EP.67 温情(エピローグ②)
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
オルガ達神官は、大聖堂の奥の入り組んだ通路に進んだ。
奥の壁には〈アフラ・ルナ教のシンボル〉が装飾されている。
誰も付いて来ていないのを確認して、オルガが壁に掌を向けると、壁に装飾された〈アフラ・ルナ教のシンボル〉が、パーツ単位で回転したり横にスライドして動き、ただの石造りの壁が「ガガガガガガンッ」と横にスライドして、隠し部屋が現れた。
そこには、〈青く光る魔力の塊が、水のように流れる〉不思議な池があった。
『転送の池』だ。
『聖白の魔布』に包まれ、圧縮されていない『魔神器:神槍グングニル』と、圧縮された状態でゲオルクとガリオンが納められた『蒼白の魔石棺』が空中に浮かび上がり、ゆっくりと『転送の池』に入れられる。
ギュルルルルルルルルル……バチッ……バチバチバチバチッ‼
『転送の池』が高速で渦を巻き始め、電光が迸る。
ゴォオォオオォオォォォ……ボゥッ! ピシャッ‼ ブゥウウゥゥン……
そして、渦が深く落ち込み、強烈な蒼白い光を放った後、また静かな池に戻った。
物体転送魔法『トランスフェール』の効果で、ヴァルハラ宮殿に送られたのだ。
そこで、『魔神器:神槍グングニル』は聖王の手に戻り、ガリオンがブーツの内側に装着していた『魔神器:有翼のアンクレット』も聖王によって回収される事になる。
◇ ◇ ◇
その後、オルガ達は聖騎士団本部に出向き、搬送されたハビエル、ソフォス、イグナーツ、フラヴィア達、重傷者全員に完全回復魔法『エレメフォル・ピセラシオン』を使用し、彼らを無事に回復させた。しかし、完全回復魔法とは言え、万能ではない。
回復魔法の基本的な力は〈自己治癒力の加速化〉で、そこに〈魔力による傷の修復〉を加えるため、打撲や切り傷、軽い骨折は、比較的綺麗に治り易いが、〈自己治癒力で完全に消えない傷〉は残る場合がある。
意外にも、高齢のソフォスにはあまり目立った傷や後遺症が残らず、ハビエルは『レベル・ブースト』のダメージが不可逆的に肉体に刻まれてしまったが、最終的には、比較的軽傷な方だった。レベルが高いソフォスは、通常であれば肉体がバラバラになるような圧倒的な高威力の〈ドデカケラトプスの雷撃光球の爆散〉を受けても、魔霊気の強力な〈粘り気〉により、肉体の破壊と損傷を免れたのだ。
特に重傷だったのは、天鴞隊・隊長のイグナーツだった。
直撃を受けた呪われたガリオンの上級電撃魔法『ブリクセム』による雷撃ダメージは傷跡として残り、左目には破片が突き刺さり、左目を失う事となった。
彼はとてつもない速度で地上に落とされ、小さなクレーターができるほどの衝撃力を受け、全身のあらゆる部位に、瓦礫や割れた岩石の破片がめり込み、一般的な回復魔法だけでは治療し切れず、特殊な治療を要した。
爆発等で破片が肉体に食い込んだ場合、回復魔法が上手く機能すれば多少の異物は排出される場合もあるが、〈破片を残して傷を回復してしまう場合〉がある。
イグナーツは、脊髄にも破片がめり込んで損傷し、歩く事もできない状態となった。
また、彼ほど重傷ではなかったが、聖雀隊・隊長のフラヴィアも、瓦礫の破片がめり込み、後から取り除く必要があった。
こういった場合は、〈半物理的〉な手術が必要で、執刀魔法『メッサー・スカルペル』で皮膚を切り、異物除去魔法『エクサリム・バルシオン』で除去する。
時間をかければ、異物除去魔法だけでも皮膚の外に異物を排出可能だが、執刀魔法で切開した方が迅速に治療が終わる。つまり、この世界でも手術が必要な時はあるのだ。
魔法使いであれば、直ぐに傷を閉じる事ができるため、魔法が使えない者による〈完全に物理的な手術〉と比べ、圧倒的に迅速に手術を終わらせる事ができるのは利点だ。
結局、これ程の重傷でも、隊長格のイグナーツとフラヴィアは生き延び、無事に異物除去治療も成功し、回復しつつある。しかし、イグナーツの脊髄の損傷は、治り切るのに時間がかかりそうだ。魔法の力に頼っても、神経接続治療は非常に難しいのだ。
一方で、残念な事に、リツァルと同じく、パッセロは出血多量で絶命していた。
彼はクロウの黒刃の剣=『黒鴉ノ爪剣』で貫かれていたが、遅効性の毒が回り、回復魔法だけでは回復し切れない状態に陥っていた。
レベルの高さや肉体の頑強さでも隊長格との差が出たのだろう。
しかし、同じく『黒鴉ノ爪剣』で貫かれたミロは、念のためにサビオが早い段階で解毒魔法『デトキシカル』や浄化魔法『ピュリフィカトル』を使用していたため、命に別状がなかった。マイルズが迅速に本部に連れ帰ったのも大きな理由だ。
◇ ◇ ◇
数日後……聖地サンクホフト・第二層・アフラ・ルナ神殿――
所々にクリスタルが配されたこの荘厳な神殿は、岩山を刳り抜いて建立されている。
深い海のような色の大理石が使われた神殿内の主廊を進み、中央に進むと、『円形大広間』が広がる。
聖騎士団・副団長のハビエル・ヴィカリウスが中心に立ち、12人の〈枢機卿〉に囲まれていた。真正面に〈アフラ・ルナ教の大司教〉でもあり、〈聖騎士団・上級顧問〉でもあるソフォスが立ち、周囲に残り11名の枢機卿がハビエルを取り囲むように佇む。
沈黙を破り、ソフォスが口火を切る。
「ハビエルよ……其方とは、共に戦った中じゃ……あまり責めたくはないが……儂には〈上級顧問〉として、徹底的に追及する義務がある。その事は心得よ……」
「ハッ! もちろんであります!」
「……して、其方は、ガリオンが呪いを受けた事を知りながら、ただちに報告をせず、しばらく隠しておったようじゃな……これについて、何と弁解する……?」
「ハッ! 弁解のしようがございません……‼ いかなる処分もお受け致します……」
「……ふむ……。しかし、ハビエルよ、其方がこの呪いについて知ったのは、いつ頃じゃったかの……?」
「ハッ! おおよそ4か月前になります……!」
周囲からざわめく声が上がった。
「なるほど……という事は、実に6年半以上、ガリオンはハビエルにさえ隠し通してきたという事になるかのぉ……それほど巧みに隠し通してきたとなれば、ある程度は仕方がなかった……という側面もあるかも知れんのぉ……」
ソフォスがハビエルを庇うような発言をしたが、一部の枢機卿達は納得しなかった。
「……バ、バカげておる……‼ そ、そんな事、信じられるか‼」
「さ、最初から知っておったのではないか⁉」
「ソフォス様! お考えが甘過ぎますぞ! このような暴挙、赦してはおけませぬ‼」
数名の枢機卿が、反論し始めた。
「……じゃが、ハビエルはこの儂と共に、今回の敵と徹底的に戦い抜いた……それに比べ、其方らは一体何をしておった……⁉」
ソフォスが「ギンッ‼」と睨みつけるように枢機卿達にプレッシャーをかけた。
「うっ……⁉ だ、だがしかしっ! それとこれは、別問題だっ‼」
議論が白熱しかけた時、静観していた女の枢機卿、カルディナ・リオスが口を開いた。
「ご判断は……聖王に委ねてみてはいかがでしょう?」
「し、しかし……‼ そ、それでは我々の存在意義が……」
「そ、そうじゃそうじゃ! それはあくまで最終手段じゃ! 我々の話し合いで解決せねば……意味がなかろうっ‼」
その時、「バチィッ‼」と『円形大広間』全体に電光が迸った。
突如、「……話は理解した……」と、威厳を感じる男性の声が響いた。
「……せ、聖王様ッ⁉」「聖王様の御声じゃ……」
枢機卿達がざわめいたが、それは、実際の聖王〈メルクリウス〉の声ではなかった。
ブウゥウゥゥゥン……
そして、遠隔投影魔法『マクリア・プロヴォレアス』が発動し、まるで幽霊のように半透明で青白く光る聖王らしき姿が現れた。
しかし、実際の聖王とはまるで別人の姿で、威厳のある年老いた男性の姿に見える。
あえてなのか、オーラが揺らめくようにブレて、ハッキリと視認できない。
「ハビエルよ。団長のゲオルク亡き今、次の団長は、其方である事が既定路線じゃった……じゃが、この度の〈失態〉……及び、〈活躍〉も顧みて……其方は、現状維持の副団長として再任する」
それを聞き、枢機卿達がざわめいたが、ただちに静まり返った。
「……ハビエルに対する〈沙汰〉は以上じゃ。反論がある者は、前に出よ……」
枢機卿達は一切声を発さず、胸に手を当て、頭を下げ、一歩後退した。
「……反対意見はないようじゃ……。続いて、次期・聖騎士団・団長じゃが、ワシは、イグナーツ・インゲニウムを指名する。……ただし、本人の意思を尊重する。本人が拒否した場合は、再度協議の下に決めようぞ……以上じゃ。ひとまず、この場は散会せよ」
再び「バチチッ」と弱い電光が迸り、聖王の気配が消えた。
「…………聖王様の仰せのままに……」
枢機卿達は反論もせず、頭を下げ、静かにその場を立ち去った。
それほど聖王の意思は絶対的だ。しかし、毎回ここまでの独断的な采配をするわけではない。時に、聖王は枢機卿達の意見にも真摯に耳を傾ける事がある。
ソフォスとハビエルはプレッシャーから解放され、胸を撫で下ろし、ソフォスはハビエルの背中をポンポンと叩いた。
「……さて、次は、どのようにガリオンが呪われたのか、しっかり調査せねばならんのぅ。それについては、また後日、招集するとしよう。今日はもう、ゆっくり休むが良い……」
ハビエルは「お心遣い感謝致します……」と言って頭を下げ、その場を立ち去った。
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次回:2025年05月11日 13時10分
EP.68 コントロール(エピローグ③)




