表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/83

EP.28 侵攻(逢魔の聖騎士編②)

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 グレースは近隣諸国に知れ渡るほど、優れた占い師としての名声を得ていた。類い稀な予知能力を持つ、『魔神器:ハリの水晶』に選ばれた血族の末裔だからだ。


 グレースの祖母、母は高名な占い師だったが、既に病死している。原因は『ハリの水晶』による後遺症だが、西の森の魔女のお婆の薬草はそこそこの効果を発揮し、祖母は60過ぎまで生きた。しかし、母親は無理が祟って早逝した。


 父親は聖騎士だったが、20代で魔物に殺されていた。




 少年グライフは大きな袋を肩から下げ、西の森の奥深くで落ち葉を踏み締めながら歩き続け、魔女のマイサお婆の小さな家の前に到着した。


 魔女の家だけあって不思議な外観で、大きな樹上に建てられ、遠目から見ると木の枝が複雑に絡み合ってできた壺のような丸みのある形状となっている。そこに小さな丸い窓と、同じく丸い木製の扉が付いていて、木製のスロープと階段が入口まで繋がっている。


「お婆~⁉ 俺だ! グライフだ! 薬草を貰いに来た!」


 丸まった家の上部にある2つの燈火が点灯し、まるで目のように光り、扉が開いた。


 小さな扉なのでグライフは前屈みの状態で入って行く。


 家の奥にマイサお婆が待ち構えていたかのように座していた。


 マイサお婆は、フード付きの黒いローブを身に纏い、大きな宝珠が連なる首飾りを身に付けている。如何にも魔女と言った風貌だが、ニコニコしていて優しそうな雰囲気だ。


 周囲には美しい花々が生けられた花瓶がある一方で、蜥蜴や蛇や蛙の燻製、ドライフラワーが吊り下げられ、テーブルの上にはぐつぐつと沸騰した紫色の液体が入った壺があり、得体の知れない液体が入った小瓶や小壺が数多く置かれている。棚にも怪しげな壺や瓶が置かれ、幾つもの魔法の書物=『魔導書』が並べられている。


「おやおやグライフ……久しぶりだねぇ……」


「……? 久しぶりって、2週間前に来たじゃん……」


「……2週間はねぇ……、1人暮らしのあたいにとっちゃ長い……長いんだよ!」


 マイサお婆は笑いながら怒るような口調で言った。


「で、何の用だい?」


「……さっき言っただろ。薬草だよ薬草!」


「そんな前の事、忘れたよ! ……食い物は持って来たんだろうねぇ?」


「もちろん」


 グライフは袋の中身を見せた。大きなカブ等、野菜や果物がたくさん入れられている。さらに、小分けされた袋の中には、圧縮魔法で小さくされた猪が入っていた。圧縮解除すると1m以上の大きなサイズに戻った。


「……ふむ……悪くはない……」


「家族で食べる一か月分くらいはあるぜ……。だ、だから……、や、薬草だけじゃなくて、れ、霊薬も貰えないかな……?」


 グライフはマイサお婆のご機嫌を窺うように言った。


「ふん……、生意気だね……。あの子はそんなに体が悪いのかい?」


「……あぁ。どんなに回復魔法を使ったり薬草を使っても、中々効かないんだ……。もちろん、栄養のある飯も食わせてるつもりなんだけど……」


「……あんた、痩せたね。食い物は半分で良いよ。猪は持ち帰りな!」


「え……、でも……」


「心配しなくても、薬草と霊薬はあげるよ。……とっておきの、『竜の霊薬』だよ」


 マイサお婆はニヤリとほくそ笑んだ。


    ▽    ▽    ▽


 ――およそ1時間前。


 魔界人達は、禁断の森の出口付近にある破壊された石碑を拠点に〈作戦会議〉を済ませていた。


 イルヤルンが前に出て、静かに話し始めた。


「本来、『呪いの結界』は〈外界から来るレベル300以上の者〉を拒む。数値は正確じゃないが、おおよそレベル300程度から呪いの縛りを受け始め、力を発揮し難くなる。レベルが上がるほど呪縛は強まり、レベル400を超えた者が侵入を試みれば、呪いの炎で焼かれてしまう……。魔界人の魔力の平均レベルは300程度だが、平均レベルを遥かに超えている我々は、こうして『漆黒の魔縲』でレベルを抑制しなければならない」


 最年長のビュノーゾが続けて話す。


「しかし、〈忘れられた地〉では『呪いの結界』が弱まっているから、レベル450以下に落とせば素通りできるってわけだ。値の誤差を考慮して、吾輩達は440以下まで落とす必要があった。……ま、いずれにせよ『漆黒の魔縲』の装着で、吾輩は420、イルヤルンが410、ガゼンベルが400程度まで落ちたがな……。『漆黒の魔縲』は、抑制率を調整できねぇのが難儀だぜ……。しかし結局、村にある結界石が『呪いの結界』を強化してやがるから、このままでは侵攻できねぇ」


 イルヤルンが幻想魔法で簡単なビジュアルイメージを空中に描いた。


「村には2種類の結界石がある。高レベルの人類を防ぐ『呪いの結界』の効果を強化する『呪界石』と、魔物を防ぐ『聖界石』だ。通常、結界石と言えば後者を指す。それぞれの結界石は最低でも50m程度は距離を隔てる必要があり、隣接させる事ができない。魔物と違って我々魔界人に『聖なる結界』は無効だが、味方の魔物の侵入を防いでしまうので、破壊する必要はある。それより我々にとって厄介なのは『呪界石』の方だ。『呪界石』が『呪いの結界』を強化し、通常通りレベル300以上を拒む力に戻されている」


「そこでガゼンベル。オメェの出番だ。オメェは『漆黒の魔縲』を二重に装着して、さらに魔力レベルを抑制しろ。それで大体レベル300程度まで落ちるから、『呪いの結界』を無効化できるかも知れねぇ。ギリギリだがな」


「おいおいおい、さらにレベル下げなきゃいけねぇのかよぉ~」


 ガゼンベルは不満そうな顔をして両掌を上に向けた。


「魔力を抑制すれば、多少は腕力も落ちるが、体重が落ちるわけじゃねぇし、『悪鬼の戦斧』の重さもそのままだ。オメェの物理攻撃力が役に立つってわけだ。……ガゼンベル。オメェの絶大なパワーを見せつけてくれよォッ‼」


 ビュノーゾはおだてるように言い、ガゼンベルは「それなら仕方ねぇなぁ~」と満更でもない顔をした。腕力があるガゼンベルは、物理攻撃=質量攻撃の威力が高い。単独で北東の門を突破し、結界石を破壊する作戦だ。


「しかし注意しろ。『呪いの結界』は、〈元々内側にいた存在〉か〈外側の存在〉か……つまり、外敵を判定している。内側で生まれ育った人間達は『呪いの結界』に耐性があるから、レベル300を超える者も存在するかも知れん」


 イルヤルンはガゼンベルに警告した。


「人間ってめちゃくちゃ雑魚なんだろ? そんな人間いんのかぁ~?」


「……内側の人間どもは、耐性を獲得した一方で、成長を抑えられているらしい……。だから、レベル400以上の人間は、まず存在しない。結界石さえ破壊すれば、我々の勝利は確実と言える。即ち、ガゼンベル。この作戦の成功は、貴様の働きにかかっている!」


 イルヤルンが真っ直ぐな瞳でガゼンベルを見た。ガゼンベルはほくそ笑む。


「……クックック……俺様に任せておけ……」


「……いいか。呪界石を破壊するまでは、決して『漆黒の魔縲』を外すな。呪いの炎で焼かれるぞ……」


    ◇    ◇    ◇


 ――ミンニ村から数km離れた山の上。


 日が落ち、既に辺りは薄暗くなり始めていた。しかし、5つもの月明かりがある程度の視界を確保してくれる。アンティークな装飾の真鍮製の望遠鏡を覗き込み、ミンニ村の方角を見る、冒険者の装束を着た若者がいた。


「おい、ハイト。大分暗くなってきてるが、見えるか?」


 20代中盤で若き盗賊団頭領のダンケル・フォルスケルが、望遠鏡を覗き込んでいた1つ年下の弟・ハイトに話しかけた。


 ハイトはサラサラの金髪を靡かせながら、振り向く。


「あぁ。見えた。村が襲われ始めてる……! 早く救援に行かないとマズい!」


 望遠鏡にさらに遠視魔法『アクイラ・オクルス』を重ねる事で、ハイトは遠い村の様子がハッキリと見えていた。


 ダンケルとハイトが結成した月の盗賊団クレセントは、数か月前から地下組織『ヴァルドル』の動向を探っていたが、ここ数週間で急激に活動が活発化していた。


「チッ……、クソったれ……。以前捕らえたヴァルドルの構成員がゲロった通りだな」


 ダンケルは眉間に皺を寄せ、遠くを睨みつけた。ハイトは村の方角を見る。


「あぁ。確か、狙いはミンニ村の預言の少女……グレース……だったか」


「野郎ども! 戦いの準備だ‼ クレセント‼」


 ダンケルが振り向いて拳を突き上げ、仲間を鼓舞した。最年少で17歳のコールソンは身震いした。約30名の月の盗賊団クレセントは、鬨の声を上げる。


「オォーッ‼ クレセント‼」


 ダンケル達・月の盗賊団クレセントは、ミンニ村に急ぎ向かう。


    ▽    ▽    ▽


 魔界人が率いる魔物は総勢200体以上いて、村の人口より多い。


 ゴブリンとオークの比率は7対3程度だ。


 村の結界は防壁の外側数百m程度まで効力を発揮し、「バチバチッ」と内側に侵入する魔物の動きを鈍らせる。しかし、魔界人の命令に忠実なゴブリンやオークは多少のダメージを厭わず侵攻していた。


 ゴブリンやオークが防壁から数十m程度の位置まで侵入し、火矢や投石機による攻撃を始めた。火矢も投石機も、射程距離は200〜300mある。投石機は圧縮して運んで来た物だ。魔物の侵入を防ぐ結界は、攻撃を防げるほど都合の良い物ではない。特に魔力が籠もらない物理攻撃は弾く事ができなかった。


    ◇    ◇    ◇


 ミンニ村は、村民皆兵である。子供や老人を避難させ、男女共に、ほぼ全ての大人で敵を迎え撃つ準備ができていた。


 村長で魔法隊長のラミド、衛兵・戦士隊長のボロノ、弓兵隊長のシカリがそれぞれ指揮を執る。農民や職人、商人達は素早く武器を取り、それぞれが所属する部隊の隊長の下に駆け付ける。戦士隊約30名、弓兵約25名、魔法使い約15名。


 戦士隊は村の防壁内に留まり、北東の門が破られた時に備える部隊と、地理的な要所に展開している。また、子供や老人が避難する村の教会を護衛している。


 防壁周辺では篝火が焚かれたが、防衛すべき拠点の燈火は消された。




 しかし、一部の村人達は、身勝手にも北の崖の中腹にある洞穴に避難していた。愚かにも、洞穴の奥では燈火と魔霊石ライトが点けられていた。


 元々、ここも避難所として準備されていた場所の1つで、ある程度の保存食や寝泊まりするための物資が揃っていたが、戦士隊の守備範囲外である。


 この洞穴に避難した者達は、村民皆兵である事を拒否し、逃げて来た輩である。


 その中には、ブルタールもいる。


「クッソ……何だってんだよ……戦ってなんていられるか……チクショウ……」


 ブルタールは蒼褪めながら毛布を被って、歯をガチガチ鳴らしながら呟いた。




 ラミドが魔法使い部隊を指揮して防壁魔法を展開し、防壁の向こう側から飛んで来る火矢や投石攻撃を防いでいた。しかし全ての攻撃を防ぎ切れるわけではなく、一部の家屋が破壊され始めている。数人の魔法使いが防壁上から火炎や電撃魔法で攻撃を仕掛ける。


 一般的に、魔法の射程距離はレベルの半分程度で、50m離れた敵を攻撃する魔法使いは、レベルハンドレッド級以上だ。


 さらにシカリが指揮する弓兵部隊が防壁の上から攻撃を仕掛ける。弓矢は魔法よりも威力は落ちるが、敵の火矢と同等の射程距離で、特に隊長のシカリの矢は最大400m程度まで届く。当然、距離が近いほど高い威力を維持する。


 ヒュッ! ザシュッ‼


 シカリが射た矢は、ゴブリンやオークの頭部を射抜く。そこに1人、巨大な斧を背負った灰白色の肌の巨躯の男がゆっくりと北東の門に近付いて来た。


    ◇    ◇    ◇


 グライフは薬草と竜の霊薬を入れた小袋を腰に下げた。マイサお婆の好意で食糧の半分以上は持ち帰る事ができた。


 想像以上に素晴らしい薬を手に入れた事に喜び、勇み足でミンニ村への帰路につく。


 生い茂った森を抜け、そこでようやく村から黒煙が立ち昇っている事に気付いた。


「む、村が……⁉」


 思わず食糧入りの大きな袋を地面に落とし、そのまま全速力で村に向かった。


【いいね】【ブックマーク追加】【お気に入り登録】をお願いします☆


次回:2025年05月04日 23時20分

EP.29 絶命(逢魔の聖騎士編③)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ