を聞いて、アキラは笑い出した。

「馬鹿じゃないの?」

 おかしそうに言うと、アキラは続ける。

「もしその神様とやらがいるとして、多分頑張って書いた人間の設計図に真っ向から反逆して来る相手に、雷のひとつも落とさないなんて、どれだけ優しいんだか」

「そこまで暇でもない、ってだけかもしれないぞ」

「その上、一方的に喧嘩を売っておきながら、場合によっては、勝手に休戦協定押し付けて反逆をやめたりする。そんな奴が天罰を受ける事もない。本当に慈悲深いと思う」

 おかしそうというより、誰かを見下しているような顔に変わったアキラは、ジョッキの中に半分ほど残ったビールを飲み干した。

「まあ、私もその反逆してる奴なんだろうけど、神様に責任押し付けるつもりはない。天罰が下るなら受けるけど、せめて自家発電かセックスしてる時、その形で塩の柱にはされたくないかな」

 二人はしばらく笑っていたが、またアキラは真顔に戻った。

「神様相手に勝手に休戦押し付けるんじゃなく、負けを認めると思う。自分ならね。涼もそうすれば楽なのに」

「無理だろ、あの様子じゃ。そもそもまだ戦えてるようだしな。それにしても、神様神様と、ずいぶん信仰心が篤いんだな」

「一応はクリスチャンだしね」

 アキラは大きくため息をつくと、腕時計を見た。

「そろそろいい時間だし、出るとしますかね」

「ああ」


「……で。あまりにもいい時間すぎて、電車ないや。どうしよう?」

「あそこのカラオケ、朝まで幾らって感じのパックあるぞ」

「ちゃんと寝られる所がいいなあ。まあカラオケでも座って寝られるけど、疲れるだろうし、一人は寂しいし」

 アキラの視線の先には、ラブホテルがあった。ジュンはそれに気付かないふりをして答える。

「そこは自由にすればいい。まあ俺は、まだ帰れるから帰るけどな」

「あなた、本当にクズだよね」

「それ、どっちの選択してもクズ扱いされるんじゃないのか」

「まあね」

「カラオケの方なら、付き合ってもいい」

 アキラは仕方なさそうにうなずき、二人は歩き出した。


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