お人よし
教室の扉を開けるとクラスの皆が暗い顔をしている。
「どこにもなかったなぁ・・・」
「なんでだよ・・・」
「どめんねりお・・・」
(そりゃそうだよ。だって今、金子のサイフはぼくのポケットに入ってるんだし・・・)
とりあえずこっそり金子にこのサイフを渡そうと教室に入る。
すると突然誰かが
「そういえば桜木は・・・?」
と言う。
全員がハッとなる。どこか不穏な空気が流れる。
「そういえばどこだ?」
「まさか・・・?!」
(やばい・・・!このままじゃ桜木が犯人扱いされる!!)
ぼくは作戦を変更した。
重々しい空気の中勇気を振りしぼって大きな声を出す。
「ごめんなさい!!」
『え?!』
「全員の視線がぼくに集まる。ぼくは申し訳なさそうに笑って
「ぼく実は中間休みのとき、金子のサイフを拾ったんだ」
『ハアァァァ?!』
全員が大合唱。みんなが口々に
「どこで!?」
「なんで言わなかったんだよ!」
と言う。
ぼくは金子に向かって頭を下げて言う。
「廊下で拾ったんだけどタイミングがつかめなくて渡せなかったんだ」
「そうなの・・・?」
金子が驚いたような声を上げる。
「うん・・・本当にごめんなさい!!」
さらに頭を下げる。すると、金子は笑って
「いいよ。拾ってくれてありがとう」
と言ってくれた。ぼくはホッとして頭を上げる。クラスの皆もホッ
とした顔をして教室の空気が緩んだ。
皆がホッとして笑う。
(よかった・・・)
すると入り口でガラリと音がした。
桜木が暗い顔で帰ってくる。桜木にクラスの皆が
「まだ探してくれてたの?」
「桜木ぃ犯人は小林だとよ!」
「拾ってたけど渡せなかったらしいわよ」
皆が笑う。桜木もひきつったような笑いをする。
桜木がぼくのほうを見た。ぼくは苦笑して顔をそむけた。
しかし桜木はぼくに駆け寄ってきて
「どうして・・・!?」
と聞いた。ただぼくは笑ってごまかした。
桜木は小さくため息をつくと
「あなたってお人好しね・・・」
と呆れたように言った。そして・・・
「でも・・・」
桜木が俯く。ぼくは桜木の顔を見た。
「?」
「ありがとう」
顔を上げた桜木。ぼくは初めて彼女の純粋な笑顔を見た。
ぼくの心臓はドキッと大きく脈を打った。
「どうしたの?」
と桜木は不思議そうにぼくの顔を覗き込む。ぼくは桜木から顔をそらした。
「別に・・・」
そういっているが顔が赤いのが自分でも分かる。
(見られたくない・・・!)
ぼくは自分の席に戻って顔を伏せた。と同時に先生が教室に入ってきた。
皆散り散りになって自分の席に戻る。
5限めの数学が始まってからもぼくの頬はまだ少し熱かった。




