EP.66 追憶(エピローグ①)
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
「……うっ……うぅっ……」
キーラがガリオンを抱きかかえて嗚咽し、ハーディー、ジゼル、マイルズは、その前で哀しみに暮れていた。その近くで、シリーと零番隊の3人が、副隊長のリツァルの死に打ちひしがれ、深く嘆き悲しんでいた。一方、哀しみよりも怒りが上回ったグライフは、頭を冷やすつもりで少し離れ、物思いにふけていた。
ハーディー、グライフ、ジゼル、シリーは戦闘で満身創痍だったため、零番隊の聖騎士達にマイルズも協力し、リツァルの遺体を魔布で包み、近くに寝かせた。
彼らはキーラが落ち着くまでは、しばらく待つつもりだった。
ブウゥウゥウゥウゥゥゥン……
突如、大聖堂を覆っていた結界が光を強め、幕が下りるように徐々に消えていった。
ギィイィイィィィィィ……
そして大聖堂の扉が開き、中から数名の神官が現れた。神官には女性が多いが、男性もちらほらいるようだ。
先頭を歩くのは、痩せこけた顔の年老いた女性の神官、オルガ・サチェルだ。
彼女達は真っ白なローブと垂れ布が付いた神官帽を被り、オルガの手には『聖白の光杖』が握られている。垂れ布が付いた神官帽ではあるが、彼女の耳が横に長く尖っているのがわかる。彼女は高齢のエルフなのだ。エルフは人類の16倍の寿命があると云う。彼女の推定年齢は、優に一千歳を超え、数百年前から聖騎士団に身を捧げていた。
オルガ達は、真っ先にゲオルクの遺体がある場所に向かった。
ゲオルクの遺体は、ほぼ灰のように崩れていて、原形を留めていない。
オルガは、遺体の近くで『聖白の光杖』を立て置くように、わずかに空中に浮かび上がらせ、両手を組み、祈りを捧げた。
再び『聖白の光杖』を手に取り、ゲオルクの遺体に向けると、崩れ落ちたゲオルクの肉体が、元の肉体に戻るかのように空中で集まり、形を留めた。しかし、焼け焦げた灰のような色のままで、生き返ったわけではなかった。むしろ泥人形のようにも見える。
突然、空中に小さな蒼い光が現れ、そこから拡大するように〈流線形に近い細長い楕円型〉で〈不思議な装飾が施された蒼白い棺〉が、圧縮解除されて現れた。通常の棺よりは明らかに小さい。
浮かび上がった泥人形のようなゲオルクの遺体は、光に包まれ、形状を留めたまま圧縮され、棺の中に納まった。魂を失った肉体は圧縮魔法で圧縮できるため、巨大な棺を必要としない。葬儀では圧縮せずに一般的な棺が使われるが、一時的に遺体の回収で入れる魔法の棺=『蒼白の魔石棺』だ。
不思議な事に、『蒼白の魔石棺』は縮小して一瞬で消えたが、非常に小さく圧縮された上に、亜空間魔法『アリティラ・スブルム』によって、亜空間に収納された状態だ。
そして、ゲオルクが落とした『魔神器:神槍グングニル』も空に浮かび上がり、浄化魔法『ピュリフィカトル』で穢れを蒸発させ、光に包まれた。
突然、『聖白の魔布』が圧縮解除されて現れ、『神槍グングニル』に巻き付いて、包み込んだ。オルガの傍らにいる中年男性の神官がそれを手にした。
通常、『魔神器』を継承者以外が触れる事は〈まずできない〉が、『聖白の魔布』の効果で〈直接触れずに〉持ち運べるようになったのだ。
そして、彼女達はガリオンを看取っていたハーディー達の下へ向かった。
「聖騎士の皆様方……ご苦労様でした。まずはあなた方を回復致しましょう」
オルガが『聖白の光杖』を天に掲げた。
「エレメフォル・ピセラシオン・アレアゾーナ‼」
その場にいた全員が明るい蒼碧色の光に包まれ、急速に回復していく。回復効果が桁違いに高く治りが凄まじく速い。同時に、解毒魔法『デトキシカル』、浄化魔法『ピュリフィカトル』、修復魔法『リペラシオン』の効果が現れ、解毒と浄化の効果が現れ、金属以外の全てがクリーニングどころか修繕されたかのように元通りの清潔感を取り戻した。肉体の穢れは光の粒子となって蒸発し、湯浴みした直後のようにスッキリ清潔になっていた。
「お、おぉ~⁉ ……ス、スゲェ……‼ ……あ、ありがとうございます……‼ ……おっ? 体臭も無くなってる⁉」
ハーディーは目を輝かせて感動したが、ふと内心で「ここまで回復力が高いなら、戦闘中に助けてくれれば良かったのに……」と思いつつ、「……まぁ、戦闘力は低そうだから、巻き添えになったら危ないか……」と、直ぐに諦めた。
ジゼル、シリー、キーラ、マイルズ、零番隊の3人も同様に回復して身綺麗になった。特に刃旋風魔法の直撃を喰らってボロボロになっていたジゼルとシリーは、装束が修繕された事に感動を覚えた。一方、苛立って数十m離れた場所の岩に座っていたグライフにも同様の効果が現れ、戸惑いながらも感服した。
しかし、当然ながら絶命したリツァルとガリオンには、その効果が現れなかった。
「……あ、あ、ありがとうございました! ……あ、あ、あの……その……そ、そそ、蘇生させる事は……で、できないのでしょうか……?」
シリーがオルガに対して、遠慮がちに聞いた。
それを聞き、キーラは「ハッ!」として、希望を抱いた。
「……それは無理です。蘇生魔法は〈生きられる身体〉と〈切り離された魂〉を繋ぎ止める魔法……〈これ以上生きられない肉体と魂〉を繋ぎ止める事は不可能なのです……」
「……そ、そうですよね……」
シリーは俯き、深い哀しみを含んだ表情で悔しさを滲ませた。
「……う、うぅっ……ガリオン……‼」
キーラがわずかに抱いた希望はわずか数秒で脆くも崩れ去り、悔しさで涙が溢れ、再び嗚咽した。
「……お気の毒ではございますが、ガリオン様のご遺体は我々にお任せ下さいませ。まずは、彼のご冥福をお祈り致しましょう……」
再びオルガは『聖白の光杖』を立て置くように、わずかに空中に浮かび上がらせ、両掌を合わせて目を閉じ、指を絡めて組み、祈り始めた。
「天空と月の神・アフラ・ルナよ……彼の魂をあなたの神聖な光で包み込み、天の領域で永遠の安らぎと平和な安寧をお与え下さい。神聖な月の光の下で、どうか安らかに……」
オルガが目を開く。周囲の神官が、キーラに話しかけ、ガリオンを引き離そうとしたが、彼女は泣き喚いて拒み、ガリオンの遺体を抱きしめた。
神官の1人が、キーラに上級鎮静魔法『ルグナ・ヴォルテクス』をかけた。キーラの頭部に光の渦が浮かび上がり、光輪となって頭を縛り付けるように縮んで消えた。
そして、キーラは意識を失い、脱力して倒れた。
ハーディー達は驚きながらも、黙ってその様子を見ていた。
オルガが『聖白の光杖』を振るい、ガリオンの遺体に向けると、遺体が浮かび上がり、光に包まれた。遺体には回復魔法の効果がないはずだが、不思議と千切れかけていたガリオンの手足が縫合されるようにくっ付き、脇腹の傷も同じように閉じ、固まった血も蒸発し、身綺麗に浄化されていく。
これは、遺体保全魔法『エンバル・サマール』の効果だ。
あくまで回復ではなく、遺体の形状を整えるエンバーミングで、防腐処理され毒素を排出しなくなり、同時に浄化魔法『ピュリフィカトル』と同様の効果も発揮された。
再び空中に小さな蒼い光が現れ、拡大するように『蒼白の魔石棺』が現れた。
「……グスッ……ガリオンさん……さようなら……」
ハーディーが別れの言葉を静かに呟いた。
そしてゲオルクと同じように、ガリオンの遺体は圧縮されて『蒼白の魔石棺』に納められ、亜空間に収納されて消えた。
ハーディーの脳裏に、ガリオンと出会った頃からの〈追憶〉が呼び起こされた。
× × ×
――初めて出会った時――――
ガリオンさんは上空から突撃し〈氷の鬼〉状態だった〈ゲアザ〉を一刀両断にした。
「聖騎士・ガリオン・レオンヴロール……冥土の土産に覚えておけ――――よく頑張ったな――――俺の名はガリオン。お前を探しに来た。俺達は聖騎士団だ」
ガリオンさんは「ニッ」と笑って、握手に応じてくれた。
――初めて聖地サンクホフトに来た時――――
「はぁ……はぁ……だいぶ空気が薄くなってないスか……」
坊主頭にした16歳当時の俺は、息切れが激しく、少しフラついていた。
「あぁ。ここの標高は4千mを超えているからな。もう少しだ。見えてきたぞ」
前を歩くガリオンさんが、前方を指差して振り向いた。
――グライフを連れて来た時――――
ゴンッ! と、ガリオンさんがグライフに拳骨を喰らわせた。
――剣技の訓練を受けていた時――――
ガンッ! ガッ! ドゴォンッ‼ と、コテンパンに俺はやられた。
「そんなもんか⁉ ハーディー・スカイブレイド!」
――ドワーフの谷での任務の時――――
キャンプ地では、隊長のガリオンさんが積極的にキャンプ飯を調理していた。
その後、グライフと喧嘩して、ガリオンさんの下に連れて行かれた。
「……う~ん……、いやぁ……はっはっはっはっは――――お前らには、期待してっからよ……だから、もう今日は喧嘩すんなよ? 良いな?」
――その後、ドワーフの谷でガリオンさんが火竜を追い払った時――――
ブゥンッ――ガリオンさんが『有翼のアンクレット』を起動させ、空高く飛び立って、背中で交差する鞘に納めていた『鳳翼双剣』を抜き、火竜を追いかけた。
深追いせず元の場所に戻って、「フワッ」と、静かに着地し、慣れた手付きで『鳳翼双剣』を鞘に納めた。あまりのかっこ良さに、「ブルッ」と身震いした。
――夜中に訓練場でマンツーマン稽古を受け、俺がトラウマを語った時――――
「おぅ! そうだ! その意気だ‼ 人々を護る決意! それが、聖騎士に必要な心構えだ‼ お前には期待してるぜ。ハーディー」
「……そ、それなんですが……『本当に俺なんかが、聖騎士になって良いのかな?』……って、最近、思い始めてて……」
「――十分、〈護り切った〉じゃないか――」
「……で、でも、イーモは、〈左腕〉を失いました……‼ ……お、俺は、いつも目の前の人間をいつも護り切れていない……ッ‼」
その後、俺はハイマー村近くの岩窟の事件について語った。
「……オフィアラさん……彼女は、聖騎士を目指して、ずっと努力していました。だから、俺の〈命の恩人〉であるオフィアラさんの夢を、俺も追う事にしたんです――だ、だけど俺には、〈目の前で友達が殺されていくのを、黙って見過ごした過去〉がある……という事が、事実だ……‼ ……ガ、ガリオンさん……‼ ほ、本当に……こ、こんな俺が、聖騎士なんて目指して良かったのかな……?」
俺が嗚咽した時、ガリオンさんは、俺の肩を引き寄せてくれた。
「良いか? ハーディー。〈未熟な過去の過ち〉の〈反省〉から、〈人間は成長する〉んだ……。誰よりも後悔し続けているお前だからこそ、〈真の聖騎士〉になれるはずだ。俺は……お前を応援し続ける! 期待してるぜ……ハーディー・スカイブレイド……‼」
ガリオンさんはそう言って、俺の頭をガシガシと撫でてくれた。
「……それに、その頃、お前はまだほんの小さなガキだったじゃないか……いつまでクヨクヨと気に病むつもりだ? あの世でオフィアラさんも笑ってるぞ。前を見て進め‼」
この4年間の様々な思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡り、胸の奥底から熱い感情が一気にこみ上げてきた。
――そして、最後の戦いの時――――
上空から地面が割れて陥没するほど強烈な勢いで1人の男が着地し、土煙が舞った。
土煙が晴れると、そこに居たのは――ガリオンさんだった。
× × ×
ハーディーは崩れ落ちるように両膝をつき、地面に手をついた。
「……う、うぅっ……あ、貴方には、本当にお世話になりました……あ、ああっ……あ、ありがとうございました……‼」
まるで土下座するような形で、ハーディーはガリオンへの感謝の意を表した。皆、一様に哀しみに暮れた。グライフは少し離れた場所でその様子を見ていたが、同じ気持ちだ。
続いて、オルガは魔布に包まれたリツァルの遺体に近付き、遺体保全魔法を発動した。
しかし、『蒼白の魔石棺』には納めなかった。
「……この方のご遺体は、通常の手順で搬送して下さいませ……」
「しょ、承知致しました。では、我々は先にリツァルさんを連れて本部に戻ります……」
零番隊の聖騎士は魔布を担架のように広げ、リツァルの遺体を乗せて立ち去った。魔布は圧縮して大量に持ち運べるし、魔力を流すと強化され、破け難くなる便利な魔道具だ。
「……よろしければ、あなた方は大聖堂へお越しください。ひとまずは神に祈り、身体を休めて下さいませ……」
先程の回復魔法で肉体の傷は回復していたが、疲労感、特に脳の疲れは完全に回復し切っていなかった。おそらく戦闘継続の緊張のせいもあったのだろう。
ハーディー達は素直に従い、大聖堂に向かう事にした。倒れたキーラをハーディーが連れて行こうとしたが、「オレに任せて」と、ジゼルが横抱きにして運んだ。
ハーディーは「ハッ!」と気付き、ガリオンが落とした『鳳翼双剣』を回収した。
* * *
意識を失っているキーラは奥の部屋のソファーに寝かせ、ハーディー達は聖堂で祈りを捧げる事にした。
アフラ・ルナ教の大聖堂には、人型の像は存在しない。
大聖堂の最奥にある〈アフラ・ルナ教のシンボル〉は、〈○=円を中心で分割して、四隅を反転させて内側に向けた形〉=〈+《プラス》字形の星型〉の枠が外側を囲み、内側に〈三日月と満月が重ねられたような円環〉で飾られている。さらに内側には多重の円と、〈虹彩のような放射状の模様〉も描かれた複雑なデザインだ。人によっては、まるで全てを見透かす〈目〉のようにも見える事だろう。
ハーディー達は、改めて、ガリオン、ロジェリオ、そして団長のゲオルク、リツァル他、犠牲となった戦死者達の冥福を祈った。
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次回:2025年05月11日 10時10分
EP.67 温情(エピローグ②)




