EP.22 断罪
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https://youtu.be/OahpETEBXxc
聖騎士団・団長の『ゲオルク団長が倒れた』との知らせを受け、ガリオンは馬鎧を外して身軽になった愛馬の〈ドレイク〉を飛ばし、聖騎士の本拠地・聖地サンクホフトに急ぎ戻って来た。全高約200mの巨大な女神像が彫られた断崖絶壁が見える山道を一気に駆け上って行く。
ガリオンが騎乗する馬には、黄金の冠のような装具『覚醒の馬冠』が装着されている。
付与されている自動回復魔法『アトマ・ピセラ』の効果で常に体力を回復し続け、数日間は脳を活性化させて睡眠の必要もなくなる覚醒作用のある魔道具だ。
しかし、限界が来れば堰を切ったように疲労が押し寄せ、数日間眠り続ける事になるので、使用上の注意が必要だ。
ある意味、動物虐待とも言える酷使ではあったが、緊急を要したため、そうも言っていられない。しかし実際にはそれほど長時間、馬を酷使したわけではない。
そもそも矢文鳥による緊急連絡を受けてから、まだ半日も経過していない。
ドワーフの谷と聖地サンクホフトの距離は、通常の行軍で2日程度の道程。
2日間とは言え、実際の移動時間は1日平均10時間程度だったので、徒歩で約20時間分の距離だ。距離にして約90km前後である。
馬の最高速度は時速約70kmほどであるが、通常はこの速度で走り続けられるのはわずか5分程度である。この速度で走る事を襲歩と呼ぶ。
速歩と呼ばれる時速約15kmほどの速度であれば、通常でも1時間程度は継続して走る事ができるが、本来は1日40~50km走るのが限界だ。
『覚醒の馬冠』を装着した馬なら、時速約30kmほどの駆歩で、2時間程度は走り続ける事が可能である。
ガリオン自身は『覚醒の馬冠』のような装備を身に着けていないため、騎乗し続ける自身の方が疲れるし、『覚醒の馬冠』も馬を完全に回復し続けるわけではないため、全く休憩する必要がなくなるわけでもない。しっかり休憩も挟み、馬にポーションや『魔丹丸』を与えて体力を回復させ、4時間半程度で聖地まで戻って来た。
ガリオンは、勇隼隊・隊長の紋章が取り付けられた『聖騎士の装束』に身を包んでいるため、顔パスならぬ紋章パスで聖地サンクホフトの3つの門を通過した。
聖騎士団本部はサンクホフトの南西のエリアにある。ガリオンは本部の前で馬を留め、息を切らしながら駆け足で中に入って行った。
「おぉ? ガリオン。どうした? ドワーフの谷に行ったんじゃなかったのか?」
目の前には、元気に歩いている団長のゲオルクが居た。
「な……⁉ ゲオルクさん⁉ 倒れたはずじゃ……」
ガリオンは「ハッ‼」とした。
「……クソッ! 罠か⁉ だ、騙されたってのか……? しかし、一体誰が……」
ガリオンは疲労もあって蒼褪めながら、眉間に皺を寄せ、歯軋りをした。
ゲオルクはキョトンとしている。
「おいおい……、一体どうしたと言うのだ? そんな恐い顔をして……」
「……い、いや、すみません! 俺は急いで戻ります‼」
ガリオンは身を翻して急ぎ聖騎士団本部を出て行った。そこに、魔法部隊の天鴞隊・隊長のイグナーツが、副隊長のサビオを引き連れて歩いて来た。
「おや、ガリオンさんじゃないですか。丁度良かった。良いワインが入ったんですよ。どうですか1本――」
「すまんっ! 急いでいるっ‼」
ガリオンは駆け足でその場を去り、再び愛馬のドレイクに騎乗して駆け出した。
「ククッ……あんなに急いでどうしたんでしょうか……」
サビオが含みを持つように嗤った。
◇ ◇ ◇
ドワーフの谷では、崩落した岩の片付けが、あらかた終わった。
主にジゼルが圧縮して片付けていったが、力のあるロコやグライフは、1つ1つの岩程度なら直接持ち上げる事ができたので、安全を確認して別の場所に移動させていった。
岩塊が崩落した場所には、ドス黒い液状の塊が幾つか点在していた。人がぺちゃんこに圧し潰された痕だ。よく見れば割れた兜や毛の塊が見える。
ジゼルは再び嘔吐しそうになったが、ハンナが背中をさすりながら低級回復魔法『ピセラ』をかけてくれた。本来、傷を回復する魔法だが、多少は吐き気や気持ち悪さを軽減する効果もある。ハンナは自分自身にも回復魔法をかけていた。
犠牲者の数はドワーフが15~20人ほどいたが、遺体がぐちゃぐちゃに混在して、点呼もできておらず、正確な数を把握できなかった。谷底に落ちて流された者もいたかも知れないし、火竜に焼き殺された者もいた可能性がある。
聖騎士団は点呼できたため、正確に把握できた。犠牲者は6名だ。ハーディーがよく知る人物では〈ディナード〉が犠牲となり、中には銅星級の聖騎士もいた。
不幸中の幸いにもマイルズは助かったが、粉砕して潰れた脚は回復魔法でも元に戻りそうになく、切断する事になった。この世界にも義足が存在するが、先の事はわからない。今は回復に専念するしかないだろう。
マイルズはしばらくドワーフの谷に滞在した後、一足先に聖地サンクホフトへ搬送される運びとなった。
* * *
広場の中央の地面にブロックルが坐し、斧やハンマーを構えたドワーフ達が取り囲んでいる。ドワーフ達は今にも飛びかかりそうなほど、怒りの形相だ。
その場に、意識を取り戻したドワーフの谷の首長・ダールが現れた。
ハーディーやロジェリオを中心に、聖騎士団も周囲に集まり、様子を見る事にした。
眉間に皺を寄せて苛立った様子のダールが、杖を突いて前に出た。
「……ブロックル……自分が何をしたのかわかっておるの?」
「あぁ……当然だ……。謝ったとて済まないという事は、わかっている……」
ブロックルは蒼褪めながら汗をかき、下を向いている。
「死刑じゃ! 死を持って償ってもらうしかないぞ⁉」
「そうじゃそうじゃ! 許されない愚行じゃ‼ この……愚か者が‼」
ドワーフの1人が「ペッ」と唾を吐いた。
「ワシの息子を返せ‼ 返してくれ‼」
ドワーフ達は次々と怒りの言葉を並べ、ブロックルを罵倒した。
見かねたミロが前に出た。
「……ま、待って下さいっ‼ か、彼は……、ブロックルさんは! 悪気があってやったわけじゃないんですよ⁉ む、むしろ、皆さんを護るためにした事じゃあないですか⁉」
「……こ、小童が、何を言う⁉ これほどの大損害を与えておいて……お主らの仲間も、其奴の攻撃の被害に遭うたではないか⁉」
斧を構えたドワーフの1人・ビョルンがミロに詰め寄り、反論した。ドワーフは小柄なため、下から睨みつけるようにミロを見上げている。ミロも負けじと反論する。
「……た、確かに……、聖騎士団の仲間にも被害者が出ました……。し、しかし……、げ、現に、あの巨大な火竜をやっつけてくれたじゃないですか⁉ そもそもあの火竜の攻撃を喰らっていたら、もっと多くの犠牲者が出たかも知れないんですよ⁉」
ミロも、ブロックルの『電磁砲』の一撃が、親友のマイルズが両脚を失った事と仲間のディナード達が亡くなった原因である事は理解していたが、ブロックルが大型の火竜・ライネックの攻撃から聖騎士団とドワーフ達を護るために『電磁砲』を発射するまでの様子を見ていたからこそ、彼の理解者になれるのは〈自分だけ〉だと感じていた。
だがドワーフ達にとっては、ブロックルの『電磁砲』の一撃で南の崖が崩落し、多くの犠牲者が出たという事が事実で、怒りをぶつけずにはいられなかった。
「……う、うるさいうるさいっ! 余所者が出しゃばるなぁっ‼」
ミロに詰め寄ったドワーフのビョルンが食って掛かり、斧を振りかぶる素振りを見せながらも、ブルブルと身体を震わせている。ただの脅しだ。
「ちょ、ちょっとちょっと……⁉ と、止めなくて大丈夫ですか⁉」
その様子を見て慌てたハンナが、ジゼルの腕を引っ張るも、ジゼルは首を振って動かなかった。ハーディー、グライフ、ロコ、ロジェリオ、キーラ達は緊張感を持ちながらも、冷静に落ち着いてその様子を見ている。
「……そ、そもそも……、皆さんが使われていた『雷撃のクロスボウ』だって、ブロックルさんの発明じゃあないんですか⁉ ……あ、あの武器で、今までどれほど助けられてきたのでしょうか⁉」
ミロは脅しに屈せず、引かなかった。
「……‼ そ、そんな事はわかっておる! 皆、百も承知じゃ!」
ビョルンは首を振り、認めたくない気持ちと理解する気持ちとで葛藤した。
「それまでじゃ‼」
首長のダールが前に出た。
「……確かに、このドワーフの谷は、ブロックルの数々の発明に散々助けられてきた。じゃが、今回の件は重く受け止めなければならない! ……よって、2日以内にこの谷から立ち去れぃっ! もし戻って来たら、その時は命をもって償ってもらう……!」
ダールの言葉に納得し、ビョルンも振り上げた斧を下げ、トボトボと元の位置に戻って行った。
ブロックルは涙を流し、土下座して頭を地面に擦り付けた。
「……本当に……、すまなかった……‼ 許してくれ……!」
ミロはその様子を見て、目を潤ませながら「皆を護るための行動で〈断罪〉されるなんて……、なんて〈理不尽な事〉なんだろう……」と、心の内で呟き、泣いた。
ロコは落ち着いてその様子を見ていたが、舎弟でもあり友人でもあったディナードの〈死〉はブロックルの責任だと考えていたため、ブロックルに怒りを感じていた。
「……俺は、ドワーフ達と同じ気持ちだ。奴を許す事はできない……」
ロコ自身も崩落に巻き込まれたが、同時に火竜の攻撃から護られたのも事実であり、複雑な感情が入り乱れていた。しかし、許せない気持ちの方が大きかった。
「……オレも、マイルズの事があるから……認めたくはない……。ど、どうしてミロは親友があんな目に遭ったってのに庇いやがるんだよ……」
ジゼルにもミロがブロックルを擁護する事が理解できず、眉間に皺を寄せて睨みつけ、唇を噛んだ。
ブロックルの行動を目の前で見た人間と見ていない人間では、こうも印象が異なる。
当事者とそれ以外の人々の認識の差は中々埋められないものだ。残念ながら、ブロックルに対してはミロのように擁護に回る人間の方が圧倒的に少ない結果となった。
* * *
その日の夜、ガリオンは愛馬のドレイクを飛ばし、ドワーフの谷に舞い戻って来た。
起きてしまった現実を知り、驚きと後悔でガリオンはよろめいた。
「……な、何て事だ……俺が、俺が騙されなければ……‼」
ガリオンは自分自身に落胆し、肩を落とした。
* * *
聖騎士団はしばらくの間、火竜の再襲撃に備え、厳戒態勢を敷く事にした。
しかし、あれから火竜の襲撃は一度もなかった。
ブロックルの『電磁砲』の一撃は、それほどのインパクトを与えた。
結果として、ドワーフの谷には平和が訪れた。
手先が器用なドワーフ達は、発明者のブロックル不在でも『雷撃のクロスボウ』を再び製造し、幾つも配備した。以前より数を増やし、さらに強度を増していた。
ただし、ブロックルの試作品である『電磁砲』の製造方法を知る者は、他に誰もいなかった。
いや、仮に知っていたとしても、あの恐ろしい大砲を開発しようとはしないだろうし、首長のダールが許可を出さないだろう。
2日後、ブロックルがドワーフの谷を立ち去る時が来た。
圧縮魔法で手荷物を圧縮し、背負子に背負えるだけの大量の荷物を括り付け、自分自身より二回りほど大きな荷物を背負ってブロックルはドワーフの谷を出る。
仲間であったはずのドワーフ達の見送りはなかったが、北の崖でブロックルに助けられたミロを中心とした数名の見習い聖騎士とハーディーがブロックルを見送る事にした。
ハーディーもマイルズの一件で複雑な感情が入り乱れていたが、ミロに諭され、転落した自分自身を助けてくれたメンバーの1人でもあったため、理解を示した。
ブロックルは数百m進んで岩場の先で見えなくなる直前に振り向き、ミロに向かって手を振った。彼はミロに感謝していた。ミロもゆっくりと手を振り返した。
「……ブロックルさん……お元気で……」
ハーディーがミロの肩に手を置き、「……あの人も大変だったな……」と呟いた。
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次回:2025年05月04日 17時20分
EP.23 人攫い(ある少女の物語①)




