第2話 師範の教え
青年になった俺は、父のように強くなりたいと願っていた。
寡黙で、黙々と家族を支えていたあの背中を、少しでも追いたかった。
村の外れにある古い道場へと通い、師範のもとで木の稽古刀を授かる。
朝も夕も、額に汗を滲ませながら、黙って刀を振った。
それは力のためなのか、誰かを守るためなのか、自分でも答えを持てないまま、ただ夢中で打ち込んでいた。
◇ ◇ ◇
稽古場では、年の近い弟子たちが競うように稽古刀を振っていた。
誰が速いか、誰が強いか──その目は、まるで試合のようにギラついていた。
「刀は敵を斬るためだ」「強さを見せるためだ」
そんな声が飛び交う中、俺は何も言えずに黙っていた。
刀は、本当に“斬る”ためにあるものなのだろうか──
俺の中には、答えがなかった。
◇ ◇ ◇
ある日の夕暮れ、稽古を終えて道場の床を拭いていると、師範が背後から声をかけてきた。
「お前は、刀をどう使いたいのだ?」
不意に問われ、俺は言葉に詰まった。
うまく答えられないまま、俯くと、師範は柔らかく、しかしはっきりとした口調で続けた。
「刀は、奪うためではなく、繋ぐためにあるのだ」
(……繋ぐ?)
その言葉の意味は、当時の俺にはよくわからなかった。
けれど、不思議とその声は、胸の奥に静かに沈み込んでいった。
◇ ◇ ◇
その日以来、俺は稽古刀を握るたびに、その言葉を思い出すようになった。
誰かと競うためでも、力を誇示するためでもなく──
“繋ぐ”とは、どういうことなのか。
わからぬままでも、その問いは、俺の中でずっと消えなかった。
(父もきっと、言葉ではなく、背中で何かを繋いでいたんだ)
ようやく、そのことに気づき始めていた。