EP.25 感謝
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
――現在。ドワーフの谷から聖地サンクホフトへの帰路で、再び野宿をする事になった見習い聖騎士団は、焚き火に囲まれながら寛いでいた。
「――とまぁ、こんな事があったんだ」と、ジゼルが横たわって肘をついて頭を押さえた姿勢で、過去の話を披露していた。ジゼルはドライフルーツをつまみにしている。
「その後、どうなったんだ?」と、ハーディーが質問をした。
「あの後、本物の月の盗賊団が偽物を全部やっつけてくれたんだけど、残念ながら、村民に犠牲者も出た……。偽物は……、確か、地下組織……ヴァ……ヴァル……『ヴァルドル』だったかな? とりあえず、それの一部の構成員で組織されてたらしい。自分の事をボスと呼ばせてた野郎も、ヴァルドル内では下っ端だったようだぜ」
「ヴァルドル……聞いた事はあるけど、詳細な事はよくわかってないよね……」
と、ミロが呟いた。ジゼルが話を続ける。
「そう言えば、オレを荷馬車に入れてくれた男は、月の盗賊団のスパイだったらしい。だからあんなに早く来てくれたんだなって……」
「へぇ~……。月の盗賊団ってのも、盗賊団の割には良い奴等なんだなぁ~」
ハーディーは月の盗賊団に興味津々だ。
「村はどうなった? 住み続けたのか?」と、ロコがジゼルに聞いた。
「村はまだ残ってるけど、村民は減ったさ。オレ達もさすがにあの村に居続ける事は難しかったから、その日のうちに旅立って、〈ノイス公国〉領内の〈サバディート〉って町に引っ越したんだ。クソ親父はしばらくして家に帰って来たみたいで、うちが〈もぬけの殻〉だったから、マジで焦って大泣きしたらしいぜ!」
そう言って、ジゼルは歯を見せてニカッと笑った。
「はははははっ‼ そりゃあ、焦っただろうなぁ~……」
その場にいたハーディーやミロ、ロコ、ハンナは大笑いしていたが、奥にいるグライフは深刻な顔で聞いている。
「それで、すぐに気付いてもらうために、床に目立つ傷を付けて、床下に手紙を隠しておいたんだけど、しばらく泣きじゃくってから、ようやく気付いたんだとよ。その後、ちゃんと引っ越し先に来てくれたよ。『もう二度と君の事を離さないぃ~‼』って……暑苦しかったなぁ~……」
再び、ハーディーら周囲で話を聞いていた見習い聖騎士達の笑い声が響いた。
しかしグライフは全く笑わず、それがジゼルには気になって仕方がなかった。
「ま、結局は、親父が旅先で知り合った聖騎士のツテで、オレは今こうして此処に居るんだけどね……」
ジゼルはジッとグライフを見つめた。グライフは意識してなのか、目を合わせようとしなかった。ジゼルは立ち上がって、グライフに近付いた。
「ねぇ、グライフ……ちょっと良い? 話があるんだけど……」
ジゼルがグライフを野営所のテントの裏に連れて行った。
ハーディーは「むっ?」とジゼルの動向が気になり、ソワソワした。
* * *
ジゼルはキョロキョロと辺りを見回し、周囲に誰もいない事を確認した。
当然、テントに近付き過ぎると、中に居る者に聞かれる可能性もあるため、少し林の奥に入って行った。
「……何だ? 話って……」
グライフは少し緊張しているようだ。
「お前……いや、あんたさぁ……、どっかで見た事あるような気が、ずーーーっと、してたんだ……」
ジゼルが一歩グライフに詰め寄って、上目遣いでジッと顔を見つめた。
グライフは冷や汗をかき、半歩後ろに下がった。
さらにジゼルが詰め寄り、再びグライフは半歩下がった。
「何で下がるんだよ…………。単刀直入に言うけど、あんた、あの時、あた……オレの事を助けてくれた月の盗賊団員だろ? その髪の色にも見覚えがあるぜ?」
ジゼルは過去の事を思い出し、思わず〈あたし〉と言いかけた。
グライフは入団当初こそ坊主頭だったが、今はツンツンとした長さの短髪だ。
多少髪が伸びた事で、独特の黒に近い紺碧の髪色が判別し易くなっていた。
「……い、いや、そんな組織の事は知らない……よ、よく似た別人だろう……」
普段クールなグライフだが、顔から汗が滲み出て、目が泳いでいる。
「…………あ、あんた……。嘘が下手だねぇ……」
「……………………」
グライフはあらぬ方向を見たまま黙りこくって、しばし沈黙の時間が流れた。
「……まぁ良いわ……。とにかく、これだけは言わせて……」
ジゼルはグライフを軽くハグした。
「……ありがとな。助かったよ…………じゃ、先に戻ってるわ」
ジゼルも少し恥ずかしかったのか、顔を紅くして、照れ隠しするようにあっさりと礼を言い、軽く手を挙げて立ち去った。
グライフからしても、意外だったのだ。当時のジゼルの髪は長く、色白で可愛らしい雰囲気の美少女だった。今のジゼルも美女である事は間違いないが、日焼けして健康的な小麦色の肌になっているし、当時のような甘さや柔らかい雰囲気は消えていたからだ。
「……ま、まさか……、あの娘がジゼルだったとは……」
その時、周囲をパトロールしていて、その話を偶然聞いてしまった者がいた。
「……も、元……盗賊?」
◇ ◇ ◇
翌日、見習い聖騎士達は聖地サンクホフトに戻り、各々が宿舎に戻って行った。
グライフが宿舎に戻って装備を外していたところに、ロジェリオがやって来た。
「おい、グライフ。お前に、手紙が届いてたようだぜ」
「あっ、ありがとうございます」
「今回はお疲れだったな。まぁしばらくゆっくり過ごしてくれ」
グライフは手紙を受け取り、頭を下げた。
それは、兄妹のように育った幼馴染のグレースからだった。
* * *
グライフ、お元気ですか? 先日の2か月ぶりのお手紙、とっても嬉しかった。
相変わらず、忙しいみたいですね。私も変わらず、穏やかに過ごせています。
特に『月見家』のモーラさんは優しくしてくれるし、最近になって女の子のお友達が何人もできたの。こないだはみんなで川に遊びに行って、マスモン釣りを楽しんだわ。本当に楽しかった。今が人生で一番穏やかな気持ちで過ごせています。
時々、『月見家』の家長さんが様子を見に来てくれるの。彼はとても優しいわ。こないだは雉料理を振舞ってくれて、とても嬉しかった。
でも、私がいつも気にかけているのは、グライフ。あなただけ。あなたも私の事を決して忘れないでね。いつまでも待っています。私の居場所は手紙には書けないけど、いつもの場所に矢文鳥を送ってくれれば、『月見家』の皆さんが、必ず私に届けてくれる。返事を待っているわ。グレースより。
追伸:最近、グラハム王国の近隣では、『オドゥ教』という怪しげな教団が活動を活発化させています。例の地下組織『ヴ■■■ル』が関わっているという噂もあるわ。
また何かあれば、情報を送ります。
それと、最近ペットを飼い始めました。かわいい猫ちゃんと兎ちゃんです。
* * *
最後にそう書かれ、グレースが描いたと思われる挿絵がある。
この世のものとは思えない不気味なアライグマのような絵が2つ描かれていて、グライフは、クスリと笑った。そして不思議と何故か、涙が頬を伝った。
おそらく検閲されても問題がないように、『月の盗賊団』を『月見家』と記述し、地下組織『ヴァルドル』の名前も黒く塗り潰していたのだろう。
一方で、邪教と呼ばれる『オドゥ教』に関してははっきりと記述されている事が、グライフは気になった。
「それだけ、一般庶民にも悪評が広まっているという事か……」
グライフはそう呟き、グレースへの返事を書き始めた。
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次回:2025年05月04日 20時20分
EP.26 魔族の始祖◆閑話◆




