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六話 意思表明と逃走と!




 清潔感ある内装と豪華さを合わせた部屋。それがシラサゴの行政施設『議会堂』の来客室だ。

あまり派手すぎるのは盛孝の趣味ではないようで、控えめな印象を受ける。

ここに来るのもずいぶん久しぶりだと、鷹人は感傷に浸っていた。


「さあ、どうぞみなさん」


 そんな鷹人達を待ち構えていたかのように、出迎えの準備を終えた千秋がいた。


「って、鷹人さん! 久しぶり|! お姉ちゃんも一緒なんだ!」


 鷹人と真冬を見た瞬間、さっきまでの大人なな態度は一変し、年相応のものとなった。

彼女は切り替えが早い部類なのだろう。


「おう、千秋! 久しぶり! デカくなったな!」


 確か今、十四歳だったはず。と脳内で確認を得て、七華と同い年であると気付く。

 ……暇が出来たら、会わせてやろう。

すると、千秋の視線がこちらではなく、こちらの後ろを見ていた。


「それで、そちらのお二人は……?」


鷹人は、ああ、と納得し、


「紹介がまだだったな。このちびっこがアイナ」

 

「ちびっこ言うな、頭をたたくな。――あ、どうも、アイナです」


 ぺこりと頭を下げるアイナにつられて、千秋を頭を下げる。なんとも微笑ましい。

 アイナは礼儀を守るほうだ。一部の人間を除き。


「このおっさんがグラン・エストニック」


「はいよ。よろしくたのむよ、お嬢ちゃん」


 片手をあげ、気さくに挨拶をしたグラン。

しかし千秋は挨拶を返す前に、なにか違和感を覚えた。 


「グラン・エストニック……?」


 口の中でもごもごとその名を繰り返すと、いずれ納得いったのか、ああ、と驚愕の声をあげ、


「大戦の英雄、【暴君】グラン・エストニックさん!?」


 驚きで口をパクパクさせている千秋を横目に、グランは鷹人に小声で、


「なあ、俺が大戦の英雄って、そんなに意外?」


「ああ、そら意外だろう。名高き英雄が、その辺にいるダメおっさんと何ら変わらないんだからな」


「ははは……私も最初は驚いたわね……」


 その会話が聞こえていたのか、千秋ははっとなり、


「す、すいません! 決して、見えないとか、そういう訳じゃ……」


「あー、ええんですって、英雄に見えへんおっさんが悪いんです。気にせんといてください」


 どこか抜けている敬語でへらへらと笑うアイナ。


「いや、それ俺が言うセリフだからさ……まあ、いいけど」


 めんどくさそうな表情でガシガシと頭を掻いたグランは、『気にしなくていいよ』と一言つぶやくと、


「ソファー座っていい? 疲れちゃって」


「はい! どうぞお座りになってください。三人も座っていいよ?」

 

 全員がソファーに座ると、千秋は用意していたお菓子とお茶を人数分並べた。

テーブルに並んだのは、やわらかい紙に包まれた白くて丸いお菓子と、湯呑に入れられた湯気を立ち上らせるお茶だ。


「あ、これ『酒来亭(しゅらいてい)』のお饅頭!」


「酒来亭って高級菓子店じゃなかったっけ? さすが贄神のおもてなしはすげーな」


「これでも、都市のトップなんでな。これくらいのおもてなしは当然だ」


 ドヤ顔で言う盛孝を見て、グランは


「へー、変わったもんだなぁ、盛孝。あの頃は米粒食って感動して、わんわん泣くぐらい庶民派だったのに」


 からかうような笑みを向けるグランに、盛孝はジトリ睨み返した。


「昔のことを掘り返すな、グラン。あの頃は金も食糧もなかった時代だぞ? それに、お前だって、ただの水を酒だと騙されて飲んだのに、ベロンベロンに酔ってたじゃないか」


「気持ちだよ気持ち。水も酒だと思えば酔えるんだよ」


「なら、これから酒はいらへんな。七華にもそう言っとくわ」


「それは、勘弁してくれよ……」


 ドッ、と笑いがおき、その中で鷹人は胸に熱いものを感じた。

……いいもんだなあ

昔からの知り合いと、今の仲間。それが繋がり、こうして笑いあっている。

狭い都市が無数に浮かぶ今の時代、一度別れれば、死ぬ前で合わないなんてことも珍しくない。

そんな中、こうして無事再会し笑いあっていられるというのは、幸せと呼んでいいのだろう。

感傷に浸り、幸せをかみしめていると、隣に座る真冬が視線をこちらに向け、


「鷹人、なんだか楽しそうね」


 笑みの真冬に、同じく笑みで返し、


「ああ、楽しいぜ。――んでも、この先もっと楽しい、もっと幸せなものを目指すから、これで満足しちゃいられないけどな」


 一瞬、真冬は目を丸くしたが、次には真剣な面持ちで、


「……まだ、〝理想郷〟探しは諦めてないの?」


 その言葉に、他の皆の視線が鷹人に集中する。

そして盛孝が仕切り直すように口を開いた。


「そうだな、鷹人。色々聞きたい話は多いが、今はその話を聞かせてもらおうか。――三年前、〝理想郷〟を探すと言って飛び出した、お前のその後を」


          ●


 鷹人は大きく息を吸い、そして吐き出す。

二回ほどそれを繰り返した後、言葉を紡いだ。


「単純に言うと、俺はまだ諦めてねえよ。〝理想郷〟はあると思ってるし、それに賛同してくれる仲間も集めた」


 視線をグランとアイナに向けると、二人は笑みと頷きをよこしてきた。

その動作に頼もしさを胸に感じて、また言葉を続ける。


「今のところ大した成果はないけど、それに繋がる手がかりは見つけたんだ。――実を言うと、ここに戻ってきたのは、挨拶の為なんだよ」


 え? と真冬と千秋は疑問を得たが、盛孝は眉を顰め、


「……まさか、違う都市群に行く気か?」


 その言葉に、皆が身を強張らせた。

規模が限られている都市では自給自足は困難で、おまけに空に浮いているため、情報を有線で取り合うこともできない。そうなると新手の業魔や、そのほかの情報が一切入ってこなくなる。

だから都市同士で群れを、つまり都市群を構成したのだ。

都市間で無線通力によるネットワークを構築して連絡を取り合い、都市を限界まで近づける。そうして各都市で役割分担を行い、一つの群れを作ったのだ。

現在都市群は七つあり、シラサゴは第三都市群に属する。


「鷹人。他の都市群に行くという事は、命がけの旅になるんだぞ? それに、こちらへの連絡は一切できなくなる。ホントに理解しているのか?」


 身を寄せ合っている都市群内での移動は高速艦である日柳で一日から二日ほど。

都市群を出れば、高速艦でも一週間から一か月はかかる。その間、最近多い航空系の業魔に襲われれば、空中で戦えない人間は死ぬしかない。仮にいくら航空艦を武装しようとも、業魔を撃退できる保証もない。

危険すぎる旅だ。


「ああ、理解してる。もしかしたら死ぬかもしてない事もな。……だけど」


 だけど、それでも。


「俺は行く。――そう約束したし、それが俺の目標であり夢だからな」


 隣にいる真冬に視線を向けると、彼女はうつむいたまま、こちらの手をギュッと握ってきた。

表情は見えない。しかし、彼女に心労をあたえているのは十二分に理解した。

一度彼女の名を呼ぶと、手をいっそう強く握られただけで言葉での返事はない。

困ったと、ほかの皆に目を向けると千秋は両手に握った湯呑を見つめるだけで動かず、グランとアイナはこちらに視線を合わせず、沈黙を守っている。

最後に盛孝を見ると、彼は腕を組み、顔を顰めていた。しかし、それも数泊の間だけで、やがて重々しく口を開く。


「そうか。――なら止めはせん。お前が決めた道だ。咎める気はないし、むしろ応援させてもらおう。……まったく、昔からバカみたいにまっすぐな所は変わらんな」


 呆れた笑みでガシガシと頭を掻いた盛孝は、

 

「なら、その時まではゆっくりしていくといい。世話になった人達にも挨拶に行った方がいいぞ」


 わかった、と肯定で返した鷹人。


「ふむ。――これから、色々手続きやらなんやらで、夕方まではかかるだろうが、お前はどうする? 居ても何もできないんだろ?」


「うわ、そこまで直球で言われるとなんか腹立つ。……まあ、でも事実だし、グランのおっさんに任せる。 俺はどうするかな……」


 あいよ、と気だるげに返事をしたグランはアイナに目を向けた。その意味を理解したのか、アイナは、


「うちも残るわ。色々興味深い話も聞けそうやし。鷹人は街にでも行ったらどうや? 懐かしの街なんやろ?」


「じゃあ、そうするか」


 方針が決まった傭兵団の一行を見て、盛孝はうなずきを作り、


「千秋、すまんが資料を取ってきてくれ。この前使ったやつだから、会議室の方に置いてあるはずだ。それと真冬、今から仕事になる、すまんが席を外してくれないか? 鷹人と一緒に街に回るといい」


 一息でそこまで言い切ると、千秋ははっとなって、しかし表情はどこか暗いまま、会議室のへ向かった。

同じく真冬も『うん』とだけ返事をして席を立った。


「んじゃあ、後は頼むな」


こちらに浅く手を振った鷹人は、真冬の手を引いて、部屋を出て行った。

それを見送ってから、グランは言葉を発する。


「薄情な父親だねえ、娘のアフターフォローもなしかい?」


「ふん、お前には関係ないことだ。――それに千秋は後でゆっくり話すさ、今は気持ちの整理をつける時間をやっているだけさ。――真冬の方は、あのバカに任せればいいだろう。もともとアイツが原因だし、なによりアイツが一番真冬を解っている」


 言い切ると、グランがからかいの口調で言った。


「親バカだねえ」


「ころころと言い分を変えるクセはまだ治ってないようだなグラン。――まあ、昔の事も含めて、これから色々話そうじゃないか。――すまないな、アイナちゃんだったか? つまらん男の話になるが」


「いいえ、気にせんといてください。かってについてきた身ですから」


「ははは、しっかりした子だ。誰かさんにも見習ってほしいところだ」


 言うと、視線を窓の外へ向け、


「鷹人、真冬を頼むぞ」


 誰にも聞こえない、小さな声だった。

しかし、その意思は表情に現れ、グランは『相変わらず不器用なヤツだ』と同じくつぶやき、部屋に沈黙が訪れた。

それは千秋が会議室から帰ってくるまで保たれていた。


          ●


活気ある商店街を赤髪、黒髪、水色髪の三つが歩く。

フェンリル傭兵団の紅、黒、七華の三人だ。


「姉さん、食糧はこんなもんでいいんじゃないの? 都市群出る前に、もう一回補給あるだろ?」


 黒は保存食や日持ちする食糧が大量に詰められた大きな袋を抱えながら、そんな事を口にする。


「いや、次で必ず補給できるってわけじゃないさね。できるときにしとかないと」


「一理あるかと。――という事で黒さんファイトです。はい、これ追加」


 ズシリと、腕の中の重みが増す。

予想外の重みによろけながらも、何とか立て直した黒は表情を歪め、


「うちの女性陣は、正論言って人に押し付けるのが生き甲斐なの? ――あ、ごめんなさい。謝るから、そんな一メートルもある缶詰買わないでください。後生ですから」  


 平謝りしながら、しぶしぶと言った様子で缶詰を戻す七華。

現在彼らは買い物中。

燃料や生活用品の補給をしているのだ。当然荷物持ちは男である黒になる。


「服も買ってかないとね。〝柊〟で暴れすぎて服がボロボロになっちまったし」


「そうですね。私もサイズが合わなくなって来たのでそろそろ買い直さないと。……紅姉さん、

胸見ないでください。その『ホントに成長してんの?』って目やめてください。私が言いたいのは身長ですよ、身長」


 七華はひかえめな両胸を手で隠すと、ジトリと紅を見た。


「いやいや、誰も胸のことは言ってないさ。――それに、ちっさい胸の方が好きなヤツだっているもんさね。そうだろ、黒」


「なんでそこで俺に振るんだよ! ……七華、そんな睨まないでくれよ。俺なにも言ってないじゃん」


 肩を落とした黒をよそ目に、紅と七華は露店の服屋を指さし、


「では、私達は向こうの服屋に行ってきますので、黒さんはここで待っていてください。その大荷物じゃ店の邪魔になるだけですし」


「りょーかい。早めに帰ってきてね」


 言葉を終える前に二人はすでに移動を開始していた。

はあ、とため息をついてから、黒は下に荷物を置いて壁に身を預ける。

再度ため息をついて顔を上げると、目の前の八百屋に数人のガラの悪い男が集まってるの見えた。


「よう、おっさん。相変わらずシケた面してんな」


「……なにか買うなら早くしてくれるか?」


「おうおう、接客がなってないんじゃねえか? ――まあ、俺たちはお前に用はねえ。お前の娘に用があるんだよ」


 中年の店員は顔を顰め、


「ふん、残念ながらここにはおらんぞ。出直してくるんだな」


「おいおい、嘘はいけねえな。――傭兵なめんなよ?」


 後半の言葉は明らかな殺気を纏っていた。

その男は右手を浅く掲げ、一気に振り下ろす。膝を抜き、全身の力を余すことなく伝えらてた腕は、貫通の力を持って、品種改良で巨大化された野菜達を砕く。

そのまま屋台までを貫き、破壊した。

木片が舞い、みずみずしい野菜の破片が彼らの全身を濡らす。

腕は地面すれすれで止まり、破壊された屋台の下から大きなモノを取り出した。

人だ。

歳は十代半ばだろうか。目には涙が溜り、頭を掴まれているからか、苦しそうに表情を歪めているが、それ以上に恐怖の色が彼女を支配していた。

服や顔には野菜の破片や水、土で汚れている。

どうやら屋台の下に隠れていたようだ。


「おーおー、怖がっちゃって。でも、大丈夫だぜ? なんにもしなけりゃ痛い目見ることはねえ。その汚れた体も、俺たちがキレイにしてやるよ」


 ゲラゲラと笑う男につられ、他の男もゲラゲラと笑いだす。

父親であろう中年の男も驚愕で声が出ず、ただ口をパクパクとさせるだけだった。

そのくらい、素早く圧倒的な威力だったのだ。

何より纏っている雰囲気が違った。さっきまでのふざけたものではなく、戦士の纏う殺意の雰囲気。


「不運だったな。俺たちグラセリオ傭兵団に目をつけられたのが落ちだったんだ。精々ご奉仕してくれよ。――なんてったって、わざわざこんな田舎都市までお前らを守りに来てやってるんだからよ!」


 再び笑う彼ら。

そんな彼らを黒は冷静に観察していた。

……グラセリオ傭兵団か

聞いたことはある。確かアルべガリアに本社を持つ傭兵団だったはずだ。

言動からして、仕事で来ているらしい。


「――めんどうな事をしていますね。あの人たち」


 隣を見ると、いつの間にか七華と紅が立っていた。


「どうする? 助けに入る?」


「アタシとしては、傭兵団同士の対立は避けたい所なんだけど」


「でも、ここは鷹人が子供のころから迷惑かけまくった街だよ? 義理立てする道理はあるんじゃないかな」


「まあ、それもそうさね。――ってことで黒、行きな」


「はいよ」


「あ、いえ、私が行きます。――ちょっとイラつく事があったので、憂さ晴らしに」


 二人は一瞬言葉に詰まったが、次には『わかった』と見送り、七華は今だ笑う彼らのもとへ近づく。


「あ? なんだ? 子供に用はねえんだ。 どっかいき―――」


 七華に向けられた言葉は途中で遮られた。彼女の上段蹴りによって。

 少女から手が離され、そしてその彼女が地面に尻をつく前に、


「な」


 二人目にみぞおちへのの蹴りをたたき込む。勢いのまま数メートル吹っ飛び、丁度、黒がいる壁へと向かう。


「おっと」


 黒は軽く身を逸らしてソレを避ける。

飛ばされた男は壁に激突し、ぐえ、という声を上げてから気絶して、地面に顔面から倒れた。

 黒が視線を七華に戻したときには、すでに他の数人もぐったりと横たわっていた。

 早業だ。一秒と少しの間に、数人の屈強な傭兵達を倒してしまったのだ。


「……」


 商店街にいた住民は足を止め、言葉を失う。


「大丈夫ですか?」


 七華はしゃがみ、年上の少女にハンカチを渡す。


「あ、ありがとう……」


 何が起こったのかわからいといった表情で、とにかく礼を返した少女。

そして、歓声が起こった。


「すげーな、嬢ちゃん!」


「ざまーみろ! 腐った傭兵め!」


「ま、まあ、あの子がいってなかったら俺がいってたけどな!」


「パンツ見えなかった……」


「ひゃっほぉおおおお!!」


「宴だ! 宴!」


「うっひょひょひょひょ!!」


 急に騒ぎ出した住民たちに、黒達は戸惑った。

 ……この街のテンションはなかなか可笑しい。

なんというか、凄まじいものがある。しかし、違和感がない。

……まるでいつもこのテンションに触れているような……

そして気が付いた。

……鷹人だ。

彼と似たようなテンションなのだ。

紅も七華もそう思ったのか、納得の表情で、


「あいつがあのテンションなのも納得さね」


「そうですね。流石、鷹人先輩の生まれ故郷です」


 思い思いの感想に苦笑いを返しつつ、一つ考える。

……どうしようか。

今、この一角は熱気に包まれている。前々から気に喰わなかったのであろうグラセリオ傭兵団の一員を倒したからだ。

……危険だ。

普通の街なら、救った少女とその親にお礼を言われ、ギャラリーからは拍手が漏れる。

 そして、露店からは無料で何かもらえるなんて事もあるだろう。

しかし。ここは鷹人の育った街だ。つまりそれは〝普通〟と言う言葉が通用しないという意味でもある。


「あんたら最高だぜぇえええ!!」


「胴上げしようぜ! 胴上げ!!」


「うぉおおおおお!!」


 ……手遅れだった。

周りにいた住民たちが波となって押し寄せてくる。

そんなに広くない通路の為、囲まれるのも時間の問題だろう。


「……流石、鷹人の生まれ故郷さね」


「ええ。〝楽しければいい〟を地で行く人達なんですね。こっちの迷惑も考えないところもそっくりです」


 普通なら、圧倒的に見えた傭兵を瞬殺した者達など、賛美こそすれど、畏怖の方が確実に上であるはずなのだ 。

しかし、この者達は賛美の気持ちはあるのだろうが、配慮やわきまえと言うものを知らない。それでいて楽しいと思う事すらあるのだから、尚更たちが悪い。

 呆れ半分の紅の言葉にに内心全力で賛成しつつ、黒は全力で思考する。


「逃げようか」


 結論に至り、荷物を持って逃走の準備に差し掛かった。


「おい、奴ら逃げる気だぞ!!」


「追え追え! 何としても胴上げするんだ!!」


「おぉおーーーーーッ!!!」


 最後の声につられて、おおぉ、と続く声が各所で上がった。

 全力で、押し寄せてくる波をかわしながら、三人は商店街を突っ走っていく。


「ちと大げさ過ぎないかい、こいつら!?」  


「それだけ憎かったんじゃないですか?」


「いや、ただ騒ぎたいだけに見えるけど……。――て言うか二人共、なんで俺だけに荷物持たせるのさ! こういうときは分担だろ!?」


「器の小さい男だね、アンタは。そんな弟を持った覚えはないよ」


「同意です。こういうときこそ、普段地味で目立たない男には頑張ってもらわないと」


「身内に厳しいな!? ――だぁああッ、もう! やってやるよこんちくしょぉおおおッ!!」   

 半ばやけくそになりながら、全力で駆け抜けていく黒。

その猛者ともいうべき走りは、住民たちにとっては、


「おおッ!? あの若いのが本気出してきたぜ! こっちも行くぞ!」


「おう! 野郎になら容赦はいらねえ! 対鷹人捕縛網を展開しろ! 三年ぶりだからって忘れてねえだろうな!」


「そんなのあるのかい!?」


 三人は街を駆け、人の合間をすり抜ける。後ろに大勢の街住民を引き連れながら、


「もう嫌です。この街……」


 肩を落とす七華。

しかし、黒も紅も見逃すこのはなかった。彼女の表情には僅かな笑みがあることを。

 

ここは第三都市群シラサゴ。

騒がしく暖かい、活気が満ちている街だ。





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