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第17話 書くことを信仰する集団

 最初は、集まりだった。


 怒りや不安を共有するための、小さな会合。

 誰かを責めるためでも、抗議するためでもない。

 ただ、話すための場所。


 だが、いつの間にか、言葉が揃い始めた。


 「書かれることで、救われた」

 「選択肢をもらえた」

 「迷わなくてよかった」


 体験談が、繰り返される。

 同じ言い回しで、同じ結論に辿り着く。


 ——書くことは、善だ。


 誰かが言い出したわけではない。

 自然に、そうなった。


 集団は、名前を持ち始める。

 「続きの会」

 「選択の輪」

 呼び名はいくつもあったが、意味は同じだ。


 書かれる人生を、正しいものとして受け入れる人たち。


 彼らは、怒らない。

 抗議もしない。

 ただ、信じている。


 「書く人は神じゃない。

 でも、書く“行為”は、神に近い」


 そんな言葉が、拍手とともに受け入れられる。


 誰が書いたかは、重要ではない。

 重要なのは、書かれることそのものだ。


 集団は、ルールを作った。


 ・書かれた選択肢は、疑わない

 ・失敗しても、書かれた結果として受け入れる

 ・書かれていない判断は、極力しない


 自由意志を否定しているわけではない。

 ただ、優先順位を下げているだけだ。


 それが、彼らにとっては楽だった。


 彼は、その集会を遠くから見ていた。


 壇上に立っているのは、別の人間だ。

 書き手ではない。

 ただの、熱心な参加者。


 それでも、人々は耳を傾ける。


 「書かれることで、人は救われる。

 書かれない自由は、不安を生むだけだ」


 言葉は、整っている。

 反論しにくい。


 実際、集団の中にいる人々は、落ち着いていた。

 迷いが少ない。

 表情が穏やかだ。


 それが、余計に怖い。


 夜、ネット上にも動きが出た。


 > 書かれる人生は、甘えじゃない

>

> 自分で選ぶことだけが尊いわけじゃない

>

> 書く行為を、もっと広めるべきだ


 信仰は、拡張する。


 やがて、こんな声も混じり始める。


 「書かない人間は、無責任だ」

 「選択肢を与えられるのに、拒むのは罪だ」


 その瞬間、線が引かれた。


 書くことを信じる側。

 信じない側。


 彼は、気づいていた。


 これはもう、彼個人の問題じゃない。

 自分が書くかどうかも、重要ではなくなっている。


 “書くという概念”が、信仰になった。


 神は不要だ。

 教祖もいらない。


 ただ、

 「書かれると楽になる」

 という実感だけで、人は集まる。


 彼は、初めて本気で恐ろしくなった。


 もし、書くことが正義になったら。

 もし、書かれないことが否定されたら。


 選ばない自由は、

 もう許されない。


 その夜、彼はメモに一行だけ残した。


 ——これは、物語じゃない。

 ——宗教だ。


 そして宗教は、

 必ず、異端を生む。



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