寂しいですか?
〜短編6作目〜
今は短編ですが、人気があったら続き書こうかな?って思ってます。
いつもとは違った作品になったと思います。
それではドウゾ
「寂しいな、、。」
綺麗な女は言った。
この世界は言葉しかない。というか、言葉しか意味を持たない世界。
例え、歩いていても『歩く』という言葉をかけなければ歩いていないのも同じ。
例え、その場にいるはずでも『名前』を言葉にしなくては存在しないのも同じ。
そんな煩わしい世界だ。
「寂しいですか?お嬢様。」
声は聞こえるが、そこにはまだお嬢様しかいない。
「くれは、、ね?」
するとその場に暮波と呼ばれた男の子も存在が認められた。
「寂しいですか?」
「いいえ、寂しくないわ。あなたがいるもの。」
「そうですか?しかし、アナタの心からは『寂しい』という言葉がでていますよ。」
「アナタ、言葉が見えるのね。」
「はい、もうずっと前からでございます。」
この世界は言葉で出来ている。そして、一般人は声に出さなければ、言葉は生み出せないし、聞こえない。
しかし、ごくまれに言葉を思うだけで、見えてしまう者がいる。
こうした者を『見者』といったりする。
「そう、アナタは見者なのね。」
「いいえお嬢様。私は見者などではございません。」
「ではなんだというの?」
「私は詞配者でございます、お嬢様。」
「し、はい、、しゃ?」
詞配者とは、言葉を支配する者のことで、言葉を聞かなくても見なくても感じることができ、ある時は言葉で人を操ることさえ出来る。
しかし、詞配者なんて本の世界の住人で、この世には存在しないものと思われていた。
「暮波。本当なの?詞配者だなんて、、」
「えぇ、嘘ではございません。
私は随分と昔に言葉の理を見たのでございます。」
「じゃあアナタに隠し事は出来ないわね。」
とお嬢様は言い、フフフと優しく笑った。
「でもね暮波。私にはわからないでいるの。なにがこんな気持ちにさせるのかを。」
お嬢様は眉をハの字にさせて俯いた。けれども言葉に出てないが為に、悲しいという意味は、前にいる執事である青年にしかわからなかっただろう。
「はい、それも言葉にでておりました。」
「では、アナタにはわかるのね?この気持ちの理由が。」
「はい。私には伝わってまいります。」
「では、なに?暮波、教えて頂戴。」
「お嬢様。それはいとも容易いことでございます。
しかし、私が教えてしまってよろしいのでしょうか?
言葉は自分で見つけて声にすることで、初めて意味を持ちます。」
「でもわからないの、暮波。わからないのよ!」
「そうです、今、お嬢様はわからないのです。
そしてわからないまま、見つけようともしないで、探すことをためらってらっしゃる。」
少しキツめの言葉をかけられ、お嬢様はハッとし、暮波は続けて言った。
「お嬢様はもうその言葉を知っておいでです。」
「え?」
「そして、私にも関係してくるものでございます。」
「暮波、、にも?」
「はい。」
それから幾日か過ぎていく中でお嬢様は数十、数百もの言葉を口に出してみたが、一向にわからなかった。
今まで、探そうともしていなかったのだ。今更、探し方などわかるはずもない。
だから、ただ闇雲に言葉を呟いていた。
そして、言葉にも行き詰まった頃、ふと暮波の話を思い出した。
――私にも関係してくるものでございます。―――
暮波にってどういうことだろう?
と、暮波のことを思いながら、暮波に合いそうな言葉を呟いてみた。
「クール、執事、家来、・・・・、男。」
そして、色々つぶやく中で『男』という言葉に少し近いものを感じた。
でも、まだ違う。
そんな時、
「お嬢様、わかりましたか?」
ふと誰もいない場から声がかかった。
「暮波ね?」
「はい。」
まだ、わかっていないことを知っていながらこんな事を言ってくるのだ、この男は。
「わからないわ。でも『男』って言葉がしっくりしたの。」
「近いですねお嬢様。」
「そう?」
お嬢様は少し明るさを帯びた。
「はい。では、お嬢様の努力に免じて私が言葉を授けましょう。」
と優しく微笑む暮波には、言葉にしなくても努力を感じられたのだろう。
そして続けた。
「お嬢様は私をどうやって思ってらっしゃいますか?
ただの『男』ですか?
違うからしっくりくるけど、ピッタリではなかったのではないですか?
私は今、お嬢様にとってどのような存在ですか?
そして、どのような存在になりたいのですか?
その現実と理想のギャップが寂しく感じる原因でしょう。」
キレイな笑みとキレイな言葉は、お嬢様にはしっとりと、そしてぐっさりと胸に響き、今まで自分の気持ちがわからなかったことが嘘のように、ハッキリと頭の中に言葉を導き出した。
「そう、わかったわ!」
「お嬢様?」
暮波にはわかっていた。その気持ちが勘違いの間違いだと。
しかし、声にしてしまえば、それが真実になってしまう。
詞配者ならその間違った真実を変えられる。本当の真実に出来る。
でも、言葉はそう簡単に踏み越えられない。それが、本人にとって一番の言葉だから。
だから変えられない。
「わかったわ。大切なの、あなたの存在が。でも、アナタは執事で私はお嬢様。そんな壁のある関係はいやだわ。」
「では、私はどうすればよろしいのですか?」
「『友』、、。これだわ。」
ニッコリと笑って続ける。
「友達になってちょうだい。友達に!!」
「いいですよ。でも、具体的にどうすればよいのですか?」
「そうね、私を名前で呼んでちょうだい。暮波。」
暮波はドキッとした。自分はお嬢様が好きで、でも名前を呼ぶのはおこがましくて、、。
というよりは、恥ずかしくて、出来なかったのだ。
しかし今その許可が下りた。
暮れ波にはわかる。今、自分がものすごく嬉しいことが。詞配者であるからこそ、その言葉が素直に感じ取れた。
しかしながら、お嬢様の気持ちは『友』なんかじゃない。
同じ情でも友情ではなくて、『愛』の情だ。
まだ気づいていない。それでも暮波はいいのかもしれない。
今はそっとお嬢様の一番近い存在になりたかった。
一番近い存在でいたかった。
それだけだった。
そして、しばらくポカンとしていた暮波にお嬢様は問いかける。
「暮波、いや?」
「いいえ。ありがたいことであります。この上ない喜びにございます。」
そう右手を心臓のもとに置き頭を下げながら言った。
例えこれが嘘でも、言葉にだした時点で真実になった。
そして、優しい笑みではなく、心からの嬉しさ、明るさを帯びた笑顔を見せた。
それは、詞配者の力を存分に使ったおかげで、口に出さなくても、お嬢様にはわかっただろう。
それから暮波は続けた。
「兎莉、、、様。」
「フフフ、様はいらないわ。暮波。」
ブワッと自分の顔が赤くなったのを暮波は感じながら、
「トリア。」
いつもと1オクターブ低い声で囁くように言うと、自分と同じように赤くなった兎莉を見た。
2人して赤い顔をして、これを言葉にするのは難しいかもしれない。
それをわかるのは、きっと詞配者だけだろう。
それから、2人の関係は友へと変わっていった。
当然一人称も「私」から「俺」へ変わる。
お嬢様は相変わらず「私」ではあったけども。
そして暮波は願う。
――いつか、『友情』という勘違いの気持ちが真実ではなくなり、この世界に『愛情』という言葉が響く日を。―――
ここは言葉なしでは動かぬ世界。
2人の話はまだまだ続くのだろう。
言葉があり続ける限り。
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