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EP.70 就任表明(エピローグ⑤)

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 既にイグナーツが聖騎士団・団長になる事が正式に決まっていた。彼は脊髄の損傷で歩く事もままならない状況だったため、本人も熟考したが、覚悟を決めて受け入れる事にしたのだ。しばらくは天鴞隊・隊長と聖騎士団・団長を兼任する事となった。


 これから聖騎士団及び聖王は、重大な決定をしなければならない。『魔神器:有翼のアンクレット』の継承者であったガリオン亡き今、新たな継承者を決める必要があった。


 通常であれば、勇隼隊の小隊の一番隊・隊長のグライフが第一候補に挙がるはずだが、『継承評議会』のメンバーの意見は分かれていた。


    *    *    *


 盛大な合同葬儀から1週間後、聖騎士団本部前に聖騎士が集められ、聖騎士団の旗が多数掲揚されて、盛大な式典で就任表明をする運びとなった。


 その前に、幾つかの発表があった。


 天鴞隊・副団長だったサビオが聖雀隊に移籍し、副隊長の後任に選ばれた。本来、彼は攻撃魔法より回復と防御魔法に優れた魔法使いで聖雀隊の方が合っていたようだ。


 代わって天鴞隊・副隊長となったのは、〈カイン・ドネス〉だ。かつて、彼はハーディーを助けた事がある。カインは長らくアルテリア王国に派遣されていたが、聖地サンクホフトに帰還した。カインが戻り、ハーディー達は非常に喜んだ。


 しかし、勇隼隊・隊長と副隊長の選任がまだ進んでいなかった。基本的には勇隼隊・隊長が『有翼のアンクレット』の継承者となるためだ。


 イグナーツが『魔法の椅子』で壇上に上がり、何とか杖を突いて立ち上がった。


 パチパチパチパチパチ……


 皆、温かい拍手で彼を迎え入れた。彼がどれ程の負傷をしたのか、誰もが知っていた。


 ガリオンと戦っていた記憶を〈忘れさせられた〉者達も、イグナーツが命懸けで戦っていた事は覚えていた。彼が聖地サンクホフトの英雄の1人である事は、全員忘れていなかった。誰もが心配する気持ちを抱えながら、見守るような目で彼に注目した。


 イグナーツの第一声に注目が集まり、緊張感が高まる――


 ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……ドクンッ……




「こんにちワンワン。イグナーツです」


 ズコ~ッ‼ ほぼ全員、その一言にずっこけた。


「まず初めに言わせて下さい。アルテリア産のワイン、マジ旨い……」


 ハーディー達は、「ノリ、軽~っ⁉」と心の中で叫んだ。


「はい~。てなわけで、今回、非常ぉ~に残念ながら、天に召された元団長のゲオルクさんに代わって、新・聖騎士団・団長になった……イグナーツでぇーすっ‼ イェーイッ‼ はぁ~い、パチパチパチパチ‼」


 イグナーツは自分で「パチパチ」と言いながら、拍手を促した。


 ……パチ……パチ……パチパチパチパチ……


 拍手がまばらになり、弱まっている。会場はドン引きしていた。


「ヤベェ……彼は重傷だったと聞いたけど……きっと頭を強く打っておかしくなってしまったに違いない……」


 多くの者がこのように感じた。


 聖雀隊・隊長のフラヴィアはじめ、壇上にいる周りの者達は若干蒼褪めている。


「……君達ィ~、ノリが悪いよ~……」


 改めて、イグナーツは『有翼のアンクレット』の継承について語り始めた。


「――というわけで……勇隼隊の皆さんを評価していた御二方が天に召されたので、改めて、君達の実力を見たいと思っていてね……どうすれば良いか……そこで、賢い僕は閃きました。これより、発表します‼ ……ドゥルルルルルロロロロルルルル……」


 イグナーツは自身の声で「ドラムロール」のような効果音を出し始めた。


 同時に、待機していた音楽隊が本物のドラムを鳴らし始め、「ドドドドドドド……」という轟音が響き渡った。


「パンパカパーンッ‼ では、発表します!」


 ドラムロールがピタッと止まった。


 沈黙が周辺の空気を包み込み、ハーディー達は「ゴクリ……」と息を呑んだ。


「なんと! 『魔神器:有翼のアンクレット・継承権争奪戦‼』の開催が、決定いたしましたぁ~っ‼」


「えっ⁉ えぇえええええーーっ⁉ け、継承権争奪戦~~ッ⁉」


 誰もが驚き、会場は異様に沸き立った。ハーディーもジゼルも目を丸くして、口をあんぐりとさせ、驚いていた。そして普段は冷静なグライフも、目を見開き驚愕した。


「安心して下さい。準備期間はありますよ! 開催は、およそ2か月後に決めました」


 会場が「ざわわ……」とざわめいた。


「……ちなみに、銅星級以下のみんなが力試しできる大会も用意しといたよ~っ! それは、3対3のチーム戦にするつもりだ。ベスト8には報奨金と、任務外の職務の軽減を約束しまーすっ‼ どしどし参加して下さいなぁ~‼」


「うぉおおおおおおっ‼ イグナーツ団長~ッ‼ 良いぞーっ!」


 何処からともなくそんな声が上がり、会場は大いに盛り上がった。


 こうして、ザ・イグナーツショー……いや、新団長就任式典は終幕した。


 この後、裏ではフラヴィアの怒号が轟いた。


「……あ・ん・た……ねぇっ⁉ 新団長なんだから、もっとちゃんとやってよ……っ‼」


 イグナーツは両耳に指を入れて、「うっさいな~」と言いたげな表情を浮かべた。


    *    *    *


 就任表明の式典が終わり、ハーディーはカインの下へ駆け寄った。


「カイン先輩! お久しぶりです‼」


「あぁ、ハーディー君じゃないか。久しぶりだね。元気にしてたかい?」


「この通り、元気ッス‼」


 ハーディーは筋肉を見せつけるように動いて元気に答えた。


「あはは。相変わらず元気そうで良かった。君に会えて嬉しいよ!」


「俺もッス‼」


 ハーディーは彼の事を心から尊敬していたので、激しく後輩モードになっていた。


「さっきのイグナーツさんからの発表は本当に驚いたよねぇ……まさか、あんな事を言い出すとは……」


「確かに‼ ですよねぇ⁉ 正直、俺は常々、絶対にいつか『有翼のアンクレット』を継承したいと思ってたんで、スッキリと決まる良いアイデアだと思いましたね。……絶対に白黒付けたい野郎ライバルがいるんで……」


「だろうね! やっぱり、君ならそうだろうと思っていたよ‼ ……いやぁ、それにしても…………実は、僕も参加する事になっちゃってね……」


「えっ⁉ えぇっ⁉ マ、マジッスか⁉」


「あはは、マジ‼ マジなんだよ~っ! ビックリしちゃうよねぇ……」


 ハーディーは内心で「カインさんとも戦う事になるかも知れない……?」と思い、若干戸惑い、息を呑んだ。


「……それにしても、大変な戦いがあったみたいだねぇ? 君の活躍は、聞いているよ。君がそんなに成長してくれて、僕も嬉しいよ……」


「ありがとうございます! カイン先輩にそう言って頂けるのはめっちゃ嬉しいッス」


「それにしても、ここも僕が知っていた頃とは大きく様変わりしてしまったなぁ……」


 カインは周囲を見渡した。ロコが戻って来た時と同じように、戸惑いを感じていた。


「いやぁ、ほんと、変わりましたよね……カイン先輩はお変わりないですか?」


「……そうだなぁ。僕はあの後、アルテリア王国に長い間、派遣されててねぇ……そこで色々と学ぶ事ができた。あの国は魔法の研究が盛んだからね……。そうだ。今度、新しい魔技を教えてあげよう。君にピッタリだと思うんだ」


「マジっすか⁉ 是非、お願いします‼」


 こうして、ハーディーはカインとの再会を喜んだ。この後、ジゼル、ミロ、マイルズと、カインを直接知らない他のメンバーも集まり、昔話に花を咲かせた。

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次回:2025年05月11日 22時20分

EP.71 胸臆の渇望エンディング

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