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一話 迎えに行きますか?


 

 活気あふれる昼の商店街。クリーム色の長髪を揺らしながら、一人の少女が歩いていた。

整った顔立ち。クリーム色のセミロングと、乳白色の肌の二つの白が彼女の清楚さを際立たせる。

 その少女は、白のニット帽をかぶっていた。

 道行く人は少女に、軽く手をあげるなどして、あいさつを交わしている。その人達は年齢、性別など様々で統一性はない。

 しかし、一つだけ共通しているのは、少女に向かって笑顔であることだ。そこから彼女の人望に厚さがうかがえる。

そして、少女は律儀にそのあいさつ全てに答え、同じく笑顔で返す。


「おや、姫ちゃんじゃないか。買い物かい?」


 声をかけたのは道脇に店を構える女店主。

姫というのは少女の愛称だ。この街のトップで〝神器〟の管理者である〝贄神(にえがみ)〟の娘ということで、皆は親しみを込めてそう呼んでいる。


「はい、今日は時間があるのでお昼は自分で作ろうかなあと思って。何かおすすめのありますか?」


にっこりと微笑み、尋ねる少女に、店主は同じく満円の笑みを作る。


「ああ、さっき丁度いいのが入ってきてね……ほら、これ」


店主が出したのは、頭から尾までが四十cmある魚だ。

空に浮かぶ都市でも魚や家畜はあたりまえだが存在する。しかしその数は少ない。 まず食糧自体が無駄にできるほどあるわけではないからだ。


「あ、これ魚ですか?サイズは小さ目ですけど……もしかして鮭!?」


驚きの声を上げる彼女に、店主は自慢げにニヤリと笑う。


「そうさ。なんでも偶然、サイズが小さいのができちまったらしくてねぇ、出荷はでき

ないが、捨てるにはもったいないってんで、うちに持ってきてくれた訳さ」


魚や牛、その他家畜など野菜を含めて、大体は遺伝子改造により巨大になっている。

食糧不足を防ぐためだ。

そして、鮭などの繁殖が難しい魚は高級魚として扱われている。そのため、なかなか一般の市場では出回らない。自営業の店では余計にだ。


「姫ちゃんなら、安くしとくよ?お得意さんだしねぇ。―――こんぐらいでどうだい?」


 店主の空中画面(ディスプレイ)に映る値段に、姫は、う~ん、と三拍ほど考え、


「買います!」


「まいどあり――」


 店主は、氷が入った合成樹脂製の箱に鮭を入れ、少女に手渡す。


「あ、料理できたらお裾分けもってきますね?」


 長方形の箱を抱えながら、思い出したようにそう告げる。

しかし店主は、ははは、と笑いながら。


「いやいや、姫ちゃんが自分で買ったんだ、自分で食べないと。それに、その大きさじゃお裾分けもできないだろ?」


私そんなに食べませんし……、と困ったような笑みを浮かべる彼女。しかし店主は、


「いいからいいから」


 と、半ば強引に押し切った。


「……そうですか。なら、おいしく頂かせてもらいます」


 少女は、少し申し訳なさそうな表情を見せたが次には笑顔に変え、礼を述べる。


「あんた、ただでさえ大変なんだから、いいモン食べなきゃダメだよ?」


 はは、と苦笑する彼女に、店主はさらに言葉を作る。


「最近、業魔(ごうま)も活発化してきてるしねェ……」


 肩を落とす店主。真冬も同じく肩を落とし、


「瘴気に汚染された生物、業魔。ほんと、厄介ですよね……航空系の業魔まで出てくる始末で」

 

 まったくさ、と店主は思う。元々、陸にしか存在していなかった業魔。しかし、ここ数年では進化でもしたのか、空を飛ぶ種類まで出てきた。

 それは群れ単位で行動し、都市を襲うようになったのだ。


 都市は〝神器〟という浄化装置によって守られている。

 街を球体で包むように展開された、半透明の膜のようなものが、神器の発生させるエネルギー力場だ。

 いくら瘴気が汚染するのが大地だけだと言っても、空にまったく影響がないわけではない。わずかだが、確かに空にも届いているのだ。

 そのため、〝神器〟によって浄化する。


 そして、神器は都市の動力源も兼ねている。

 空を飛ぶために必要なエネルギーと、その他都市で必要なエネルギーをすべて担っていため、神器に依存しているといっていい。

 その神器を、業魔は狙うのだ。

 理由は不明。


「怖いねぇ……」


 その言葉に、しかし、真冬は笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。その対策のために、お父様が〝アルべガリア〟から傭兵を雇ったんですから」


 ああ、と店主は煮え切らない返事を返す。

 アルべガリア。治安は少々悪いが保有武力は高く、傭兵派遣会社が多数存在する都市だ。

 この都市シラサゴは、武力を有していない。否、警備隊などの警察組織はあるが、業魔を相手にできるほどの戦力も装備もないため、業魔対策を理由にそこから傭兵を雇ったのだ。


「でもあれ、話がうますぎやしないかい?この街にずっといるんだろ?あの傭兵達。贄神様はいったいどんな報酬を出したんだ?」


「さあ?私はよく聞いていません。ですが、妹―――千秋は反対だって言ってましたよ……?」


 子姫が?と店主は意外そうな目で真冬を見る。

 姉の真冬が姫、その妹の千秋は子姫だ。

 

「あの子が贄神様の意見に反対するなんて……よっぽどその条件が悪かったのかねぇ?」


 千秋は十四歳だが、歳の割には大人びていて、どちらかというと引っ込み思案なほうだ。

 父親である贄神に異議申し立てをするような性格ではないはずなのだが、と店主は思った。


「そうなんでしょうね……私は実家から実質勘当を受けている身なので、そこの辺りはよくわからないんです……あっ、別に悲しい訳じゃないですよ!?たまに家族で食事とかしますから」


 そういうが、笑みの中に若干悲しみの色が含まれている。

 ああ、と店主は思う。


……やっちまった


 彼女の母親は獣人系の異族だった。その母親の血を色濃く受け継いだ真冬は贄神になれない。

 神器が彼女達異族を浄化、つまり存在を消してしまうからだ。

 直接ふれない限り浄化はされないのだが、贄神になれば管理者としてほぼ一日中もっていなければならない。

 故に贄神第一継承者は長女である真冬ではなく、次女の千秋になっているのだ。

 しかし、わざわざ勘当しなくても、と、店主は思うが、そこは向こうの家族内のこと。自分が口出しする権利はない。

 

……だからこそ、気を付けてたのにねェ……


 否、今は気を付けていた〝つもり〟だったのだろう。

 真冬は幼いころから見てきた子供だ。自分の娘のように思っている。

 だから、彼女には幸せになってほしい。

 

「……じゃあ私、そろそろ行きますね?」

 

 御代を渡し、立ち去る真冬に向かって店主は林檎を軽く投げる。


「ほら、これはおまけだ持ってきな」


慌ててキャッチした真冬は、いいんですか?と遠慮深そうに聞いてくるが、


「いつも、ひいきにしてもらってる礼さ、貰ってくんな」 


 真冬はしばし、きょとんとした表情だったが、すぐに笑顔になって


「ありがとうございます!」


店主がニカッ、っと笑うと同時に、音が聞こえてきた。

爆発音だ。

それは間近に起きたのではなく、遠くでなったものだ。

皆が足を止め、空を見上げ、音の発生源をさがす。


「おい、なんだあれ?」


通行人の男が指を差す方向を見ると、鳥のような翼をもったモノが黒い煙を上げ、こちらに向かってくるのが見えた。





「鳥か……?いや、それにしてはデカすぎるか」


誰かのつぶやきに真冬は目を細め、手荷物を下に置く。


「航空系の〝業魔ごうま〟 かもしれません。念のため確認します」


 そういい、片手を掲げると薄青く発光する円形の陣が手の平に。四角形の陣が左目の前数cm前に浮かびあった。

術式だ。

 それは、体内にもつ通力というものを使用し様々な現象を引き起こす。

今回、彼女が発動したのは遠距離観察用の術式だ。掲げた陣から視覚情報を取得し、左目の陣にそれを映像として映すことが可能だ。

文字通り、遠くを見るための術式で、同期させれば空中画面にも映すことができる。

 彼女は今回、それを使用した。自前の空中画面を大きく表示し、周りにいる人達に見えるようにする。

いらぬ不安感を抱かせぬためだろう。


【術式安定。倍率4×100倍。画素調整。手振れ補正適応。同期開始―――】

【術式 鏡遠(きょうえん)発動】


表示と共に、空中画面と真冬の左目に映像が映された。

見えたのは、鉄の両翼を持った航空艦だ。白基調の塗装。鳥みたいなシルエットのそれが、左、こちらから見れば右から黒煙をあげながら、真正面に、こちらをとらえている。


「あれって……!?」


 店主や通行人、そして真冬も驚きを隠せない。

 画面に映る航空艦。それは三年前、この街を飛び出した少年の乗っていった艦日柳(くさなぎ)だからだ。


「あいつが帰ってきたのかい……?」


 店主のつぶやきに誰も答えない。答える余裕がない。

 皆、状況を飲み込むので精いっぱいなのだ。

 

 時間にして数秒、誰もが動きを止め、空を見る。

 ああ、と声が聞こえた。それは感嘆か、ただ口から洩れた意味のない声なのか。わからない。


「―――鷹人ッ!」


 途端、真冬は荷物もほったらかしにして走りだす。


「あ、おい、姫さん!?」


 誰かの静止の声も聞かず、ただ全力で人の波を縫うように駆け抜ける。

 

「行かせてやんな」


 店主は、駆ける真冬を尻目に、ニヤリと笑う。


「三年振りの再開になるんだ。急ぎたくなるってもんだろ?」


 その言葉に、皆はうなずきを返し同意とする。

 

「……ったく、図ったようなタイミングで帰ってきやがって……」


 愚痴るようにつぶやく店主は、しかし、口は笑みのまま、


「ちゃんと、迎えてやらないとね」


 店主は店に休業の看板を下げ、真冬と同じ方面へ歩き出す。

 それにつられるかのように、他の人間も後を追う。

 向かう先は、街の北側。

 航空艦の受け入れを行う、港がある場所だ。






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