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EP.02 同族

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 ――寺院の奥の暗がりで、レイリアは意識を失って倒れていた。


 ズズッ……ズズズッ……


 氷と鉱物の中間のような床を、倒れたレイリアが引きずられていく。誰もいないが、魔法で何者かに引き寄せられていた。


    ◇    ◇    ◇


 俺には、レイリアの〈足跡〉が見える。


 レイリアは足跡魔法フート・スポールで仲間だけが見える波長の光で足跡を残した。足跡視魔法スポール・ベルにより、彼女の足跡が淡く光って見える。


「レイリアーッ! どこだ⁉」


 奥のフロアに到着して叫んだ。イーモは激しく息を切らしていた。


 氷と鉱物が混ざった柱と壁に、古代の神らしき頭部と目が大きい人型の像が鎮座していた。


 俺とイーモが辺りを見回すと「ズズッ」と柱の奥にレイリアが引きずり込まれた。


「レ、レイリアッ⁉」


 俺達は、柱の奥に進む。幅・奥行ともに数十mの楕円形の大広間だ。天井は高く、天窓から陽光が蒼い光となって差し込むが、大広間の奥は暗く、良く見えない。


 陽光が強まり、中央で倒れていたレイリアが照らされ、髪は虹色に鏡面反射した。


 奥の暗がりに人影が見えた。


「何者だっ⁉」


 俺は強い口調で問いかけた。


「雪白色の髪……我が同族……か?」


 年老いた男の低くかすれた声が響いた。


「ど、同族……? ま、まさか、エルフ⁉」


 イーモが驚愕して問いかけた。


「エルフ……だと? ククッ……クックック……雪白色の髪のエルフなんぞ、おらんだろう? 耳の形も違うではないか……」


 俺とイーモは目を見合わせた。


 声の主がレイリアに近付く。黒いローブを纏った枯れたミイラのような老人だ。血色のない灰白の肌。赤紫色の目はギョロッと生気があり、薄く青みがかった長く白い髪。耳は尖り、僅かにしおれていた。


「な……? そ、その耳は⁉ テ、テメェ……何者だっ⁉」


 俺とイーモは老人の魔力に圧され、数歩下がった。


「我こそは魔導師ゲアザ……この雪牙せつがの寺院に捕らえられていてね……」


 その名に聞き覚えがあったイーモは驚愕した。


「ま、魔導師ゲアザだって⁉」


「し、知ってんのか⁉ イーモ‼」


「た、確か……百年以上前の氷の魔導師の名前だ……‼」


「百年? そうか……もうそんなに経っておったか……だが、ここまで上がって来たのは最近の事だ」


「レイリアに何をするつもりだ⁉」


 俺は怒気を込めて問い質した。イーモは怖気づき、俺もビビっていた。


「我から求めたわけではない……そちらから来たのだろう? だが、これは運命か必然か……魔力が枯渇していた……〈同族〉の魔力は、さぞ我が肉体に馴染むだろう……」


 ゲアザが〈右手〉をレイリアに向け、彼女の身体が浮かび始めた。


 俺は「や、やめろっ! 何をするっ⁉」と叫び、剣を抜いた。


「……マギア……アポロフ‼」


 ゲアザが魔力吸収魔法を唱えた。


 レイリアの体が輝き、魔霊気が波打つように揺らめいてゲアザへと流れ始めた。


「やめろォッ‼」


 俺は叫びながら斬りかかった。


 ゲアザは〈左手〉を上げ、氷結魔法グラキエスを無詠唱で放った。


 パキィインッ!


 足元が凍結し、俺は身動きが取れなくなった。イーモは半身が凍結した。この効力の違いは、魔霊気の強さの差だ。


 レイリアの魔力がどんどんゲアザに吸収される。


「な、何だこの魔力量は……⁉ まだ子供だというのに、まだまだ尽きないとは……‼」


 灰白だったゲアザの顔に生気が出て、枯れた肌に張りと血色が戻り、若返っていく。しおれた耳も立ち上がってきた。


 バチィッ!


 突如電撃が走り、ゲアザが弾かれて「バタッ」とレイリアは床に落ちた。


「……チッ……。何だと……? ……だが、もう十分だ……」


 百歳ほどに見えたゲアザが、50代程度に若返っていた。


 ゲアザは「さて……」と言い「パチンッ」と指を鳴らした。


 突如、「バキィンッ!」とイーモの凍結した左腕が肘から砕けた。


「ギャアアアアアアァァァ‼」


 イーモは絶叫し、「プツンッ」と意識が途切れた。


 ブシュウゥゥゥ……ボトボト……


 砕けたイーモの左腕から血が噴き出す。俺は血の気が引き、「イーモッ‼」と叫んだ。


    ◇    ◇    ◇


 ――一方、ハイマー村のジョナスの酒場を訪ねていた旅人の男が、仲間の女を連れて迷魔の森の分岐点に差し掛かった。


 正式にジョナスの依頼を受け、レイリアの足跡を追っている。


 本来、レイリアの足跡は仲間と家族だけが追えるものだが、ジョナスのお守りを持てば追う事ができる。


「こっちか……嫌な予感だ……急ぐぞ‼」


 仲間の女は、「はっ!」と応じた。


    ◇    ◇    ◇


(マズい……このままではイーモが死ぬ‼ 魔霊気を全開にしなくては……‼)


 俺は魔霊気を全開にして凍結した足元に波動を送り込み、振動させた。


 バキンッ……バキバキバキッ!


 俺の脚の氷が、徐々に割れ始めた。


 本来なら脚ごと砕けるが、強い魔霊気で肉体を内側から固めて破壊を防いだ。魔霊気には固着力と粘り気があり、肉体が崩壊するのを防ぐ。それも魔霊気の強さ次第だ。イーモの魔霊気は弱かった。


 ゲアザは「ほほぅ……やるではないか」と呟いた。


 俺は右手の長剣でゲアザを牽制しながら左手で回復魔法ピセラを発動し、イーモの左腕を止血した。だが、失った左前腕は回復できない。低級回復魔法では止血が限界だった。


「レドーモ!」


 続いて左手で腰の短剣を抜き、圧縮解除した。短剣は刃渡り50cm程度の『彗星の剣』になった。父から譲られた名剣で、刀身は紺色で星屑がキラキラ輝き、刃は氷山のような水色の美しい剣だ。


 そして、長剣と短剣の『彗星の剣』を二刀流で構えた。


「その剣……見覚えがある……その剣は‼」


 突然、ゲアザが何かを思い出そうと頭を抱えた。




 ――その時、ゲアザの脳裏に百年以上前の記憶が蘇った。ぼんやりと思い浮かぶのは雪白色の髪に耳が尖った男の剣士。口を動かしているが、聞き取れない。彗星の剣を手にしていた事だけは明白だ。




「きき、貴様ぁ……な、何者だ……⁉ この娘は……⁉」


 ゲアザの隙を見逃さず、俺は二刀流で斬りかかった。ゲアザはバックステップで躱し、レイリアとの距離が離れた。


 俺はレイリアとイーモを護りながら戦う必要があった。


 ガキィンッ‼


 長剣がゲアザの素手に弾かれ、不思議と金属音が響いた。


「エスクードか⁉」


 俺は目を見開いて叫んだ。魔技『エスクード』は、コンマ数秒だけ防御シールドを展開する瞬間防御魔法を使った技で、魔法を使った技を〈魔技〉と呼ぶ。


「だが‼ これはどうだ⁉」


 俺は間髪入れず、連続で斬りかかった。


 二刀流の攻撃は、単純に並の剣士の倍だ。


 エスクードで弾き切れないほど攻撃を繰り出せば良い。 


 ガンッ‼ ガンガンガン‼ ガギィンッ‼


 ゲアザは防戦一方だが、本来、魔導師は近接戦闘に付き合う必要はないはずだ。


 ガゴッ! ガギッ‼


 俺の剣はゲアザの両腕で防がれ、凍結されて固められた。奴は戦いながら肉体を氷結魔法で覆って氷の籠手を生成し、エスクードで受けると見せかけて氷の籠手で長剣と彗星の剣を受け、凍結したのだ。


 俺は目を見開き「何ィッ⁉」と叫んだ。


 前腕の氷の籠手で剣を受け止めたゲアザの両掌は空いていた。


「バル・ド・グラス」


 ゲアザは両掌で作った氷塊を衝撃魔法パイネ・アールトで破壊して撃ち出す魔技を放った。


 バキィン‼ ドガガガガガガガ‼


 無数の氷の破片が俺の全身を撃ち抜いた。


「グハァッ‼」


 俺は弾け飛ばされ、レイリアとイーモの間に倒れ込んだ。俺の魔霊気は強く、貫通は防いだが、十発ほど氷の弾丸が肉体にめり込んで出血し、口から「ツーッ」と血を流した。


 致命傷ではないが、俺の回復魔法では治し切れないダメージだ。


 最悪な事に、長剣も彗星の剣もゲアザの籠手に固定されて武器を失った。内心で焦っていた。


(ヤベェ……武器を奪われたのはマズい……油断した‼)


「レ、レイリア……‼ ク、クシープナ・スーリジット……‼」


 俺はレイリアに〈覚醒の呪文〉を唱えた。


「……うぅ……」


 彼女は朦朧とし、完全に目覚めるまで時間を要した。


 離れた場所でゲアザが呪文を唱え始め、魔力の波動がビリビリと伝わってくる。奴は強力な魔法の準備に入っていた。


「う、うぐっ……マ、マズい……‼」


 俺は戦慄した。


「グラキエス・アレアゾーナ‼」


 パッキィイィイイン‼


 ゲアザが全体氷結魔法を発動し、奴を中心に大広間全体に凍結が拡がる。


 パキパキパキパキ……


 床や壁まで、凍結が拡がってきた。


「ホカホカ魔霊石、ボクに力を貸して!」


 ようやくレイリアが目覚め、ホカホカ魔霊石を手に握り締めていた。


「黄昏の紅霞、晩暉の反照、焰魔の法灯、炎の精霊よ! 燃え盛る燎火で排撃せよ‼ エルド・ヴラム‼」


 ゴオォオォッ‼


 ホカホカ魔霊石を媒介に放たれた中級火炎魔法は、通常の威力を遥かに凌駕した。


 直後、ホカホカ魔霊石にパキッと小さなヒビが入った。


 ゴオォオオォォッ‼


 レイリアの中級火炎魔法エルド・ヴラムは、ゲアザの全体氷結魔法を相殺――いや、それ以上の威力でゲアザに襲いかかった。


 ゴゥッ‼ ――ゲアザの瞳に大きく膨らむ炎が映り込んだ。


 高熱でイーモを凍結させていた氷が解け始め、周囲の氷が蒸発して水蒸気となり、辺り一面に白霧が発生した。


 バキュンッ‼


 白霧の向こう側から、闇雲にゲアザが『バル・ド・グラス』を撃ち込み、凍結が残るイーモの右脚を撃ち抜いた。弾丸がガラスに撃ち込まれたようにヒビが入り、砕け始めた。


 バキンッ……バキバキバキ……


「コンストレイン‼」


 イーモの右脚がバラバラになりかけた時、俺は拘束魔法を発動し、強力な固定力で砕け散るのを防いだ。


「エレメ・ピセラ‼」


 そして、レイリアがイーモの右脚に素早く回復魔法を発動した。


 砕け散っていたら回復は困難だが、俺とレイリアが素早く連携し、拘束と回復の合わせ技でイーモの脚を繋ぎ止めた。


 回復効果が持続すれば、完治するはずだ。


 しかしイーモのダメージは深刻で、しばらく意識が戻らなそうだった。


「レイリア、このままイーモを連れて逃げるぞ‼」


「わ、わかった‼ ヴァロア・ソーマ!」


 レイリアは全員に俊敏魔法をかけた。


 すかさず俺は2人を抱え、猛ダッシュで雪牙せつがの寺院から脱出する事にした。


 父から譲り受けた彗星の剣を奪われたままで、悔しさが込み上げ、唇を噛み締めた。


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