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EP.24 逃走(ある少女の物語②)

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 気絶したジゼルは、魔力を封じられる『魔封の縄』で縛られ、2人の盗賊に両脇を抱えられて引きずられながら村の中心部に連れて行かれていた。


 ジゼルの長い黒髪が垂れ下がって、揺らめいている。ワンピースの裾は、引きずられて泥だらけになっていた。


「……へっへへっ。若い女は良い匂いがするなぁ……たまんねぇぜ……」


 ジゼルを右側から抱える盗賊が呟いた。民族衣装のようなワンピースの胸元の隙間からジゼルの成長途中の胸が見え隠れしていた。


「おい、絶対に手ェ出すなよ。ザルノク様にぶっ殺されるぞ。ジスレーヌが見つからなかったら、この娘が第15夫人になるんだ」


「だ、第15だとぉ~……少しくらい俺達に分けろやっ!」


「ケヒッ……こいつ以外なら、村人の女を好きにして良いって話だぜ……ケヒヒッ」


 ズサッ


 ジゼルを抱えた2人の盗賊は、村人が集められた一角にジゼルを連れて行き、土の上に雑に投げ捨てた。


「おいっ! その娘は丁重に扱えと言っただろうが!」


 偽物の月の盗賊団クレセントのボスがキレ気味に怒鳴った。荒々しい集団を手懐けるのは、盗賊のボスでも一苦労であった。


「あっ、あぁ、すいません……! 今すぐ、浄化魔法で綺麗にします!」


 魔力感知魔法『マギア・ペルセベル』を使っていた盗賊の1人が、低級浄化魔法『モーイ・モーイ・スクーン』を唱えてジゼルに付着した汚れを取り除き、幌付きの荷馬車の荷台に乗せた。この魔法は浄化魔法『ピュリフィカトル』の下位互換魔法だ。


「う……う~ん」


 ジゼルは目を覚ましたが、『魔封の縄』で縛られて身動きが取れない。


「う……く、くそぉ……魔力も魔霊気も封じられてる……?」


「ジジイィッ! ジスレーヌはどこだ⁉ どこに逃げた⁉」


「だっ、だからっ、ワシャ知らんゆーとるじゃろうが‼ 心当たりもないっ!」


 遠くで男達が口論しているような声が聴こえてきた。




 ジゼルは頭を上げ、耳を傾けた。


「あの声は……村長?」




「家の場所は教えたじゃないか! そこを徹底的に探したのか⁉」 


「だから、何も残ってなかったんだよ‼ まさに〈もぬけの殻〉ってやつだ!」


「……ゆ、床下は⁉ 床下は探したのか⁉」




 ジゼルは声のする方向を睨みつけ、歯軋りをした。


「ク……クソ……、あの村長ジジイ‼ チクりやがって……」


 ジゼルは母のジスレーヌの身を案じた。




「床下……床下か! おいっ、そこのおま――」


 ビュッ! ザシュッ‼ ……ピシャッ。ピシャピシャッ……。




 声のする方向から風を切る音がして、ジゼルが見える範囲に血飛沫が飛ぶのが見えた。


「な、なんだ⁉」


 ジゼルは、荷馬車の幌の隙間から外を見ようとしたが、『魔封の縄』で縛られているため思うように力を出せず、動けずにいた。




「うぉおおおおおおおおおお‼」


 ドドドドドドド‼


「行けっ‼ 行けぇっ!」


 ガンッ! キンッ! ガンキンキンガキンッ‼


 男達の咆哮に、何十人もの人々が駆ける音、剣と剣がぶつかり合う音が聴こえてきた。


「Go! クレセントGo‼」


 男達の咆哮に混じって、女の掛け声も聴こえてきた。




「……な、何が起きてる……⁉」


 ジゼルは冷や汗を垂らしながら、外の様子を案じた。上手く身動きが取れない。




 一方、霧がかった森の中で、黒ずくめの〈漆黒の装束〉に身を包んだサーキスが、1人の男に追いかけられていた。


 月の盗賊団クレセント頭領のダンケルの弟・ハイトである。細身で端正な顔立ちのハイトはサラサラの金髪を靡かせながら、サーキスを追っていた。


「やっぱりテメェが一枚噛んでたか! サーキス‼」


「チッ! しつけぇ野郎だ!」


 サーキスは2つ並んだ岩の間を跳躍し、飛び越えた。ハイトもそれに続く。


 サーキスはタイミングを見計らって、仕掛けていたロープを切断した。


 ガゴンッ!


 ハイトの足下に仕掛けられたトラバサミがハイトの足に咬みつくように閉じた。


「危ねぇっ!」


 しかし、ハイトはすんでの所で跳躍して躱した。


 ガンガンガンガンッ! ビュビュビュビュッ! ドシュッ‼


 そこに多重に仕掛けられた罠が発動し、鎖付きの矢が、ハイトの足を貫いた。


「うっ⁉ ……クソッ! こんな物に……‼」


 ハイトは、自身の剣『聖大剣:クラウ・ソラス』を数m先に落としてしまった。その上、鎖のせいで身動きが取れない。


 ガキンッ!


 手持ちの短剣を使って鎖を切断しようとしたが、異常な強度だ。


 罠の名手であるサーキスは、あらかじめ幾つかの逃走ルートを想定し、罠を仕掛けていた。罠には専用の魔霊石が取り付けられ、自身の魔力を籠めてあるため、自分のレベル以下の相手になら通用し易く、罠自体も魔霊気で強化されている。


 同時に魔力感知を阻害する仕掛けも使い、気付けなくしていた。


 サーキスは剣を抜き、ゆっくりと戻って来て、ハイトを見下ろした。


「クックック……残念だったなぁ……。その罠でダメージを受けるって事は、お前は俺よりレベルが低いって事だ……。月の盗賊団クレセント・副団長のハイトさんも、こんな情けない死に方とはなぁ……」


 サーキスは嫌味な口調で、嗤いながら剣の切っ先をハイトに向けて構えた。


 ビュッ! ガキィンッ‼


 突如、ナイフが超高速で飛んで来て、サーキスは超反応で剣で弾いた。


 ハイトは心の中で「速いっ!」と呻った。


「頭領のお出ましか……ダンケル‼」


 サーキスはナイフが飛んで来た方向を睨みつけた。数十m離れた岩の上に、月の盗賊団クレセント・頭領のダンケルが立っていた。


 ダンケルは弟のハイトと比べて圧倒的に体格が良く、恐ろしいまでに目つきが鋭い。オールバックで短めの金髪。肌は日焼けしていて、差し色にゴールドが入った漆黒の装束を身に纏っている。左肩には黒い金属の肩当てが装着され、左腰に『月下げっかの剣』を帯剣している。


 ダンケルは岩から飛び降り、「ドンッ!」と一瞬の加速でサーキスに迫った。


「チッ!」


 サーキスは分が悪いと見て後ろに下がり、身を翻して自身の最高速度で敵前逃亡した。


「チッ! 相変わらずコスい野郎だ……‼」


 ダンケルは逃げるサーキスを全速力で追いかけた。


 森の奥の霧の中に2人の姿が消えていった。


「……クッ……俺とした事が……」


 ハイトは矢を引き抜き、素早く中級回復魔法『エレメ・ピセラ』を自身の足に使った。薄緑色の光に包まれる。そして、足を引きずるように立ち上がり、サーキスが逃げ去った方向を見つめ、「ちくしょう……」歯をギリッとさせた。


    *    *    *


 サーキスは数十m眼下に川と滝が流れ、美しい花が咲き乱れる断崖絶壁の崖に到達していた。遠方には雲海が見え、高度が高い事が伺える。


 後ろからダンケルが追いかけてきた。


「ここでお前と戦う気はねぇ……。じゃあな‼」


 サーキスは、「トンッ」と、崖下の川に向かって飛び降りた。


「何っ⁉」


 ダンケルが驚き目を見張ると、断崖絶壁の空中に光る空気の塊が発生していた。衝撃吸収魔法『アエラス・クシーノ』で生成された〈空気のクッション〉だ。これもサーキスが事前に逃走経路として設置していたものだった。


 ボンッ‼


 川の上空の空気のクッションに飛び乗ったと同時に衝撃魔法『パイネ・アールト』で強烈な衝撃波を起こし、サーキスは百m以上先の反対側の崖に跳躍した。


 空気のクッションは衝撃波で破裂して無くなってしまったため、ダンケルが利用する事はできなかった。サーキスはまんまと逃げおおせたのだ。


「……チッ……逃げ足だけは認めてやるよ……サーキス」


 ダンケルはサーキスが逃げ去った方向を睨みつけて、身を翻して〈ヴォートマルクの村〉へ戻る事にした。


「闇堕ちした元・聖騎士……か」


    *    *    *


 相変わらずジゼルは荷馬車の中で身動きできずにいた。


「おい! 大丈夫か⁉」


 襲ってきた偽物の月の盗賊団クレセントとは全く異なる藍色や濃紺で配色された装束に身を包み、同系色のマスクで顔を隠した若者が、荷馬車の幌をかき分けて入ってきた。


 黒に近い紺碧の髪色で、少しツンツンとした短髪の若い男だ。


「縄を外してやる」


 若者はナイフで『魔封の縄』を切断した。


「今、外で戦いが起きているから、縄は外したが、まだ出てくるな。自分の身を護る事を最優先するんだ」


 そう言って、若者は荷馬車から出ていった。


 ジゼルが荷馬車の外を見ると、先程口論していた盗賊の首に矢が突き刺さっていて、大量に血を流して倒れていた。村長も巻き添えの矢が腹部に当たり、倒れていた。


 村長の言動に思うところはあったが、ジゼルはいたたまれない気持ちになった。


「あんなに良い人だったのに……」


 周囲ではまだ、ジゼルを襲った偽物の月の盗賊団クレセントと本物の月の盗賊団クレセントが戦っていたが、形勢は明らかに本物の月の盗賊団クレセントが有利だ。


 ジゼルは隠れながらコソコソと移動し始め、適当に落ちていた武器を拾い、様子を見計らって、全速力で母が残る家に向かった。


    *    *    *


 ジゼルが家に戻ると、既に偽物の月の盗賊団クレセントは周囲から居なくなっていた。


 ジゼルが倒した男の遺体も片付けられており、血痕だけが残っていた。


「お母様っ‼」


 ジゼルが家の中に入ると、少々壁に傷があり、カーテンが破られていたものの、残りの全ての家財道具は母・ジスレーヌが圧縮してまとめていたため、それほど荒らされてもいない印象だ。


 ガタッと、床下から音がした。トントトトンッと、リズミカルに床下を叩く。


「お母様!」


 ジゼルが床下の扉を開けると、母・ジスレーヌは、複数の鍋にベルトを巻き付けて、兜や鎧のように身に着けていた。


「……何? その格好……?」


「あぁっ‼ ジゼルっ! 良かったぁ~……‼」


 ジスレーヌは床下から出て、ガチャガチャと音を立ててお鍋の兜や鎧を外し、ジゼルをギュッと抱き締めた。


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次回:2025年05月04日 19時20分

EP.25 感謝

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