四話 衝突は再会のはじまり?
シラサゴ東部。
もくもくと煙を上げる艦、日柳を真冬は見ていた。
……相変わらず無茶苦茶するなあ、もう……
そう内心で苦言を吐きつつも、表情が綻んでしまうのは懐かしさ故だろう。
鷹人は街を出る前も、こうやって騒ぎを起こしていた、と真冬は思い出す。
家屋を走り回って屋根をぶち抜いたり、中等部の頃は教師のヅラを毟りとったこともあった。
ちなみにその教師は今でも『ヅラ先生』と呼ばれ生徒に親しまれている。
そう呼ばれるたびに涙目になっているが、そこまで嬉しかったのだろうか?
っと、過去を振り返り、懐かしさし浸っていると、声が聞こえた。
それはひどく焦っていて、
「姫さん!!逃げて、逃げて!」
え?、と真冬が振り返ると、皆は何故か斜め後ろの方にいる。
一様に港の方を指さす彼らを見て、真冬は首を傾げると、皆は声を張り上げ、
「前だよ!前!」
なんだろう、と真冬は不思議に思い前見ると見知った姿があった。
鷹人だ。
彼は、こちらに向かって一直線に飛んでくる。否、飛ばされてくる。
おそらく、艦の上にいたため港にぶつかったときの勢いで飛ばされてきたのだろう
……えっとぉ……
真冬が状況がイマイチ理解できていないが、なんだがヤバそうという事だけは分かった。
「のぉわああああああああああああッ!!」
あ、と今更気が付いた時には遅かった。
彼はもう目の前に迫ってきているのだ。回避することはできない。
……あ、ちょっとだけ、顔立が大人っぽくなったなぁ……
どうやら危機感が一周回ると、どうでもいい事を考え、妙に冷静になるようだ。
勉強になったなあ、などと真冬が諦め半分で思っていると、体に衝撃がきて、
転がった。
*
「また、派手に転がったねぇ……」
真冬と鷹人が数十mに渡って転がった方向を見ながら、女店主はつぶやいた。
「まあ、三年ぶりの再会だし、あれぐらいが丁度いいのかもねぇ、あの子らにとっては―――」
店主の視線の先では、鷹人が、真冬を抱え込むような形で仰向けに倒れてる。
……にしても……
成長したなぁ、と店主は思い、先ほどの鷹人の行動を思い出す。
真冬と衝突した際、鷹人は即座に片手で真冬を抱え込み、そのまま吹っ飛んだ。
その時、空いた方の手で地面を打ち、真冬が地面に激突しないように制御しながら転がったのだ。
冷静な判断と、身体能力がなければ不可能な芸当である。
店主の知る限り、三年前の鷹人はこんなことは出来なかったはずだ。
……一体、三年で、何があったんだろうねぇ……
思い、しかし、視線を彼らから外す。
「ま、再会に水差すのも悪いしねぇ、港の手伝いにでも行くかね」
店主の言葉に、皆は頷きを持って同意とし、人の群れが動き出す。
どうやら、店主の発言力は強いようだ。
「さて、三年振りの再会だ。うまくやりなよ、二人とも……」
*
「いてて……あ、真冬大丈夫か?」
聞こえた声に、真冬が目を開けると紺色があった。
体の前面が暖かく、懐かしい匂いがする。
「う、うん大丈夫だけど……」
鷹人は真冬を抱えたまま、半身を起こした。
「立てるか?」
言葉に、しかし、反応がない。
真冬が、鷹人の顔をジッと見たまま動かないのだ。
「……っ」
真冬は言葉に詰まった。
懐かしさが胸を支配いし、伝えたいことがあふれてくる。
帰って来るなら連絡をよこせ、や、三年間なにしてた、や。
言いたいことが多すぎて、言葉にできない。
ああ、と真冬は思う。こんなことが、前にもあったと。
三年前、彼を送り出すときだ。
理想郷を探すと言って、いきなりこの街を飛び出したあの日。
あの時は、なにも言えなかった。今と同じように、言いたいことが多すぎて、伝えたいことが多すぎて、言葉にできなかった。
だから、
「どうした、真冬? どいてくれないと、立てな―――」
「鷹人」
言葉を遮り、首に手を回し、体重を彼に預けるようにして抱きついた。
こちらが動いたので、彼の腕は、はずれて、行き場をなくす。
「お、おい、真冬……!?」
戸惑う彼に構わず、思考を巡らせる。
言いたいことは多い。しかし、答えがでた。
「おかえり」
言葉は、意外にもすんなりと出た。
言いたいことすべてを集約すると、こうなってしまったのだ。
「……あぁ、ただいま」
彼は、たどたどしい手つきで、もう一度、こちらの、腰と後頭部に手を回す。
だが、もっとその温もりを感じたくて、真冬は身をよじる。
己の匂いを、彼に擦りつけるように。
すると、さっきまでガラス細工に触れるような、弱々しい腕が、きつく、しかしこちらに負担を与えない、力強い腕になった。
「真冬」
「なに、鷹人?」
その、と申し訳なさそうでいて、しかし、照れくさそうな声音で、
「三年も心配かけてごめん……」
「……もう」
……ずるいなぁ……
真冬はより一層、腕のホールドを強め、
「先に謝られちゃうと、怒れないじゃない……」
耳元でささやかれたのが、くすぐったかったのか、彼は身をわずかにのけぞらせた。
それすらも愛おしくて、真冬は再度、ああ、と思う。
変わってない。三年前からなにも。
姿や声は、少し大人びていたが、この温もりも、匂いも変わっていない。
こちらの言いたいことを、自分が言うよりも早く、彼は理解し、先回りする。バカの癖に。
こういうところは、やはり、ずるいと思う。
「……」
二人は抱擁をつづける。
周りに人はいない。
あるのは、ただ、街を抜ける風と、工業地帯特有の油の匂い。
三年ぶりの再会というシーンには、少し、ロマンチックさが足りない気がするが、二人には、お互いが存在するという、ただそれだけで十分だった。
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