三話 見つかっちゃったらしょうがない。あきらめろ!
サブタイ、そこまで深い意味はありません。
ありませんったらありません!
「東だ!東に行ったぞ!!」
シラサゴの北西部。そこに真冬はいた。
現在は進路を北から東に変え、猛ダッシュしている所だ。
……まさか、日柳が東に行くなんて……
少し考えればわかることだ。
北にはアルべガリアの傭兵達はいるため、港がいっぱいだ。
そのために、父――贄神である白砂・盛孝が機転を利かせて東に回してくれたのだろう。
それが分からなかった悔しさと、父に対する尊敬と、ほんのちょっぴりの恥ずかしさが、真冬の心を支配していた。
どうやらそれは、他の皆も同じだったようで、やっちまった、と言いたげな表情で東に向かっていく。
「俺、さっき東から走ってきたんだけど……女房から逃げるついでに」
「見事にエンカウントするんじゃね!?」
「お前ん家の奥さん怖ェよな。なにやらかしたんだよ?」
「なんか、俺のベットの下からエロ本が見つかってさ、包丁もって追いかけまわされた。ベットの下に隠した記憶ねえのに……」
「嫉妬しちゃったんだな。奥さん……つか、持ってることは認めるのかよ」
「あ、ごめん、それ俺だ。この前かってに入った時発見しちゃったから、そこにベットの下に移した」
「色々ツッコムところあるが、とりあえずお前が全部悪いことは分かった」
よく分からないが、皆、なにかと大変なのだろう。
そう思い、正面を見ると東の外縁部が見えた。
外縁部には、小さなドックの様なモノがあるので、おそらくあれが彼らが着港する場所だろう。
鷹人が乗る艦もすぐ近くまで来ていた。
しかし、どよめきの声があがる。
「おい、艦の上に誰かいるぞ!?」
真冬はその正体を確かめるために、〝鏡遠〟を発動させた。
彼女の目に映ったのは、栗色の髪に野生生物を思わせる鋭い目、そして肩に担いだ、一本の槍斧。瞬時にそれが、
「鷹人!?」
幼馴染の鷹人だと真冬は分かった。
しかし、疑問がある。なぜ彼は艦の上に立っているのか、という事だ。
すると、その疑問に答えるように、放送音声が流れてきた。
『こちら、フェンリル傭兵団副艦長の卯月です。本艦日柳は出力口故障の為、人力での減速を行います。周囲の皆様方にはご迷惑をお掛けしますことを深くお詫び申し上げます。また、万が一に備え、住民の皆様方は本艦が着港予定の東臨時港より百mほど、距離を置いていただきますよう、お願い申し上げます』
人力による減速?っと、皆が首を傾げた時、鷹人に動きがあった。
彼は、左翼の方へ移動し、槍斧を前方に向けたのだ。
そして、彼の持つ槍斧の切っ先に、蒼白色の術式展開陣が浮かびあがった。
展開陣の前に光の球が生まれていく。それは徐々に大きさを増し、最終的には彼を覆い隠すまでになった。
それをみて、戦闘系術式使いの者達は、まさか、と表情を硬くする。
「砲撃術式!?」
皆が足を止め、光を見る。
「まさか砲撃の反動で艦を止める気か!?」
「ぜ、全力で逃げろぉーーーッ!!」
わ!?、と声が上がったその瞬間、艦の右翼が前方へと回転し、出力口から出た光が吹雪のように散った。
砲撃が放たれる。
*
光の球は一気に膨張した。
それは限界まで膨らんだ風船みたいに、破裂寸前のモノとなる。
そして、光は破裂するかのように前方へ放たれた。
轟、と腹の底に響く音がすべての音をかき消す。
放った衝撃で、鷹人は吹っ飛びそうになるが踏ん張った。
艦の外部|フレームに幾つもの展開式が浮かびあがる。制御術式と、各フレームの強化術式だ。
右翼の出力口は、砲撃に合わせるように光を散らす。
艦が前後左右に揺れ、しかし、その速度は確実に弱まっていく。
『砲撃、中止してください』
大音量で響いた冷静な放送音声に従い、砲撃の光は止まった。
そして艦は港を前方に捉えるよう、半円を描き軌道を修正する。
残る速度は、
「衝撃緩衝材、ありったけ持って来い!!!」
怒声と共に、臨時港にいる作業員が衝撃緩衝材と、同じく衝撃緩衝術式を用いて艦を受け止める体制に入った。
そして、
艦が激突した。
緩衝術式の砕ける軽快な音と、緩衝材と艦の激突する重厚な音が同時に鳴り響いた。
煙が上がり、あたりは静けさに包まれる。
『皆様、お疲れ様です。ありがとうございました』
相変わらず冷静で淡々とした声が終わりの合図だった。
誤字脱字あればご報告お願いします!
それと、このあとがきもなんだかさみしいので、次回は主要キャラ達の会話?みたいなのを書こうかと。
まあ、予定なんで決定ではありませんが(笑)