EP.52 闇の眷属
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
ビュンッ! シュッ! ボオォッ! パキィンッ! ガキィンッ!
ハビエルが矢を射て、イグナーツが魔法で攻撃し、2人に攻撃を仕掛けるガリオンの攻撃をフラヴィアが防御魔法や剣で弾く。パッセロは防御魔法、補助魔法、回復魔法で援護する。4人の連携でガリオンの攻撃に対処していた。
しかし、聖騎士団の副団長と隊長格2人+副隊長というメンバーでもガリオンを倒し切るどころか、苦戦を強いられていた。
「ペンテ・ヴェリ! コレスモス‼」
バシュシュシュシュシュッ‼
ハビエルは五本の矢を同時に射た。さらに、魔技『コレスモス』は、操作魔法『エレンホス』を使って複数の矢で囲い込む全方位攻撃だ。
ギュルルルッ! カキィンッ! カンカンカンッ! キィンッ!
しかし、ガリオンは旋回しながら高速回転し、全ての矢を弾き落とした。この時にガリオンの魔力を流し込む事で、ハビエルの操作魔法の効果を打ち消す事ができる。
「クソッ! さすがガリオン……‼」と、ハビエルは唸った。
ドドドドッ! バシュッ! ヒュンッ!
イグナーツは魔力弾『マギア・スフェイラ』や魔力刃『マギア・ラミーナ』を連続で放った。イグナーツの圧倒的な連続魔法攻撃は、さすがのガリオンも回避し切れず、防御シールド魔法『アミナ・エスクード』と〈飛ぶ斬撃〉によって撃ち落とした。
その間、イグナーツは水集魔法『ヴァン・サフナ』で〈月下の塔〉の周囲の湖=〈月下の湖〉から水を集め、ガリオンの周囲に十数個の水球を浮かび上がらせた。
同時並行で複数の魔法を発動するのは、まさに神業である。
「喰らえ! ヴァン・シュトラ・アナイアレーション‼」
十数個の水球から、一斉に水砲魔法が放たれた。一発一発が岩をも貫通する威力だ。
「チィッ!」
ガリオンは回転しながら『鳳翼双剣』を高速で振るい、複数の〈飛ぶ斬撃〉を発生させた。それは、かつて戦った魔界人のイルヤルンが使っていた刃旋風魔法『マギア・ラミーナ・ヴァルテージ』にそっくりだった。激しい旋風と共に、斬撃が水泡魔法を相殺し、さらにイグナーツ、ハビエル、フラヴィア、パッセロにまで届く。
ザンッ! ザンザンザンザンザン斬斬斬斬斬ッ‼
しかし、一度イルヤルンの刃旋風魔法を受けた事があるハビエルは、対策となる防御技を編み出していた。複数の小さな防御シールド魔法を高速展開し、さらに高速で周囲に回転させる魔技『アミナ・トルネード・エスクード』だ。
それを自身のみならず、周囲の仲間全員を護るように発動した。
ズザガガガガガガザザンッ‼ ザッガガガガガッザザンッ‼
刃旋風と回転する防御シールドがぶつかり合い、攻撃を相殺していった。
しかし、最小限のダメージで抑える事ができたが、ガリオンの刃旋風を完全に防ぎ切る事はできず、ハビエル達は体中に切り傷を負って血を流した。『聖騎士の装束』もかなり斬り刻まれた状態で、金属製の『聖騎士の胸当てと肩当て』もかなり削られてしまった。
しかし、フラヴィアが全体自動回復魔法『アトマ・ピセラ・アレアゾーナ』を発動していたため、徐々に傷が閉じていく。
ガリオンはそれを見て、「さすが隊長格だ……やるな」と呟いた。
ジゼルが大ダメージを受けて離脱したため、ドデカケラトプスに対してハーディーとグライフの2人が戦い続けていた。竜魔獣であるドデカケラトプスの皮膚は分厚く硬かったが、本物の〈ドラゴンの鱗〉ほどではなかった。ドデカケラトプスの直線的な動きに慣れ、ハーディーとグライフは徐々にダメージを与えられるようになっていた。
さらに先程、ハーディー達がダメージを受けた時に、パッセロが駆け付け、上級回復魔法『エレメ・ピセラシオン』と自動回復魔法『アトマ・ピセラ』をかけてくれた事で、ある程度ダメージを受けても、戦い続ける事ができている。
しかし内心、「クソッ! このままじゃジリ貧だ……!」とハーディーは考えていた。
グライフが、「おい、気付いているか⁉」とハーディーに聞いた。
ハーディーは「何にっ⁉」と聞き返した。
「ガリオンさんはまだ全力を出してねぇんだよ! まだ奥の手がありそうだ‼」
「あぁっ⁉ と、当然、気付いてるに決まってんだろうがっ‼」
ハーディーはドデカケラトプスに集中し過ぎて、ガリオンの方に気が回っていなかったが、グライフは戦いながらも全体を見ていた。
ハーディーは心の中で「クソったれ……!」と悪態をついた。
「ヴィルヴィルヴィンドル……フヴィルフィルビルル……」
イグナーツが聞き慣れない古代語で呪文を唱えた。呪文には現代の言葉と、古代語の2種類が存在し、どちらを唱えても同じ魔法が発動できる場合がある。
「ヴァン・ドラーゲ‼」
ボンッ‼ ズアァアァアアアァァァッ‼
月下の湖から、激しい水流の竜巻が発生し、龍のように波打って曲がり、上空のガリオンを捉え、飲み込んだ。
バッシャアァアァーンッ‼
ガリオンは曲がる水流の竜巻に飲み込まれ、地面に激しく打ち付けられた――
――かに見えたが、ガリオンは水流の竜巻を内側から突破して、脱出した。
その時、一瞬、ガリオンを覆う光の鎧のようなものが視認できた。
ハビエルは「なっ……『魔霊鎧装』だとッ⁉」と叫び、目を見張った。
魔霊気は本来、卓越した魔法使いや魔導師が視覚に魔力を重ね、集中した時に見えるものである。本来、通常の視覚で見えるものではないが、魔力の爆発的発動が起きた時、魔霊気が形となって現れる事がある。
さらに、研ぎ澄まされた魔霊気は、各々が持つ魂の鎧を顕現化する事がある。
それが『魔霊鎧装』だ。真の強者が重武装を必要としない理由である。『魔霊鎧装』は常に視認できるわけではないが、強力な魔法が直撃すれば、形を現す。
ガリオンが一瞬見せた『魔霊鎧装』は、まるで人型の肉体を持つ〈黄金の獅子の獣人〉のような姿だった。
通常は『魔霊鎧装』を視認する事はできないが、確実にガリオンは『魔霊鎧装』を纏い、イグナーツに向かって突撃した。
そこに、この場で最も物理攻撃力が高いフラヴィアが突撃していく。
魔法には内向きの力(肉体の強化)と外向きの力(発する力)がある。
戦士は内向きの力〈内燃魔法〉=〈強化魔法〉=自己強化に長ける。内燃魔法は肉体内部で魔力を対流させ、様々な力を発揮する事ができる。
魔法使いは外向きの力〈発動魔法〉(主に攻撃・防御・補助)を発する力に優れる。
回復魔法は、発動魔法と内燃魔法の合わせ技。対象者の〈対流魔力〉を刺激し、内側の〈自己治癒力を加速〉しつつ、外側からの〈治療〉も行う。
フラヴィアは〈内燃魔法〉の一種である〈気功〉の使い手でもある。
ブウゥンッ! とフラヴィアの剣が激しく光を放った。
「武神流剣術……白虎爪牙‼」
フラヴィアは自身の『聖白の剣』に強烈な魔霊気を纏わせ、ガリオンに斬りかかった。
ガッギィーンッ‼
しかし、『魔霊鎧装』までは纏う事ができていないフラヴィアは、力負けして弾き飛ばされた。彼女は空中で身を翻し、「ズザザッ!」と滑るように着地するも、勢いが止まらず、パッセロが「ガシィッ!」と、受け止めた。
「フラヴィア隊長ッ‼ 大丈夫ですかっ⁉」
「え、えぇ……何とか……‼ パッセロさん、助かりました!」
フラヴィアは再び『聖白の剣』を構えた。
ドガアァーンッ‼
暴れ狂うドデカケラトプスが、ハーディー達の宿舎の隣の建物を破壊した。
「マズいっ! 向こうへ行かせるかっ!」
ハーディーが自身の宿舎のある方角を見ると、屋根の上に1人の男が立っていた。
「あっ⁉ あいつは……、クロウッ⁉」
ハーディーは意外な男の存在に驚き、一気に跳躍して手前の建物の上から叫んだ。
「おい! 銅星級じゃ無理だ‼ さっさと退け‼」
クロウは、腕を広げ、天を仰ぎ、ニヤリと嗤った。
「だからよぉ……言ったじゃねぇかァ……! この俺様はァ、アルテリアの野獣ゥゥ! 伝説の闇の眷属ゥゥ~‼ バージニアス・クロウ様だってなァ~ッ‼」
離れた場所にいたマイルズ達も目を見開いた。
「……あ、あいつは……! チューニ病君じゃねぇか……⁉ 何してんだ?」
「おぉーいっ‼ ちょっと! クロウ君っ‼ 君は何してんだよぉっ⁉」
そこに、クロウを厨二病と呼んでいたへイン・クラベルが走り寄って、叫んだ。
「あいつら……! なんで見習いが出て来てんだよっ⁉ おいっ‼」
マイルズはへインに駆け寄った。
屋根上に立つクロウは、両腕に装着していた漆黒の腕輪を外し、ポイッと投げ捨てた。
ドゥッ‼
その時、禍々しく黒い魔霊気が、クロウの肉体から大きく拡がった。
ハーディーは「な、何⁉」と驚愕し、マイルズやへインも「えっ⁉」と声を上げた。気付いた時には、クロウはその場から消えていた。
ガリオンに誘導されるように、フラヴィアだけ前に出過ぎて距離が離れた。
ハビエルとイグナーツの遠距離攻撃を回避したガリオンに、フラヴィアが斬りかかろうとした時、突如、黒い煙と共にクロウが目の前に現れた。
「はぁい‼」
クロウは、闇属性の魔法『ヴェルム・ソンブラ』の〈闇の帳〉を身に纏っていたのだ。
「なっ⁉」
フラヴィアは「ズザザッ」と、急ブレーキをかけるように滑って立ち止まった。
ハーディーは、グライフと共にドデカケラトプスに応戦しつつ、クロウを目で追っていて、「何ィッ⁉」と、驚愕した。
同じく目で追っていたマイルズも「速い‼」と目を見開いた。
フラヴィアは、「な、何なの君⁉」と、一瞬戸惑った。
その隙をガリオンは見逃さなかった。上空から高速で突撃し、『鳳翼双剣』の二刀流でフラヴィアに斬りかかった。
ガガッ! ギィンッ‼ ――ドゴォッ‼
フラヴィアは超反応で右手の『聖白の剣』と、左腕の籠手に圧縮装備されていた『聖騎士の小盾』を展開して直撃を防いだが、上空からの勢いがついている強力で重いガリオンの一撃に弾き飛ばされ、建物にめり込むほど肉体を強く打った。
フラヴィアは「ガフッ!」と吐血し、倒れた。肋骨が折れ、頭からも血を流している。
「フ、フラヴィア隊長!」
パッセロが急いで駆け寄るも、そこにガリオンが降り立つ。
「まずは回復役から倒すのがセオリーだ……。ククッ……自分の力を過信した者の末路か。最高の回復魔法の使い手が、前に出過ぎだったな……」
遠距離攻撃をしていたハビエルとイグナーツは、少し距離が離れていた。
イグナーツが、「パッセロ! 逃げろォーッ‼」と叫んだ。
ガリオンはニヤリとほくそ笑んだ。
ハーディーも、「パッセロさんっ! マズい!」と叫んだ。
皆、ガリオンにばかり気が回っていた。
グサッ‼
パッセロは背後からクロウに刺され、背中から鳩尾にかけて黒い刃が貫通した。
ブシュゥッ! ドゴッ‼
クロウは素早く黒い刃の剣=『黒鴉ノ爪剣』を引き抜き、パッセロを蹴り飛ばした。パッセロは腹這い状態で倒れ、顔面を強打して気を失った。
パッセロを中心に血の海が拡がっていく。
その様子を見てハーディーやマイルズも衝撃を受けたが、特に強い衝撃を受けたのはへインだった。
「ク、クロウ君……どうして……」
へインはそう呟き、目には涙が溢れ出していた。
「おい、下がれ! ここは危険だ‼」
マイルズがへインに忠告し、腕を引っ張って連れ戻そうとしたが、へインはその手を振り切って駆け出し、クロウが捨てた〈漆黒の腕輪〉を拾った。
「ククッ……クックックック……エルーザクのオジキだろぉ? ……俺だよ俺俺ェ~!」
クロウは、ニヤニヤ嗤いながら、ガリオンの事を〈エルーザク〉と呼んだ。
「……エルーザク? 何を言っている……⁉ 我が名はガリオンだ……」
ガリオンは唐突に呼ばれた名前に混乱した。
「はっ……ははっ! はぁーっはっはっは‼ なぁに言ってんだよオジキィッ! わかるぜぇ! その禍々しい魔力‼ そんな魔力のザラつきはァ、オジキしかいねぇよぉっ‼」
クロウは今のガリオンの〈精神〉を、かつて存在した魔界人〈エルーザク〉が乗っ取ったものだと疑わなかった。
その時――「ゴゥッ‼」と、渦巻いた強力な火炎の波動がガリオンが居た場所を飲み込んだ。イグナーツによる上級火炎魔法『エルド・ヴラム・フローガ』の遠距離攻撃だ。
しかし、ガリオンはクロウを鷲掴みにして、素早く上空へ逃れていた。
イグナーツは「チィッ!」と舌打ちをした。
「フラヴィア! パッセロ!」
ハビエルは先にフラヴィアに駆け寄り、めり込んでいた建物が崩れたら危険なので、身体を起こして素早くパッセロの傍に移動させた。
「エレメ・ピセラシオン‼」
ハビエルの左手の義手『マニプラドール』は魔法を発動できる義手だ。同時に2人に対して左右の掌から光が放たれる。フラヴィアとパッセロは明るい蒼碧色の光に包まれ、高速で傷が癒えていく。しかし、傷は治せるが、失った血はそう簡単には取り戻せない。しばらく目は覚まさないだろう。
「す、すまねぇ! エルーザクのオジキィッ!」
上空でガリオンに鷲掴みにされたまま、クロウが礼を言った。
「……我が名はガリオンだと言っている……」
「わ、わぁーった! わぁーったよぉ‼ 悪かったよオジキィィ……。そ、それより、今から、素晴らしいショーが始まるぜェッ‼ 一緒に楽しんでくれよぉ~ッ!」
「……何を言っている?」
「そうだァ! このままァ、あの塔の上に連れてってくれよぉ~!」
「チッ……気安い小僧だ……。何をする気だ?」
「……? 本当ぉ~に忘れちまったのかァ? 俺を聖騎士団に入れてくれた時に、話したじゃねぇかよぉ~っ⁉」
ガリオンは数秒間、考えた。
* * *
――2年前。アルテリア王国南部。
古代樹の森の東には、人間が立ち入るにはあまりにも厳しい環境の荒野が広がる。
幾つもの大地の裂け目から壮麗な瀑布が轟音を立てて流れ落ちていく。その霧は空へと舞い上がり、虹が織りなす幻想的な風景を生み出していた。一方で、断崖絶壁の合間には無数に浮遊岩が浮かび、時折激しく衝突して砕け散る事もある危険地帯でもあった。
断崖絶壁の上に、邪教〈オドゥ教〉の本拠地〈マハテンレン教会〉が建立されていた。
マハテンレン教会は、粘着性のある物質が捻じれて弾けた瞬間に固まったような、有機的で不気味な意匠の建築で、ゴツゴツとした角を持つ髑髏面の〈魔界人〉の像も目に付く。魔界人とは、地上にいる〈魔族〉と大昔に分岐した、凶悪な魔界の種族だ。
断崖絶壁の上に、邪教〈オドゥ教〉の本拠地〈マハテンレン教会〉が建立されていた。
マハテンレン教会は、粘着性のある物質が捻じれて弾けた瞬間に固まったような、有機的で不気味な意匠の建築で、ゴツゴツとした角を持つ髑髏面の〈魔界人〉の像も目に付く。魔界人とは、地上にいる〈魔族〉と大昔に分岐した、凶悪な魔界の種族だ。
オドゥ教は、かつてこの地域に存在した吸血鬼のような存在に人類を〈高める〉事を目的としていた。ドワーフやエルフ、獣人に限らず、魔族の血肉さえも貪り、その力を取り込めると信じる忌まわしき邪教だ。元々数が少なかったエルフや魔族は、危険から逃れるため、遥か遠い昔にエリシウム大陸から消えたと云われている。
教祖〈マハドゥ〉は魔界人と人間のハーフと噂され、その邪悪な思想には魔界人が深く関わっていると見做されていた。さらに、北東のグラハム王国に存在する地下組織〈ヴァルドル〉との関係も疑われている。オドゥ教は各地で魔物を召喚して村々を襲わせたり、国の乗っ取りまでも画策していた可能性があった。
聖騎士団はオドゥ教を非常に危険視し、長年捜査を続けていた。そして遂に、本拠地であるマハテンレン教会を発見し、突入して教祖マハドゥを打ち倒したのだ。
オドゥ教のマハドゥを撃破したガリオンは、聖騎士団の遠征地であるアルテリアの〈南の砦〉にて、教会で捕らえたクロウに面会する事になった。
「マハドゥの息子……バージニアス・クロウ! これからお前には、オドゥ教の事を洗いざらい話してもらおう……」
鉄格子越しにガリオンがクロウに話しかけた直後、ガリオンは「うぅっ……」と呻き声を上げ、急に頭を抱えて膝をついた。ガリオンの脳内には、呪いの声が響き渡っていた。
そこからの記憶は、ガリオン本人にはない。
「ガリオン隊長! どうかなされましたか⁉」と周囲の聖騎士が駆け寄った。
「……良い……気にするな。ここは〈我〉一人で尋問する。この場から立ち去れ……」
「……⁉ し、しかし……!」
「早く立ち去らんか‼」
周囲の聖騎士達はガリオンの剣幕に困惑し、「ハ、ハッ!」と返事をして立ち去った。
「……さて……、お前がマハドゥの息子のクロウか……」
ガリオンは人相が変わり、目の周りが黒ずんでいた。
「……⁉ あ、あんた一体、誰だァ……⁉ さ、さっきまでとは、まるで別人じゃねぇかァ……⁉」
クロウはガリオンの魔霊気の性質が変わった事を瞬時に感じ取っていた。
* * *
今のガリオンは、かつて存在した魔界人〈エルーザク〉の魂の一部=人格と記憶の一部が〈混じった状態〉であり、〈精神が乗っ取られた〉わけではない。
呪いは負の感情=憎しみの感情を暴走させ、そこに〈呪い主〉の〈意思〉が宿る。今のガリオンは、あくまでガリオン自身にエルーザクの魂の〈一部〉が上書きされた状態であり、ガリオンである事に変わりはなかった。ガリオンは、聖騎士団を滅ぼす気だが、自らの行動原理を完全に理解している状態ではなく、言動も半ば無意識的な部分がある。
「……あぁ、そうか……だから積年の怨念などと……」
ガリオンはクロウを鷲掴みにしたまま〈月下の塔〉の最上部の屋根の上に降り立った。
先程までどんよりとしていた雲が、いつの間にか晴れ、月明かりが闇夜を照らす。
この日は『巨月のオヴム』が聖地サンクホフトに最も近付く『オヴムの日』だった。
「オジキィ! 見ていてくれェッ!」
クロウは『黒鴉ノ爪剣』を構え、上空に向けて突き上げた。
キュイイイィイィィィィィーーーン‼ と、不思議な音が鳴り響く。
ガリオンは「……何だ?」と呟いた。
バサバサバサバサバサバサバサッ……‼
突如、何千羽という黒い鴉の群れが周囲の森から飛び立ち、上空を埋め尽くした。
そして鴉は聖地サンクホフトの至る所に降り立った。
クロウは、事前に準備していた群体使役魔法『スヴォルムル』を発動した。
「カァーッ! カァー‼」「ガァーッ‼」「ギャアーッ!」
鴉達が一斉に鳴き始めた。その時、聖地の至る場所から、光芒が空高く伸び上がった。
カッ‼ ……ボンッ! ボンボンッ! ドッガアァーンッ‼
上空で聖地を薄く覆っていた光の膜が、高速で水溜まりが蒸発していくように消えていった。
「これは……‼」とガリオンは目を見張り、「そうか……ククッ……クックックック……やるじゃないか……」と、ほくそ笑んだ。
クロウは事前に聖地内の『聖界石』に特定の周波数で爆発する仕掛けをしていた。
聖地サンクホフト内の『聖なる結界』が打ち破られた。
クロウは、「それだけじゃあねぇぜェッ!」と叫んだ。
再び鴉が上空に飛び立ち、幾つかの群体となって渦巻き始めた。
「メザル・エヴォカルド……ヴァモス‼」
クロウは、媒介召喚魔法『メザル・エヴォカルド』と呼び出しの呪文を唱えた。
ガリオンは「ほぅ……貴様もか……」と、素直に感心した。
ボシュッ! ボシュボシュッ! ボシュンッ……‼
複数の鴉の群体が漆黒の瘴気と共に蒸発し、それぞれの場所で〈火竜〉が現れた。
この事態が聖地サンクホフトの至る所で発生し、火竜は20頭ほど現れている。
「それだけじゃあねぇぜッ‼」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴ……と地響きが轟いた。
ドッガアァーンッ‼ と大地が割れ、大地の奥底から〈地竜〉が10頭ほど現れた。
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次回:2025年05月07日 20時20分
EP.53 混戦




