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EP.32 希望(逢魔の聖騎士編⑥)

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 地下室から『ハリの水晶』の映像で外の様子を見ていたグライフは、目を見張った。


 グレースは期待通りの展開になり、ホッとしていた。彼女は時に、予知能力に近い能力を発揮する。グレースの脳裏には、『ハリの水晶』の使用前に〈黄金色に光り輝く何か〉が接近するイメージが浮かんでいたが、朧げだったため、口には出さなかったのだ。


 先程、地下室入口近くまで敵が接近している事に気付けなかったのは、ファムとイルヤルンの戦闘イメージに集中したためだ。


    ◇    ◇    ◇


 月明かりが照らす村の南西の崖の上。矢を放ったのは、馬に乗った聖騎士団・勇隼隊隊長で金星級のハビエルだ。さらに馬に乗った聖騎士が4人続く。


 副長で白金星級のガリオンと銀星級の3人だ。ツーブロックの金髪ボブに水色のメッシュが入った紅一点シリー。聖騎士では標準的な体型で栗色で編み込んだブレイズヘアのジェロ。大柄で短髪のヘリグ。星級は胸元の勲章やマントの色と柄で区別できる。


 聖騎士は全員が、純白を基調に金の装飾が施された聖騎士の装束を身に纏い、金属製の胸当てと肩当てを装着し、兜を被っている。


 聖騎士達は、周辺にいたゴブリンやオークをあっという間に一掃していた。


「せ、聖騎士団……!」


「……し、しかしこの人数で勝てるのか……⁉」


 崖の上で防戦一方だった村兵達から、安堵のため息が漏れる一方、まだ不安を払拭できない者達も多い。ハビエルが深刻な顔でガリオンに話しかける。


「禁断の森を探っていた密偵アルファからの情報通りだな……」


「ヴァルドルめ……魔界人まで呼び込むとは……! この国を滅ぼしかねない愚行だ」


「月の盗賊団クレセントの目撃情報もある。こんな辺境で、何が起きてるってんだ……」


 ハビエルとガリオンは苦虫を噛み潰したような顔で話す。ここはグラハム王国の領内である。聖騎士団は新国王の戴冠式の防衛でグラハム王都を訪れ、その後に、暗躍する地下組織『ヴァルドル』の調査で北東のこの地を訪れていた。


 ハビエルがハンドサインでシリーに合図を出す。


「ヴァロア・ソーマ‼ アミナ・バリエラ‼」


 補助・防御魔法も得意なシリーが、俊敏魔法『ヴァロア・ソーマ』と、魔法を防御する防御結界魔法『アミナ・バリエラ』を全員にかけた。聖騎士達は兜のバイザーを下ろす。


「勇隼隊! 突撃ィッ‼」


 ハビエルがそう叫び、聖騎士団は「ドドドドドドッ‼」と、崖と急斜面を馬で駆け下りた。ハビエルは馬を駆りながら、複数の矢を同時に射始めた。


 ビュビュビュビュビュッ‼


 ハビエルは1度に5本の矢を射た。操作魔法『エレンホス』がかけられた矢は、蛇行しながら思い通りの位置に飛んで行く。


 だが、さすがに1人目をやられて魔界人達も臨戦態勢だ。


 カキィンッ! カァンッ! と、矢を弾かれる。


 魔力を籠められた武器で弾かれると、操作魔法の効果は消える。


    ▽    ▽    ▽


 ビュノーゾが気怠そうに聖騎士団を睨みつけた。


「チッ……あれが聖騎士団か。面倒だ。吾輩はこの場に留まる。オメェら相手をしろ!」


「オォッ‼」


 イルヤルンを除いた魔界人達は雄叫びを上げた。イルヤルンもしばらく様子見だ。


 ビュノーゾとイルヤルンは、少々くたびれていた。『漆黒の魔縲』の縛りがある状態は、謂わば老化した状態に近い。老人が『自分は本来、これだけ動ける』と考えて運動をした時に体力の低下を実感するように、無理が祟ったような状態に陥る。


 2人は『魔界の霊薬』を使用したが、『呪いの結界』内ではその効果も低下していた。


「ビュノーゾさん、村のシンボルの教会はどうします?」


「あぁ、あの建物は残しておきたいと思ってなぁ~。だってシンボルだぜぇ……。それに、楽しみは最後に取っておきてぇじゃねぇか……」


 ビュノーゾはニヤニヤ嗤って舌舐めずりをした。イルヤルンは冷めた目で見ている。


「……ビュノーゾさんって意外とそういうところありますね……」


    ○    ○    ○


 グレースが持つ『ハリの水晶』で映像を見た時、音声は脳内に直接流し込まれる。


「こ、これが聖騎士団……‼」


 グライフは目を輝かせた。しかしグレースは、さらなる脅威を感じていた。


 地下室の入口近くから動こうとしないビュノーゾとイルヤルンの動向が気がかりだ。


    ◇    ◇    ◇


 4人の魔界人、ズロチネツ、ムトム、キャウ、ケザウが聖騎士団に相対する。しかし、その前に魔狼と魔蜥蜴が放たれ、ゴブリンとオークも聖騎士団に立ち向かう。


 再びハビエルが複数の矢を同時に放ち、ゴブリンやオークを物ともせずに射抜いた。


 魔狼と魔蜥蜴は野生の直感で素早く回避し、魔狼はジグザグに飛び跳ねながら、左翼側のヘリグに飛びついた。


「オラァッ!」


 ヘリグは巨大なモーニング・スター、『魔鋼の星球棍』で魔狼の頭を打ち抜き、「バゴッ!」と魔狼の頭は砕け散り、赤紫色の血と肉片が飛び散った。


 銀星級以上の面々は魔物を物ともしない。ガリオン、シリー、ジェロも次々とゴブリンとオークを薙ぎ倒しながら突き進む。


 ガリオンは二刀流で『鳳翼双剣』を、シリーは『蒼銀の長剣』を薙ぎ払っている。


 ジェロは槍使いで、ランスではなくスピアという種類の『蒼銀の槍』を振り回す。


 ある程度の距離まで接近し、全員馬から飛び降りて、身構えた。馬は立ち止まって身を翻し、村の西側に走り去る。この世界では馬はかなり貴重な存在であるため、馬を無駄に使い捨てないための戦法だった。あくまで馬は移動手段として使う。




 遅れて、西側のなだらかな丘に、馬に乗った聖騎士団の残りのメンバーが到着した。銅星級の4人と、蒼星級の3人だ。それぞれ1人ずつ女性がいる。銅星級以下は危険な崖側ではなく、西の森に続くなだらかな丘に回り込んでいた。


 彼等は、ある程度の距離まで接近した後、ガリオン達と同じように、馬から飛び降りてゴブリンやオークに斬りかかった。彼らは銀星級以上のサポートに徹する。数が多く邪魔なゴブリンやオーク、魔狼や魔蜥蜴に狙いを定め、レベルの高い魔界人との交戦は避ける。レベル的には、蒼星級上位なら魔狼と何とか互角に戦える。




 4人の魔界人、ズロチネツ、ムトム、キャウ、ケザウと、5人の聖騎士、ハビエル、ガリオン、シリー、ジェロ、ヘリグの5人が対峙する。


 比較的大柄なズロチネツは角張った幅広の剣鉈、ムトムは長剣、キャウは幅広で分厚い刀、重量級のケザウは棘付き棍棒を手にしている。


 この4人の魔界人は『漆黒の魔縲』未使用だ。この中で最もレベルが高いズロチネツはレベル340程度。即ち聖騎士団の金星級上位の強さを誇っていた。


 ハビエルは自身を上回る強さを感知していた。隊長としての〈情けなさ〉を感じてはいるが、味方で最強のガリオンに託す。


「ガリオン……、先頭のあいつは任せた」


「あぁ、任せとけ。敵を散開させろ!」


 ガリオンは既に継承していた『魔神器:有翼のアンクレット』を起動させる。本来、隊長格が継承するものだが、ハビエルはガリオンの強さに惚れ込み、譲っていた。


 ガリオンの両足それぞれの足下から螺旋を描くようにフワッとした柔らかい光が発生し、両膝下それぞれが光の旋風で包まれ始める。


 ビュビュビュビュッ‼


 ハビエルは4本の矢を放ち、あえて若干外して、敵の回避方向を誘導した。


 この間、シリーは水集魔法『ヴァン・サフナ』で近くの川から水を集めていた。そして、水砲魔法『ヴァン・シュトラ』を放つ。集まっていた水の塊が収束して、ビームのように高速で放たれた。ハビエルと同じく、あえて若干外して、敵の回避方向を誘導する。


 ドシュッ‼ ……バゴッ!


 放たれた水のビームが地面を破壊し、岩が弾ける。これによって4人の魔界人はそれぞれ数十m距離が離れた。


 敵の魔界人はわざと外した事を理解せず、余裕でバカにしたように嗤う。


 ハビエルがハンドサインでそれぞれに指示を送った。


 レベル365程度のガリオンは、レベル340程度のズロチネツに狙いを定める。


 レベル312のハビエルがほぼ同レベルのムトムと相対し、レベル283のジェロがレベル290程度のキャウに挑み、レベル260程度のケザウに対して、レベル258のヘリグが挑む。補助・防御魔法、それに回復魔法も得意なレベル272のシリーは、主にヘリグのサポートに入る。最も弱い敵から順に撃破していく戦略だ。


 しかし、レベル=強さとは限らない。ガゼンベルのように圧倒的な巨躯と膂力を持った敵が、さらに強力な武器防具を装備すれば、レベルの差は埋められるし、高レベルの魔霊気によるガードも貫通する可能性は十分にある。魔界の装備の強さは未知数だ。


 ブゥンッ! と音が響き、ガリオンが『有翼のアンクレット』によって超高速で弧を描くように飛翔し、ズロチネツに斬りかかった。ズロチネツは虚を突かれ、防御が精一杯で、「ドゴッ‼」とビュノーゾ達とは逆方向の崖側にぶっ飛ばされた。


 ガリオンはズロチネツをぶっ飛ばした場所まで追撃する。


 片刃の『鳳翼双剣』は、刃の断面が流線形の〈翼型〉で、刃の反対側の棟=峰には丸みがある。ガリオンは『鳳翼双剣』を逆手に持ち替え、翼のように使って〈飛行魔導機マギア・フルグヴェルのフラップ〉のように角度を変えて気流をコントロールする。


 その様子を見て、ビュノーゾとイルヤルンは驚愕し、顔を見合わせた。


 ガッ! ガンッ! ドッ!


 それぞれの場所で交戦が始まっている。


「オォラァッ!」


 ゴガンッ! ヘリグの『魔鋼の星球棍』とケザウの棘付き棍棒がぶつかり合う。重量級の2人の対決だ。ヘリグがバランスを崩したところに、すかさず、シリーが防御シールド魔法『アミナ・エスクード』を展開した。〈ハニカム構造で全体が湾曲した青紫色に光り輝く魔法の盾〉が、ケザウの攻撃からヘリグを護る。


 ハビエルは離れ過ぎないように間合いを取りながら、『聖白の弓矢』でムトムを狙う。


 スピードのあるジェロは素早い動きでジグザグに動いて翻弄しながら、キャウに対して『蒼銀の槍』の一閃を繰り出す。


    ○    ○    ○


 地下室から、グレースが持つ『ハリの水晶』でその様子を見ていたグライフは、グレースの肩を抱き、興奮した様子だ。


「す……凄い……っ! これなら勝てる! 希望が見えてきたぞ! グレース!」


 グレースは無言で蒼褪めている。


    ◇    ◇    ◇


 互角以上の勝負に見えたが、ゴブリンやオーク、魔狼や魔蜥蜴が、戦闘中にお構いなしに突っ込んで来た。聖騎士達の注意が逸れた。


 その時、イルヤルンが『死神の鎌』を激しく回転させ、猛烈な速さで振り回した。


「……マギア・ラミーナ・ヴァルテージ!」


 イルヤルンが、ファムを追い詰めた〈刃旋風魔法〉を発動した。敵も味方も無分別で刃旋風に巻き込んでいく。


 ザンザザン! 斬斬斬斬斬斬ッ‼ ズババババババババ……‼


「うぐぁああぁっ‼」「きゃあぁあああああッ‼」「グガァアァアァァァ‼」


 ズロチネツを追撃したガリオン以外の、聖騎士、魔界人、近くにいた魔物全てが、刃旋風に巻き込まれ、斬り刻まれた。


    ○    ○    ○


 その様子を『ハリの水晶』で見ていたグライフとグレースは、蒼褪めて戦慄した。 

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次回:2025年05月05日 13時10分

EP.33 拍動(逢魔の聖騎士編⑦)

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