EP.01 雪牙《せつが》の寺院
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
――エリシウム大陸・中央北部のリンカルオーフ地方の、とある山奥。
ハイマー村の北西に位置する迷魔の森を2人の少年と1人の少女が探索していた。
眼下の渓谷には浮遊岩が点在し、幻想的な光景を作り出していた。浮遊岩には根や蔦が絡み、風に揺られても落ちる事はなかった。
木々の隙間から、3つの月が覗いていた。
白い月と、より大きな蒼碧色と緋色の月がそれぞれ半月となって空に浮かんでいる。
* * *
俺の名は、ハーディー・スカイブレイド。当時は15歳の少年だった。
この日、俺達3人は迷魔の森に入り、山を登って雪牙の寺院を目指していた。
鬱蒼と茂った森の中は薄暗く、木漏れ日がわずかに地面を照らし、苔についた水滴がキラキラと光り輝いて見えた。
「ね、ねぇ……やっぱり戻ろう……魔物の気配がそこら中からするんだ……」
眼鏡をかけた13歳の小柄な少年イーモは、すっかりビビり散らかしていた。カールした茶金髪は眼鏡にかかる長さで、オリーブ色のローブを纏い、リュックサックを背負っている。両手で魔法の杖をしっかり握り締めているが、その手は小刻みに震えていた。
「なぁーにビビってんだよイーモ。お前が言い出しっぺだろう?」
この頃の俺は栗色のツンツンした短髪で、かなり日焼けしていて、イーモより20cmほど背が高く、体格も良かった。茶褐色に青紫の差し色が施されたお気に入りの冒険者の装束で身を包み、左腰に長剣、腰の後ろに短剣を差していた。
イーモと並ぶ小さな少女はハーフエルフと云われるレイリアだ。雪白色に輝くボブヘア、透き通る白い肌、少し尖った耳、宝石のように美しい蒼碧色の瞳が特徴的だ。彼女は白と薄緑色のフード付きローブを纏う。
実年齢では彼女は俺と同い年だが、成長速度が人間の半分程度で遅く、体格が人間の7歳程度で精神面も幼かった。
俺は2人の背後を守るように後ろを歩いていた。この一帯の魔物は弱く、俺の『魔霊気』を警戒して襲ってこなかった。
小さなレイリアが、「あ……、あれ」と、約200m先を指差した。
キラキラと水飛沫が飛散していた。そこには小さな滝と壊れた橋があった。
イーモはリュックから地図を取り出した。
「壊れた橋と、小さな滝……ここから南西に進む道と、北西に進む脇道があるはず……」
◇ ◇ ◇
――その頃、ハーディー達の居住地・ハイマー村に旅人の男女が訪れ、レイリアの育ての親=ジョナスが店主を務める酒場の前で立ち止まった。
酒場は冒険者のギルドでもある。
白シャツにネクタイ姿のスマートな店主ジョナスは、いつものように開店準備中だ。
彼がグラスを拭いていると、褐色に汚れた屈強な旅人の男が入ってきた。
「すまんが、まだ準備中だ」
「ルシャード・スカイブレイドの息子を探しているんだが……」
◇ ◇ ◇
迷魔の森の壊れた橋の前では、俺とイーモにレイリアが両掌を向けていた。
「ヴァロア・ソーマ!」
レイリアが俊敏魔法を全員にかけると、ポゥッと朧げな白い光に包まれ、体重が6~7割程度に減り、身軽になった。
イーモは壊れた橋を慎重に渡ろうとした。
レイリアは全く気にせず「ポンポンッポンッ」と崩れていない箇所を飛び跳ねて素早く渡った。
「荷物、俺が預かるよ」
俺がイーモの荷物を持ち、ひとっ跳びで向こう岸に着地した。
イーモは橋の欄干を掴みながら慎重に渡り、地図を見て辺りを見回した。
「南西に進む道はあるけど、北西に進む脇道が見当たらないな……」
北西側は鬱蒼と木々が生い茂り、イバラも混じっていて進めそうになかった。
「おっかしいなぁ……」とイーモが呟いた。
「その地図、本当にあってんのかよ?」
俺は訝し気に言った。
その時、レイリアは木陰に隠れていた小さな石碑が光るのを見逃さなかった。
「ねぇ。この石碑、壊してみよっか」
俺は「ん……?」と首を傾げた。
「えぇえええ⁉ そりゃマズいよ~!」
イーモが慌てて制したが、レイリアは構わず「イクレア!」と唱えた。
パキィイィン! バゴォンッ‼
ガラスが割れるような音が鳴り響き、彼女の指先から空気を切り裂く青白い電光が放たれ、小さな石碑を破壊した。
イーモは「えぇえええ⁉」と慌てたが、突然、北西に通じる小道が現れた。
「今の石、迷彩魔法を発動してたみたい」
「おぉ~、やるなぁ。さすがだ。レイリア」
俺は小さなレイリアの頭をガシガシと撫でた。彼女は満更でもなく、紅潮して口角を緩ませた。一方でイーモは戦々恐々だ。
「あんなに広範囲に道を隠していた……何のために?」
俺達3人は北西に続く山道を進み始めた。
道中、虫型の魔物やはぐれゴブリンに襲われたが、俺が剣で応戦し、レイリアが攻撃魔法で援護して難なく撃退した。イーモは防御魔法と回復魔法が得意だが、披露する間もなかった。鬱蒼と生い茂った森を抜けると、ブルーグレーの角張った岩に囲まれた狭く薄暗い谷に差し掛かった。
「イーモ、恐いの?」
相変わらず震えているイーモに、小さなレイリアが心配そうに声をかけた。イーモは「いや、寒くない?」と彼女に聞いた。
「あ~。ボクはこのホカホカ魔霊石持ってるから平気」
ボクっ娘のレイリアはあっけらかんと言って、外套の内側から橙色に光る魔霊石を取り出した。
「えっ⁉ そんなのあるなら僕にも使わせてよっ!」
「だって一個しかないもん。ハーディー、持ってる?」
「あ~、持ってない。このくらいの寒さ、気合でどうにかなるだろ」
「気合って……ハーディーは魔霊気が強いから平気なんだ……」
イーモは俺達の気の利かなさにガッカリしつつ、自分自身を悔やんでいた。
「おい、もうすぐ目的地に到着しそうだぜ」
俺は前方を指差した。いつの間にか、かなりの標高に到達していた。ブルーグレーの岩肌の隙間を抜けると吊り橋があり、空が広がっていた。正午過ぎの快晴の蒼空。太陽が燦々と辺りを照らす。
吊り橋の長さは百m以上。その先には大きな岩山を刳り抜かれて建立された氷の寺院があった。かなり古い遺跡で所々崩れていた。
「あれが……雪牙の寺院‼」
イーモは笑顔になり、興奮して前に飛び出したが、吊り橋の直前で立ち止まった。
かなり谷底が深く、暗くて見えない。眼下には大小様々な浮遊岩が浮かび、圧巻の景色が広がっていた。
「うっ……」
イーモは腰が抜けそうになり、身体を震わせた。吊り橋は強風に煽られ、上下左右に激しく揺れている。
「ヴァロア・ソーマ!」
レイリアが俊敏魔法を全員にかけ、白い光に包まれて身軽になった。
「なーんでこんな吊り橋でしか行けないんだろうね~」
レイリアは揺れに臆さず、吊り橋を渡り始めた。俺はビビるイーモの背中を押した。
「おいっ。行くぞ。大丈夫だって。いざとなったら助けてやる」
「あ、あの、縄で括り付けても良い? ハーディーと」
「しゃーねぇなぁ」
イーモのリュックから縄を取り出し俺達の腰を縄で繋げた。
「魔物が襲ってきたら切断するぞ」
「え⁉」
俺が冗談半分で告げると、イーモは本気でビビっていた。
「良いから、行けって」
「お~いっ! 早く来てよぉーっ!」
先行するレイリアが振り向いて叫び、寺院へ走って行った。小柄な彼女は、吊り橋の揺れなど気にしなかった。だが、そのせいで吊り橋がさらに揺れた。強風が「ビュオォオオッ」と飛竜の鳴き声のように響いた。
イーモは「ひぇえええ……」とビビりながら、一歩一歩進む。
「めんどくせぇな。一気に行くぞっ!」
俊敏魔法で体重が軽くなっていたので、俺はイーモを片腕で抱えて走り出した。
イーモは「うわぁっ⁉ わわわわっ‼」と喚いた。思ったより早くイーモを抱えて吊り橋を渡り切った。
しかし、レイリアの姿が見えない。先に寺院に入ったようだ。
ドゥッ‼
突如、俺達は強烈な魔力の波動を感じた。
「何っ⁉ レイリアッ⁉」
「なっ⁉ こ、ここは無人の遺跡のはず……」
イーモは恐怖で蒼褪めていた。
俺も脅威を感じて怯んだが、レイリアを案じて猛ダッシュで寺院の奥へ向かった。
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