校則違反の輝き
夕焼けが校舎の影を長く伸ばす頃、私立ローズマリー学園の生徒会室では、生徒会長の細川アヤメが重厚なマホガニーの机に突っ伏していた。
アヤメは、射抜くような強い眼差しと、一度口を開けば溢れ出す情念の深さを併せ持つ少女だ。彼女の背後には常に、物理法則を無視して咲き乱れる極彩色の花々と、オペラ歌手の叫びのような後光が差している。だが、その華やかなオーラの内側で、彼女の心は一滴のドリップコーヒーのように濁っていた。
隣のクラスに、ガブリエル・アッシュ、通称ガブ君が転校してきてからというもの、彼女の平穏は崩壊した。
ギリシャ彫刻をそのまま命の通った人間にしたような、あまりに非現実的な美貌を持つガブ君は、歩くたびに廊下を大理石に変え、彼がため息をつけば教室に冬のダイヤモンドが降り注ぐ。その輝きはあまりに暴力的にキラキラしており、アヤメの胃壁をキリキリと締め付けた。
ある日の放課後、ガブ君が突然生徒会室の扉を蹴り開けた。扉は開く瞬間に黄金の砂へと姿を変えた。
「会長、ボク、学校を銀河鉄道の停車駅に改造しちゃった。みんな星空を見上げて喜んでるよ」
ガブ君が微笑むと、彼の長い睫毛からこぼれた光の粒がアヤメの頬を掠めた。アヤメは立ち上がり、机を叩いた。
「あのね、ガブ君。あなたが土星の環をネックレスにして全校生徒に配ったせいで、地学準備室の磁場が狂って、今朝から誰もコンパスを使えないのよ。キラキラすればいいと思ってる? 輝くことの裏側には、誰かが掃除しなきゃいけない光のカスが溜まるの。あなたは、夜中の3時にコンビニの冷え切ったおにぎりを食べながら、消えない請求書の数字を見つめたことがある?」
アヤメの声は、鋭い刃物のようでいて、どこか深夜のラジオから流れる寂しげな音楽に似ていた。ガブ君は首を傾げ、その澄んだ瞳に初めて戸惑いの色を浮かべた。
「ボクは、ただ、みんなを元気にしたいだけなんだ」
「元気っていうのはね、眩しさで目を逸らさせることじゃないわ。暗闇の中で、一緒に足元を照らす小さなマッチの火のことよ」
アヤメはため息をつき、制服のポケットから一枚の紙を取り出した。それは彼女が徹夜で書いた、学園祭の予算表だった。
「ガブ君、見て。ここにある数字のひとつひとつに、誰かの節約したパン代や、誰かが一生懸命集めたアルミ缶の対価が詰まってる。これが、私の守るキラキラなの。ダイヤモンドじゃない、ただの数字。でも、これが一番温かいのよ」
ガブ君は、アヤメの差し出した泥臭い予算表を、宝石を扱うように丁寧に受け取った。彼の指先が触れた場所が、ほんの少しだけ金色の光を放つ。
「……難しいね。ボクには、そのパン代の重さがまだ分からない。でも、会長のその怒った顔、さっきの銀河鉄道よりずっと綺麗だよ」
「うるさいわね。さっさとその超次元的なオーラを消して。掃除用具入れに隠してあるモップを持ってきなさい」
アヤメはぶっきらぼうに言い放ち、窓の外を見た。空には、ガブ君が呼び寄せたオーロラが揺れていたが、アヤメが見つめていたのは、その下で一生懸命に部活動に励む生徒たちの、泥にまみれた背中だった。
結局、ガブ君はモップの使い方が分からず、バケツの水をシャンパンに変えてしまい、アヤメは再び絶叫することになった。けれど、その日のアヤメの夕食の味は、いつもより少しだけ、確かな手応えを持って喉を通っていった。
超次元的な美しさと、地を這うような日常。その交差点で、生徒会長は今日も眩しさに目を細めながら、誰かのための小さな明かりを灯し続けている。




