雨音の隙間で
雨上がりの夜、薄暗いバス停で彼女は小さな傘を握っていた。誰も近づけない空気をまといながら、静かに雨を見ている。
「…近づかない方がいいよ。私、人と一緒にいると迷惑かけるから」
思わず言葉が漏れた。
「僕も同じだ。人と関わると、自分の嫌な部分ばかり浮かぶ」
彼女は一瞬驚いたように顔を上げ、そして少し笑った。
「それって、寂しくない?」
寂しい。けれど――怖さの方が勝っていた。声には出さずに、胸の内で繰り返す。
「でも今は…君なら大丈夫かもしれない」
その瞬間、心の奥の影が少しだけ薄れた気がした。
彼女は雨に濡れた頬で囁く。
「本当は、人よりも…自分が怖いんだ」
わかる。僕もそうだ。誰かを拒んでいたのは、結局自分自身の弱さだった。
「だから、一緒に少しずつ慣れていこう」
そう言った声は震えていた。嘘をついているのか、本気なのか、自分でも判然としない。
けれど、傘の下でわずかに縮まった距離だけが確かで、寄生する孤独は確かにまだそこにあるのに、その夜だけは息をするのが少し楽だった。