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EP.47 束の間

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 ハーディー達は数週間ぶりに聖地サンクホフトでの食事にありつけた。


 久しぶりに『聖騎士の装束』も脱ぎ、普段着(と言っても、聖騎士専用服)になった。


 広い食堂の各所に仲良しグループの集まりができていてワイワイガヤガヤとしていた。


 中には好んで1人で食事している者もいるが、決して孤立しているわけではなく、時には1人で、時には集団でというマイペースなタイプだったり、忙しくてササッと食事を済ませる人だったりだ。


 ただ、中には陰気な雰囲気で孤立している人間もほんの数人だけいたりする。大体そういったタイプは端っこやカウンター席、窓向きの席を選ぶものだが、俺は1人の男が気になった。食堂の真ん中近くの6人席を1人で陣取っている、変わった雰囲気の男だ。


 聖騎士とは思えないほど、ダークな雰囲気で、まるでカラスのような雰囲気が漂っていたから、俺はそいつを勝手に心の中で「クロウ」と呼んでいる。


 クロウは大体ハタチ前後に見え、少し長いボサボサの黒髪で、独特の黒い羽根が付いたストールを巻いている。そもそも「そんな自由な服装良いのか?」って感じだ。


 近付くと、クロウは闇の気のような禍々しいオーラを放っているように感じた。


(……あいつ、本当に聖騎士なのか……? ……まぁ、闇属性が得意なら、多少は仕方ないのかもな……)


 俺は心の中でそう考えていた。




 ほぼ同期の俺とミロ、マイルズ、グライフ、ジゼル、ソボル、ハンナがこうして集まるのは久しぶりだ。ロコは大怪我をしてフェレイラ王国で治療を続けてると聞いて心配ではあるが、無事だという事で安心した。俺はマイルズの様子が気になった。


「マイルズ。空中訓練始めたそうじゃないか。どうだ? 義足の調子は」


「あぁ、お蔭様でこの通り」


 マイルズは立ち上がってピョンピョン跳ねて、脚を上げて義足を見せてくれた。


「おぉ~……かっこいいな。それ」


「ハーディーも付ける?」


「いやいや、遠慮しとくよ!」


 マイルズがぶっこんだ事を言ってきたので、笑いが起きた。


「この義足『ソア・フリー』の上から『有翼のアンクレット』を装着する事だってできるかもなぁ~」


 マイルズがさり気なくとんでもない事を言い、一瞬周りの皆がフリーズした。


「おいおい、冗談だよ。何マジな顔してんだ?」


「……いや、マジで可能性はゼロじゃないよ」


 ミロが真剣な顔でそう呟いた。


「あら? そ~お?」


 マイルズはおどけてそう応え、笑いが起きた。


「ところでお前らも長旅ご苦労だったな。疲れは抜けたか?」


「あぁ、残念ながら、体力は全快だよ」と、ジゼルが答えた。


「何で残念なんだよ?」


「えぇ? たまにはゆっくり温泉にでも浸かって癒されたいじゃん! 疲れ切った身体をゆっくり温めて回復するのが良いんだよ!」


「あぁ……聖地ここにいると無理矢理にでも急速回復させられちゃうもんなぁ……」


「そうだろ⁉ 心を癒す時間が足りないっつーの……」


「お前にも心を癒したい時があるのかぁ~」と、マイルズがぶっこんだ事を言った。


「はぁっ⁉ んだとコノヤロー‼」


 それに対してジゼルが軽くマイルズの肩を拳で殴り、周囲で笑いが起きた。


「確かに温泉……、行きたいですね~。どうですか⁉ 今度皆で休暇を取って行きましょうよ!」


「あっ、良いねぇ~。さすがオレのハンナだ。可愛いねぇ~。絶対行こうぜぇ」


 ジゼルがそう言ってハンナの頭を撫で、肩を抱き寄せた。


「……お前が言うと、怪しい関係に見えるんだよ」


 俺は思わずそう突っ込んだ。


「何だ? 嫉妬か? 羨ましいか?」


 ジゼルはそう言ってニヤニヤ笑っている。美人なのに、何ちゅー表情だ。


 だが、昔の俺ならイラッとしたかもしれないが、今の俺はスルースキルを持っている。


 俺は一言、「バーカ」と言ってやった。


「と、ところで、そっちはどういう感じだったの? ドワーフの王国! どうだった?」


 唐突にミロがグライフ、ジゼル、ハンナ、ソボルを見回して、質問をした。


「あぁ、マジで凄かったぜ……!」


 珍しくグライフが真っ先に口を開いた。


 俺は「どう凄かったんだ?」と聞いた。


 そこから珍しくグライフがフェレイラ王国の街の素晴らしさを語り始め、ジゼルとハンナ、ソボルが乗っかって盛り上がった。戦いの話やネガティブな話題はなるべく避けるように会話が進んだように思う。


「良いなぁ~! 僕達はド田舎どころか大自然のジャングルに派遣されてたから、羨ましいよ……」


「でも、雪原を進むのは本当にほんと~に、大変でしたよ……」とハンナが遠い目をして言い、グライフも「あぁ、あれは大変だったな……」と遠い目をした。


「でもお前らも途中で〈アルテリア王国〉に立ち寄ったんじゃあねーの?」


 ジゼルの質問に、俺が答える。


「残念ながら、余裕がなかった。早めに南西部のデクストラ地方まで行かなきゃいけなかったから、行きでは立ち寄れなかったし、本当は帰りにゆっくり立ち寄りたかったんだが、例の魔物の死骸を早く届けなきゃいけなくて、急いで戻る必要があったんだ……」


「まぁ、アルテリア王国には皆で行った事があるし、嫌な思い出もあるしね……」


 ミロが言ったのは、2年前の邪教・オドゥ教との戦いの件だ。


 当時、アルテリア王国ではオドゥ教が勢力を拡大し、至る所で魔物が召喚される事件が起きていた。最終的には、聖騎士団の隊長達が集結して、オドゥ教の中枢のマハテンレン教会で邪悪な教祖〈マハドゥ〉を打ち倒したと云われている。俺達はまだレベルも星級も低かったから、最終決戦には参加できなかった。その後、オドゥ教信者達は集団自決したと聞かされ、後味が悪い結末を迎えた。しかし、現在のアルテリア王国は落ち着きを取り戻し、平和な王国になっていると聞いている。


「お前らよぉ! さっきからうるせぇんだよぉ!」


 突然、クロウが俺達の目の前に来て、怒りの形相で叫んだ。


「……⁉ え、何?」とジゼルが言い、ハンナは「なな、何ですか急に?」と慌てた。


 俺とグライフが立ち上がろうとした時、真っ先にジゼルがクロウの前に立った。


「何だよ……お前、どこの所属だ? 名前は?」


 ジゼルは「ガルルルル」と唸り声が聴こえそうな形相でクロウを睨みつけた。


 それを見て、ハンナが止めに入った。


「ちょちょ、ちょっとちょっと、けけ、喧嘩は止めて下さいっ‼」


 クロウは構わず、ズイッと前に一歩出た。


「お前らァ……、この俺がァ……! 誰だかァ、わかってんのかァ⁉ アルテリアの野獣ゥゥ……伝説の闇の眷属ゥゥ……バージニアス・クロウ様だァァッ! カァーッ‼」


(えええぇえぇッ⁉ ガ、ガチでクロウだったぁ~ッ! し、しかも、な、何だこの……14歳くらいでいそうな感じは……⁉)


 俺は面白くなってきて、心の中でウキウキとした。


「あぁっ! みみみ皆様、すすすすみませんっ‼」


 そこに、マイルズが指導していた見習い聖騎士の少年〈ヘイン・クラベル〉がすっ飛んで来た。


「な、何だァッ⁉ じゃ、邪魔をするなァッ‼ ヘインッ!」


「こ、こいつ、厨二病で! ……ごご、ごめんなさいっ‼」


 ヘインは無理矢理クロウの腕を引っ張って、その場を立ち去って行った。


 不思議とクロウはへイン少年に逆らわずに、素直に連れて行かれた。


「え? 何? チューニ? チューニ病って何?」と、ジゼルが呟いた。


「あぁ、そう言えば、あいつ昼間もそんな事言ってたな……。最近の流行り病かも知れない……移らないように気を付けないとな……」


 マイルズは腕を組んで深刻な顔をした。


「チューニ病……どうしてそんな言葉を……?」とミロは呟いた。


 食堂の外から、「バカッ! 大先輩方に何してんの⁉ 小隊長達だよ⁉」とへインの怒声が聴こえた気がした。


「何だったんだ……」と思わず俺は呟いた。


「……どうしてあんな子が聖騎士団に入れたんだろう?」


 ミロは厳しくも的確な疑問を口にした。


 その場にいた全員が、狐につままれたような気分になった。

 

     *    *    *

 

 食事を終えた俺とミロとマイルズは、宿舎に向かって歩いていた。


 同じ勇隼隊なので、向かう場所は同じ宿舎だ。


 グライフとソボルは今後の事を話し合うと言って先に宿舎に戻り、ジゼルとハンナは女同士で話があるからと俺達を先に帰らせた。


 以前は俺とミロ、マイルズは3人で同じ部屋だったが、それぞれ隊長・副隊長格に格上げされた事で、個別の部屋を与えられている。


「いやぁ、それにしてもさっきのあいつ、面白かったな~」


「あぁ、へイン君が連行したチューニ病のクロウ君?」


 俺の呟きにマイルズが反応した。


「それ……結局、何なんだよ? チューニ病って」


「……厨二病は、14歳くらいの年頃で発症する、所謂『イキがり』に近いかなぁ……本当の病気ってわけじゃないと思うよ」


 俺の問いに、ミロが答えた。


「そうなのか。何で知ってんだよ?」


「……あ、いや……あはは、何でだろう? どっかで聞いた事があって……」


「ふぅ~ん……」


 そんなたわいもない会話をしていたその時だった。




 ドッッ‼ ゴオォオォーンッ‼




「なっ⁉ 何だ今の爆発音は⁉」


「爆発音が起きたのは、〈月下の塔〉がある方だ!」


 俺とミロが爆発が起きた方角に駆け出そうとした時、「待て!」とマイルズが呼び止めた。


「このまま宿舎に戻って装備を整えた方が良い!」


「そ、そうか! 確かに‼」


 そう言って俺達は全速力で宿舎に戻って、装備を整える事にした。


    *    *    *


 俺とミロ、マイルズは『聖騎士の装束』に着替え、しっかり胸当てと肩当てを装着して装備を整え、北東の湖の小島に建つ〈月下の塔〉が見える場所まで来た。


 約50mほどの高さの月下の塔の上層階に大穴が空き、崩れ落ちている。


 上層階で閃光が幾つか見え、「ドンッ! ボンッ!」と爆発音が轟いている。


 突然、そこから人らしきものが吹っ飛ばされて、俺達の目の前に落ちてきた。


 ドゴンッ‼


 それは、聖騎士団・副団長のハビエルさんだった。さすが副団長だけあって、約50mの高さから転落しても無事なようだ。落ちる瞬間に防御魔法を展開したのだろう。


「ハ、ハビエルさんっ⁉ い、一体、何が……⁉」


「ハ、ハーディーか……マ、マズいぞ……厄介な男を敵に回した……‼」


 俺は「厄介な男?」と聞き、心の中で「誰だ?」と思った。


 ピシュンッ! バリバリバリ‼ ドッゴォーンッ‼


 塔の上での轟音と閃光、爆発が、さらに激しさを増す。


 ガッシャーンッ!


 再び、人が上から落ちてきて、近くにある建物のガラスをぶち破った。


 俺とミロ、マイルズが駆け寄ると、中から、血だらけの見慣れない老人が現れた。


 胸部から腹部にかけて大きなX字の傷を負い、ドクドクと大量出血し、頭からも血を流していた。


「だ、大丈夫ですかっ⁉」


「そ、その傷は……⁉」


「一体、何が⁉」


「……そなたらは……知っておるぞ……、お主がハーディーだな?」


「……え、何で……?」


「あ、あなたは……、大賢者ソフォス⁉」


 ミロはこの老人の事を知っていたようだ。


「そうじゃ……儂はソフォスじゃ……」


 大賢者ソフォスのX字の傷は、いつの間にか回復してすっかり無くなり、浄化魔法『ピュリフィカトル』で血も蒸発して綺麗な状態になっていた。さすが大賢者と呼ばれるだけあり、無詠唱で上級回復魔法『エレメ・ピセラシオン』を発動していたようだ。


 さらに、衣服も修復し始め、切断されていた部分が直っている。おそらく修復魔法『リペラシオン』を発動したのだろう。


「気を付けぃ! 来るぞ‼」


「えっ⁉」


 ドンッ‼


 上空から地面が割れて陥没するほど強烈な勢いで1人の男が着地し、土煙が舞った。


 土煙が晴れると、そこに居たのは、勇隼隊・隊長で、俺の恩人で、




 師匠でもある――




 ――ガリオンさんだった。




 ガリオンさんは上半身裸で、焼けた鉄のように赤く染まって光を放ち、湯気のように魔霊気が沸き立っている。さらに全身に植物柄の紋様が浮き出て、不思議と蠢いている。


 俺は心の中で「な、何だあの紋様は……⁉」と唸った。


 さらに髪が逆立ち、眼光鋭く赤い光を放ち、まるで伝承上の魔人だ。


 両手には、『鳳翼双剣』を握り締めている。


「フゥ~……フゥ~……」


 ガリオンさんの息は荒く、酷く興奮状態にあるように見える。


「ガ、ガリオンさん……どうした――」


 大賢者ソフォスが「逃げろォッ!」と叫んだ。


 ブンッ!


 ガリオンさんは俺達に向かって剣を薙ぎ払った。


 ザンッ! ガシャンッ!


 初めて見る〈飛ぶ斬撃〉だった。


 魔力が乗った斬撃は俺の顔をかすめ、頬を切り裂き、背後にある建物の窓を破壊した。


 魔力刃『マギア・ラミーナ』にそっくりだったが、異なるのは、魔法として放ったわけではないという事だ。剣を振るい、そこから直接斬撃が飛んでいた。


 俺達は無意識的に跳躍し、その場から退避して低い建物の屋根の上に着地した。


「はっ……はぁ……はぁ……ガ、ガリオンさん……? な、何で……?」


 俺は無意識的に涙目になっていた。ミロとマイルズも混乱しているようだ。マイルズは義足だってのに、よく付いて来てくれた。


「ガリオン殿! 正気を取り戻されよっ!」


「ガリオン! 私が分かるか⁉ ハビエルだ! 私の顔を見ろ!」


 眼下では大賢者ソフォスとハビエルさんが、ガリオンさんと対峙していた。

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次回:2025年05月06日 19時20分

EP.48 解呪

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