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二話 迎えられるヒト達



 黒煙を上げる航空艦〝日柳(くさなぎ)〟内。

艦の上部にある、ガラス張りのテラスで七華は怒っていた。

 彼女の目の前に座るのは、艦長兼フェンリル傭兵団団長の鷹人だ。

 正座の彼は、顔を歪め、足をモゾモゾさせてる。

 かれこれ一時間近く正座させているのだ。足がしびれてきたのだろう。

 こちらは、椅子とテーブルがあるため、正座はしていないし、辛くない。

ちなみに、ティーセットもある。


「―――さて、バ……鷹人先輩。これで反省はしていただけましたか?」


「おい、いまバカって言おうとしただろ!?」


 おっとつい本音が、反省せねば。

 七華はとりあえず、ギャーギャーとうるさいバカを一睨みして黙らせた。

 

しかし、ほんとに危なかったっと七華は思う。

 あと数秒舵を握るのが遅ければ、みんな仲良く地上にドカンだっただろう。

 今は、(あか)が舵を取ってくれているので安心だ。

 しかし、


「元々、先輩がちゃんと知らせてくれれば、こうならずに済んだんですからね?」


「すんませんでした!!」


 すこし怒気を含ませて言うと、鷹人は勢いよく土下座した。

 頭が地面につくまで0.三秒という速さ。勢いが強かったのか、ゴン、という鈍い音もセットだ。


「……まあ、反省して頂けたなら結構です。でも、まだ立ってはいけませんよ?港に着くまでそのままです」


「マジかよ!?」


 鷹人は愕然とするが、七華はさして気に留める様子もない

そして、彼女は空中画面(ディスプレイ)を表示した。

膨大な量の文字で埋め尽くされたそれを、彼女はいつも通り無表情で見つめる。


「……それ、この前行った古代都市〝ひいらぎ〟の店で見つけたヤツか?どんな内容だったんだよ?」


 興味深そうに聞いててくる鷹人。

めずらしいですね、と内心で関心か驚きか分からない感想を作りながら、七華は言う


「完結に言うと〝理想郷ユートピア〟について書かれた論文ですね」


 画面を軽くなぞるようにして、幾枚かの新たな画面を宙に展開する。 

七華の周りは、文字で埋め尽くされた空中画面で埋まった。

しかし、それら全てを一瞥すると、右腕を大きく振る動きで全ての画面を消す。


「ですが、お遊び半分で書いたものみたいです。〝理想郷は我々の心に中に確かに存在しているであろう〟なんて、ふざけた終わりかたしていますから―――まったく紛らわしい」

肩を落とす彼女に、鷹人は正座のままため息をつく。


「しゃあねェよ。皆あるとは思ってねェからよ。理想郷なんて」


 それもそうですね、と返し、七華は思う。

童話や伝承の中でたびたび出てくる、絶対安全の地、通称〝理想郷ユートピア〟。

瘴気による汚染もなく、業魔ごうま達に襲われることのない場所。

実際に見た者や行ったことのある者はいないし、どこにあるのかも分からない。

世間では、物語の中でしか存在しないモノとして見られている。

そんな場所がホントにあるなんて信じて、尚且つ探し出そうとしているのは、自分達ぐらいではないだろうか、と。


「俺たちは、ずいぶんとバカだよなあ……」


 自嘲めいた口調とセリフだが、当の本人は口で弓のような形を作り、笑っている。 


「変なこと言わないでください。バカは先輩一人です」


「直球だな、おい!?」


「事実ですので」


 一通りのやり取りが終わったとき、彼らの背後にある扉が開き人が入ってきた。


「お二人さん、仲良くやってるかぁ?」


 アイナだ。



 *



アイナは、正座させらえてるバカと、その前で優雅にティーカップを傾ける七華を見た。


「おう、アイナ!」


 鷹人が正座のまま片手をあげてあいさつしてくる。元気のいい声だが、足がぷるぷると震えている。


「鷹人、まだ正座しとったんか……」


 憐れみの目を向けるこちらに対し、彼は右の親指を立て、グットサインを出してくる。  


「それで、アイナ。なにかあったのですか?」


 疑問を作る七華に、そうそうと言葉を作りながら、空中画面(ディスプレイ)を表示する。


「なんか、シラサゴの贄神様から通信要請がきとうから、それを伝えにきたんや。二人共説教タイムやったから通信機の電源きっとるやろ?」


 傭兵団内の通信は管理|OSの日柳(くさなぎ)を含め全員でネットワークを形成し通信を行っている。しかし、ネットワーク外。つまり、外部からの通信は日柳だけが対応するようになっている。

 

「おっさんから?」


……贄神様をおっさん呼ばわりするとは 


 内心、驚きを得たアイナだったが、すぐに切り替えた。

 彼のことでいちいち驚いていたらキリがない。


「そうや。今、日柳から回線繋いどるから、ちょいまっといてな」


 画面を操作し、通信回線を開く。


『ああ、繋がったか』


 画面に映ったのは初老の男。逆立った短い白髪に、皺が深く刻まれた顔の男は、口端を少し吊り上げながら、言葉を続ける。


『久しぶりだな、鷹人。三年振りか?』


「おう、おっさん!久しぶり!!」


 軽いあいさつをした鷹人に、しかし、贄神は眉をひそめる。


……アカン!機嫌損ねたか!?


 アイナは焦った。都市のトップである贄神にあんな軽い口をきいたのだ。そうなって当然である。

とにかく目の前のバカを謝らせようと考えた所で、

      

『お前、正座できるようになったんだな……』


 片手で目を覆うように目頭を押さえた贄神は、感傷深そうにそう呟いた。

ガタリ、とアイナの中で何かが崩れる音がした。

それは色々な要因が混ざり合っているが、簡略的にまとめると肩すかしをくらった感じだ。


「おいおい、流石に失礼じゃねえか、おっさん?俺だって正座や土下座ぐらいできるっての」


……失礼はアンタや!!


 やれやれと言いたげな表情の彼に、アイナは心の中でツッコンだ。

というか、なぜ土下座をいれた。


『そうか、成長したんだなあ……』 

 

……へぇ…


息子の成長に感動する親のような贄神の対応に、いい人だとアイナは思った。

理由はアレだが、たかが自分の街出身というだけの民間人一人に、ここまで思えるというのは器が大きい証だ。


『それで、後ろにいる御嬢さん方はお前の仲間なのか?』


 画面越しに問いかけて来る贄神に、アイナは慌てて挨拶する。


「お、お初にお眼に掛かります!フェンリル傭兵団所属、アイナと申します!!」


「同じく、フェンリル傭兵団所属、卯月・七華と申します」


 慌て、緊張しているアイナに対し、七華は特に慌てた様子はない。

どんな目上の人に対しても、決して慌てることなく、いつも通り接する。

そこが彼女のすごいところだ。


『そんなに畏まらなくてもいい。君たちは鷹人が連れてきたお客様みたいなものだ。楽にしていくといい』


「では、そうさせていただいます」


「適応はやいな!?」


 思わずツッコンでしまったアイナ。しかし、よくよく考えてみると相手が気を使うなと言っているのだから、それに従う事それ自体が、彼への敬意を示すことになるのではないか。

 

……もうそういう事にしておこう

 

と思考を締めくくり、アイナは贄神の言葉を聞いた。

彼は、目線を鷹人の方に向ける。


『……それで、ここからが重要なところだ』


 贄神は真剣な面持ちで、言葉を作る。それはさっきまでの口調とは違い贄神としての、都市のトップとしての威厳と風格を漂わせていた。


『本来お前達には、北の港へ着港してもらう筈だったんだが、今はアルべガリアから雇った傭兵達の航空艦が大勢いて、とても港に着ける状態ではなくてな。東の工業地帯に、臨時港と、修理要員を派遣させておいた。すまんがそちらに着港してくれ』


「い、いえ、修理要員までご用意して戴いて……ありがとうございます」


こちらが遠慮がちに答えると贄神はこちらから少し視線を逸らすと、またこちらに向き直り、薄く微笑んだ。


『……どうやら街の皆も、気が付いたみたいだ』


 言われ、街の方を見るとうっすらとだが人の波が見えた。


……うわぁ


 彼らが歩いている大通り。その脇からぽつぽつと人が追加されていき、波はその規模を増していく。


「おお、皆きてくれんのか!」


 鷹人が、ガラス際にいるこちらの近くに寄ってきた。

しかし、ちゃんと正座を保ったままだ。

膝と両足の親指を使って移動してきたのだろう。器用なことをする。


「贄神様、わざわざありがとう御座いました。本艦はこれより進路を東に変え、臨時港に着港いたします」


 管制室との連絡を取っていたのであろう空中画面を消し。贄神の映る画面に丁寧な言葉で礼をする七華。

相変わらず、こういう時の対応は早い。

流石、フェンリル傭兵団の参謀役。と、考えたところで、艦が揺れた。

進路を東へ変えたのだ。

しかし、アイナはあることに気付く。


「あれ?街のみなさんって、北に向かってません?」


 人の波の行き先は、北だ。

そして次の瞬間。波が行進を止め、慌てた様子でその進路を東に変えた。


「―――おっさん。みんなに言ってなかったのかよ…」


『……』


 気まずそうな表情作った贄神は、一つ咳払いをして、喉を震わせる。


『まあ、それは後で謝っておくとしよう――』

 

 ところで、と区切った。


『どうやって着港する気だ?左翼の出力口やられているのだろ?』

    

 あ、とアイナは気づく。

両翼の出力口はバランスを取るための機能ともう一つ役目がある。

ブレーキだ。

 両翼――両翼についてる出力口――は前後に可動でき、作用反作用の原理を利用し停止する仕組みだ。

しかし、その左側がぶっ飛んだため、右翼側しかそれができない。

そして右翼側だけでブレーキをかければ、当然のことながら、艦が回り危険だ。

 尚且つ、この艦はそれなりの速度が乗っているので、危険度が増す。


「大丈夫です。ちゃんと考えました」


 七華はそう言うと同時、鷹人に視線を向けた。


「先輩、予定変更です。もう立っていいですよ」


 え?、と彼と自分が疑問を浮かべるが、七華はそれに言葉をもって答えようとせず、ただ無言で待つ。


「まあ、立っていいなら、そうさせてもらうけどさ……」


 ん、と背伸びをした彼に、七華は続けて言葉をかける。


「その変わり、一仕事してもらいます――ええ、とても重要な」


 まさか、アイナが思った時、結論が来た。


「この艦を止めてもらいます」

誤字脱字ありましたら、メッセージをお願いします。

その他感想など頂けると、喜びます(笑)


ではでは、三話をできるだけ早く更新できるようかんばりますので、待っていてください!

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