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EP.34 却(逢魔の聖騎士編⑧)

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 ハビエルの瞬時の判断に、ビュノーゾは驚き、感心した。


「クハハハハハハ……吾輩の『冥界の槍』の恐ろしさに気付いたか……」


 後方に跳躍したハビエルが跳んだ先に、ムトムが長剣を構えて待っていた。


 ハビエルは「ハッ⁉」と気付いたが、同時に左腕がズキッと痛み、後手に回った。


 バゴンッ‼ 


 吹っ飛んだのは、ムトムだった。


 銅星級の怪力男・ビルピトンが、大岩を投げつけたのだ。


 銅星級より高レベルなムトムは、魔霊気による防御で大岩のダメージは軽減できた。


 しかし、質量=重さという物理的エネルギーで弾き飛ばされた。


「……クッ……ビルピトン……、助かった……‼」


 ビルピトンがハビエルを抱えて、回復魔法をかけながら後退する。聖騎士はほぼ全員がしっかりと回復魔法を覚えている。崩れ落ちた左腕は元に戻らないが、止血はできる。


「ハビエルさんっ‼」「隊長‼」「隊長! ご無事ですか⁉」


 そこに、銅星級の残りの3人と、蒼星級の3人が集結した。


 銅星級と蒼星級の聖騎士達は周辺の魔物と戦っていたが、ハビエルと銀星級の劣勢に気付き、馳せ参じたのだ。同時に、霧が発生し始めた。銅星級のリツァルが、霧隠れ魔法『ヴェルム・ミストゥル』を発生させたのだ。さらに、銅星級の紅一点のリタリが火炎魔法で周囲の草木を焼き、ビュノーゾとムトムの接近を牽制した。魔界人からすればレベルの低いリタリの火炎魔法は大した効果はないが、目くらましにはなる。


 倒れていたシリー、ジェロ、ヘリグも救出する。大柄なヘリグを2人で抱きかかえ、ジェロとシリーは蒼星級の男がそれぞれ肩に背負った。同時に回復魔法をかける。止血して傷が回復しても、既に流れた出血量が多いため、直ぐに意識が回復するとは限らない。全回復には、さらにポーションと霊薬を飲ませ、ある程度の時間を要する。


「ハビエルさん……う、腕が……‼」


 銅星級の紅一点のリタリは涙目になっている。


「……一旦、引くしかない……! ガリオンを待つ‼」


 聖騎士団は霧隠れ魔法の霧に紛れながら、後退した。ビュノーゾとムトム、そして、足の傷を回復させたケザウも合流し、ニヤニヤ嗤いながら聖騎士団を追い始めた。


 残ったゴブリンとオーク、魔狼、魔蜥蜴を全集結させ、聖騎士団を追い詰めていく。


    ▽    ▽    ▽


「そろそろ……動けよ……俺の身体……!」


 ガリオンは『レベル・ブースト』の反動ダメージがまだ残っていた。


 突如、目の前の空間に黒い煙のような瘴気が発生し、紫色の電光がバチバチと迸った。


「イルヤルン……貴様には期待していたのだがな……」


 不気味な低い男の声が響き渡った。黒い瘴気の中から、金銀の刺繍と装飾が入った真っ黒なローブを身に纏った魔界人が現れ、数m上空に浮いている。


 真っ白で長い髪、少し紫がかった肌の色、眉毛は無く、鷲鼻で、他の魔界人と同じように、額には幾つもの溝が有り、頬骨が張り出し、顔中の静脈が浮き出たような不気味な顔をしている。他の魔界人ほど目元の彫りが深くなく、目の周りの黒ずみも薄い。


 そして、角のように翼が生えた髑髏の装飾がある漆黒の杖=『堕天使の杖』を手にしている。杖の先端の髑髏は、大きな赤紫色の魔霊石を咥えている。


 ガリオンはこれほどの強力な魔力を感知できなかった事に驚きつつ、悔やんだ。


「く……クソッ! ここまで近付かれているとは……。な、何者だ……⁉」


 ガリオンはまだ回復しきってなかったが、ヨロヨロと立ち上がった。


「我が名はエルーザク……イルヤルンは貴殿が殺したか……」


 エルーザクはガリオンが十分に動けないと判断し、さほど気にも留めずイルヤルンの遺体の目の前に降り立った。


「まぁ良い……この方が都合が良い……」


    ○    ○    ○


 これまでの様子を『ハリの水晶』で見ていたグライフとグレースは、再び戦慄した。


 グレースの不安は的中した。彼女はドス黒い闇の魔力を事前に感じ取っていたが、その不安な予知を信じたくなくて、言葉には出さなかった。


「マ……、マズいぞ……」と、グライフは恐れおののく。


 グレースは頭にもやがかかったかのように、先が見透せなくなり始めていた。


 その時、『ハリの水晶』の映像が「バチッ!」と途切れた。


「うっ……⁉」


「グレース、大丈夫か⁉」


 グレースの不安感=予知能力は彼女自身が持つ能力だ。『ハリの水晶』は、外の様子を見る事に使っていただけなので、それほど負荷がかかっていないはずだった。


 しかし、やはり『魔神器』である『ハリの水晶』を連続稼働すれば、それなりの負荷がかかる。さらにエルーザクのドス黒い闇の魔力の影響が出て、一気に強い負荷がかかり、グレース自身に過電流がかかったようになり、『ハリの水晶』の映像は途切れた。


    ▽    ▽    ▽


 エルーザクのローブの内側から、圧縮されて小さくなっていた6本の銀色の杖が現れ、元の大きさに戻った。それぞれ先端には紫色の魔霊石が取り付けられている。杖は魔法で浮き上がり、イルヤルンの遺体の周囲に六角形に配置され、地面に突き刺された。


「……まさか、召喚魔法か……⁉」


 ガリオンはよろけながらも、『鳳翼双剣』を抜く。


「ご明察だ……。これは、遺体を媒介にして召喚する媒介召喚魔法だ……」


 ガリオンが動き出そうとした瞬間、エルーザクの持つ『堕天使の杖』の先端から、「バチバチバチッ‼」と電撃が迸り、ガリオンを〈電撃の網〉で拘束した。


    ◇    ◇    ◇


 後退する聖騎士達は徐々に追い詰められていた。


「……お先に、逃げて下さいッ! ここは俺が食い止める……‼」


 銅星級のビルピトンが〈しんがり〉として、名乗りを上げた。


「そ、そんな! ダメよ!」


「……お、男の覚悟を止めるな……」


 同じ銅星級のリタリが涙を流しながら止めようとしたが、イルヤルンの攻撃を受けて気絶していたヘリグが目覚めて立ち上がり、リタリを押し退けた。


 銀星級で最も大柄なヘリグと、同程度の体格の怪力男・ビルピトンが武器を構え、魔界人の前に立ち塞がった。


 深手を負った銀星級のシリーとジェロはまだ目覚めそうにない。


「テメェ~、さっきはやってくれたなぁ‼」


 魔界人のムトムが、ビルピトンに狙いを定めた。レベルのミスマッチ。ビルピトンはムトムとは勝負にならない。ヘリグが立ち塞がり、『魔鋼の星球棍』で「ガッ」とムトムの一撃を食い止めた。しかし、ヘリグは魔界人で最弱のケザウと同程度のレベル。ムトムの一撃は重く、大柄なヘリグも弾き飛ばされた。


 その間、ケザウがビルピトンに攻撃を仕掛けた。レベル260程度のケザウに対し、レベル240のビルピトンは、『魔鋼のハンマー』で何とか猛攻を凌いでいる。


 後退する他の聖騎士達も、ゴブリン、オーク、魔狼、魔蜥蜴に囲まれ、何とか凌いでいるが、時間の問題だ。隊長のハビエルは左腕を失い、得意の弓矢を使う事ができないが、『聖白の短剣』で抵抗している。しかし体力を消耗し切っていて、顔は蒼褪めていた。


 魔界人の中で最強のビュノーゾは、後方でニヤニヤしながら様子を見ている。


 ビュノーゾが本気を出せば、一気に聖騎士団を全滅させられるが、魔物にじわじわと嬲り殺しにされるのを期待しているのだ。魔界人の中でも特に悪趣味な男だ。


    ▽    ▽    ▽


 一方、ガリオンは拘束から逃れようと身を悶えたが、逃れられず、『鳳翼双剣』を落としてしまった。全快状態であれば逃れられたかも知れないが、現状だと難しい。


「……ほぅ……我が拘束に抗うとは……だが、それで十分……」


 エルーザクは『堕天使の杖』を天高く掲げた。


「メザル・エヴォカルド……ヴァモス‼」


 そして、媒介召喚魔法『メザル・エヴォカルド』と呼び出しの呪文を唱えた。


 六角形に配置された銀色の杖の紫色の魔霊石から、六角形と六芒星を描くように電光が迸り、地面に六芒星と古代文字が描かれた魔法陣が浮かび上がる。そして、首の無いイルヤルンの遺体から黒い瘴気が出始め、グスグスと遺体が崩れ、蒸発していった。


 黒い瘴気の煙が大きな塊となり、巨大な人型に変化し始める。黒い煙が晴れると、巨大なハンマーを手にした、牛頭で人型の魔物『ミノタウロス』が現れた。


 ガゴンッ‼


 ミノタウロスは、電撃の網で拘束されていたガリオンを巨大な槌でぶっ飛ばした。


 ドグシャッ‼


 ガリオンは数十mぶっ飛ばされ、ミンニ村の防壁に激突してめり込み、血だらけになって、ガクッと意識を失った。


    ◇    ◇    ◇


 上空には雲が発生していた。不自然にもかなり低空に発生していたその雲は、霧隠れ魔法『ヴェルム・ミストゥル』で生成されたもので、感知魔法で感知されない効果がある。


 その中から、西の森の魔女・マイサお婆が箒に跨って地上の様子を見ていた。


「……何て事だい……気付くのが遅過ぎた……ダリアとエリザベータはどこだい⁉ このあたしが、感知できないとは……‼」

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次回:2025年05月05日 17時20分

EP.35 血祭(逢魔の聖騎士編⑨)


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