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第20話 書き手、姿を消す

 彼がいなくなったことに、最初に気づいたのは誰だったのか。

 それは、はっきりしない。


 更新が止まった。

 連絡がつかなくなった。

 集会に姿を見せなくなった。


 どれも、決定打にはならない。

 これまでも、彼は不定期だった。

 沈黙は、珍しくなかった。


 だが、いくつかの小さな事実が重なっていく。


 部屋の鍵が、管理会社に返却されていた。

 机の上は、妙に整っていた。

 パソコンは初期化され、

 クラウドの共有は、すべて解除されていた。


 持ち出された形跡は、ない。

 荒らされた様子も、ない。


 ただ、生活の痕跡だけが、終わっている。


 警察は、事件性は低いと判断した。

 争った跡もなく、遺書もない。


 「自発的な失踪でしょう」


 それが、公式な見解だった。


 人々は、納得しなかった。


 書かれることを望んでいた人たちは、混乱した。

 書かれなかった人たちは、怒った。

 信仰の集団は、沈黙した。


 誰もが、同じ疑問を抱えている。


 ——逃げたのか。

 ——壊れたのか。

 ——もう、存在しないのか。


 答えは、ない。


 数日後、ネットに一枚の画像が出回った。

 どこから流出したのか、誰にも分からない。


 封筒に入った原稿。

 タイトルも、著者名もない。


 短い文章だけが、写っている。


 > 選択肢は、ここにある。

>

> だが、結末は示さない。


 続けて、もう一段。


 > この文章は、誰の人生も導かない。

>

> 読んだ人が、選んだ結果だけが、残る。


 最後の一文。


 > 続きを求めるなら、

>

> それは、あなたが選ぶ番だ。


 それを見た人々は、解釈を始めた。


 「無責任だ」

 「最後まで書くべきだった」

 「これこそが答えだ」


 言葉は、また歩き始める。


 だが、決定的に違う点があった。


 もう、書き手がいない。


 誰も、続きを書いていない。

 誰も、選択肢を配っていない。


 それでも、人々は動く。


 迷いながら。

 間違えながら。

 責任を、自分で引き受けながら。


 書かれていた人生は、静かに解けていく。

 止まっていた人が、少しずつ動き出す。

 滑らかだった人生に、引っかかりが戻る。


 それは、不便だった。

 不安だった。

 だが——生々しかった。


 彼が生きているのか、死んでいるのか。

 それを確かめる術は、ない。


 ただ一つ、確かなことがある。


 彼がいない世界でも、

 人生は続いている。


 物語は、残った。

 だが、物語の中心は、空いた。


 その空白は、

 誰かが埋めるための場所ではない。


 選ぶための場所だ。


 ――続きは、誰かの人生で。


 第1部・完


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