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プロローグ 聖騎士団と盗賊団

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 ――エリシウム大陸・北東のエスケルダ地方。雄大な山々が霞に浮かび、緑豊かな森が風に揺れ、清澄な川が大地を潤す。


 〈ハーディー・スカイブレイド〉率いる聖騎士団は、グラハム王国への援軍として向かう道中、シンカ村が「魔物に襲撃されている」との一報を受けた。


 赤瓦と白壁の家が建ち並ぶ美しい村が、危機に直面していた。隊長のハーディーは隊を分け、少数精鋭を率いて救援に向かった。


    *    *    *


 俺達、聖騎士団がシンカ村に到着すると、村の至る場所から黒煙が上がっていた。


 遠視魔法アクイラ・オクルスで数十m先の赤瓦の屋根の上に複数の人間を確認すると、1人だけ高級な銀色と藍色の鎧装束を身に着けている。かつての仲間で元聖騎士の〈グライフ・ヴァロアクレスト〉が盗賊と共に村の様子を窺っていた。


「……ま、まさか、グライフか⁉ テメェ、そこまで堕ちたかッ⁉」


 即座に突撃し、無詠唱で俊敏ヴァロア・魔法ソーマを自分自身にかけた。朧げな白い光に包まれ、体重が6~7割ほどの身軽さになる。


 一気に屋根の高さまで跳躍し、グライフに斬りかかった。


 ガギィンッ‼


 俺の長剣『鶻影こつえい』と、グライフの『聖大剣:クラウ・ソラス』が激しくぶつかり、火花を散らした。


「何ィッ⁉ 何でテメェら聖騎士団が、ここに居るッ⁉ ハーディー‼」


 現役の聖騎士である俺達と元聖騎士のグライフは、思わぬ邂逅を果たした形だ。


 俺達は、グライフが聖騎士団脱退後に蛇の盗賊団サーペントに成り下がったという情報を掴んでいた。いや、元の鞘に収まっただけか。


「お前ら、手ェ出すなよっ‼」


 グライフが叫び、盗賊達は散開して遠巻きに様子を窺っている。


 ガンッ! キィンッ! ガギィンッ‼


 俺とグライフの剣が激しくぶつかり合う。


 俊敏魔法で身軽なままでは攻撃が軽くなるため、攻撃時は強化フォルサ・魔法ソーマに素早くスイッチ(切り替え)し、回避時には俊敏魔法にスイッチ。状況に応じて適切な判断力が必要だ。


「テメェら、いい加減にしろっ‼」


 口が悪くも美しい女聖騎士〈ジゼル・エルディング〉が、短いロッドを携えて俺とグライフの間に割って入ってきた。俺達は瞬時に攻撃を止めた。


 ドンッ‼ 彼女お得意の圧縮魔法コンプレッサオで縮めていたロッドが瞬時に圧縮解除され、爆発的速度で5m以上に伸びた。


 バゴォンッ‼


 俺とグライフは逆方向に弾き飛ばされ、別の家の屋根までぶっ飛んで激突した。


「いっ……つぅ~‼」


 俺は上半身を起こして呻った。


「ハーディー! あんた、後先考えなさ過ぎっ‼ 隊長なんだから落ち着けよ!」


 ジゼルが強い口調で叫んだ。


 胸当てをしていたが、強烈な衝撃を受け、鳩尾を押さえて立ち上がった。


「確かに……」と、反省した。


 グライフも反対側の屋根にぶっ飛ばされ、起き上がった。


 次の瞬間――ドゥンッ‼


 轟音と共に突如現れた地竜ちりゅうが大地を突き破って天に昇り、瞬時に高く跳び上がったグライフを咬み潰そうとした。


 地竜は翼が無く土竜のような爪を持ち、茶褐色のゴツゴツした体表で、竜とサンドワームを併せたような推定レベル280の怪物。


 魔物とは、こいつらの事だった。


 グライフは避けるどころか、逆に魔力を発して自ら地竜の口腔に突撃した。


 バウッ!

 光属性を得意とするグライフの後方には、光の粒子が軌跡となって残った。


 それを目の当たりにしたジゼルが「グライフッ⁉」と叫んだ。


 ヴォッ! ズザァンッ‼


 爆発音を伴った斬撃音が轟き、グライフは地竜の腹を裂いて血塗れで現れ、『聖大剣:クラウ・ソラス』を振るって血を払い飛ばした。


 ズズーンッ……腹を裂かれた地竜は力なく倒れ、絶命した。


 グライフは一見血塗れに見えたが、魔霊気まれいきによって防護され、血はわずかに浮かんだ状態で付着していなかった。


「ピュリフィカトル!」


 グライフは浄化魔法を発動し、地竜の血が光の粒となり除去された。浄化魔法は不浄な穢れを払い飛ばす効果がある。


 俺は蛇の盗賊団サーペントを見た瞬間、魔物を使役したと誤解した。後で謝罪するつもりだ。


 ドゥンッ‼ さらにもう1体の地竜が現れ、上空に〈飛び〉上がった俺を狙って天に向かって身体を伸ばしてきた。


 ブゥンッ! という音が響き、俺の両膝から下は、螺旋を描くようにフワッとした柔らかい光の旋風で包まれた。そして空中で「シュンッ!」と、地竜の攻撃を難なく躱した。




 ――グライフは悔しさと称賛する気持ちが入り乱れた複雑な表情で目を輝かせた。


「あれは、有翼のアンクレットの力か⁉ もう使い熟してやがるとは……‼」




 俺は『魔神器:有翼のアンクレット』をブーツの下に装着している。


 それにより、浮遊して空を自由に飛翔できる能力を手に入れた。


 ブウゥゥゥゥゥン……と、有翼のアンクレットが微かに音を響かせた。起動すると光を放ち、ブーツ越しにも透過して見える。


 今の俺は二刀流だ。両手に持つ湾曲した長剣『鶻影こつえい』と『鷹鸇ようせん』を交差するように構え、魔霊気を籠めて刃を研ぎ澄ますように強化した。


 地竜が再び俺に襲いかかろうと天に向かって身体を伸ばした。


「行っくぜぇえぇ―っ‼」


 ボンッ‼ ズザザザザザンッ‼


 飛翔した俺は爆発的に加速し、螺旋軌道で地竜の周囲を回り天から地へと降り立ち、天に伸びた地竜を螺旋状に斬り刻んでやった。

 必殺の『ファルコン・スパイラル・スラッシュ』だ。技名は叫ばないけど。


 ズズーンッ……斬り刻まれた地竜は、轟音を響かせて倒れた。


 俺はそれを見届け、地面に片膝を突いた。


 魔神器の使用は、肉体への負荷がデカい。


「ハァッ……ハァッ……」


「大丈夫か⁉ ハーディー‼」


 ジゼルが駆け寄ってきた。


「……あぁ。まだ魔神器こいつに身体が慣れてないだけだ……」


 俺は2本の長剣を鞘に納めた。


「ハーディー隊長~っ‼ ご無事ですか⁉」


 15歳の回復術師ミーニャも駆け付けてくれた。


「回復魔法かけます! エレメ・ピセラ‼」


 中級回復魔法の薄緑色の光に包まれ、小さな傷が消えていく。だが、俺の主なダメージは魔神器による負荷で、回復魔法が効き難く、気休め程度だった。


「サンキュー! ミーニャ」


 俺が立ち上がってミーニャの頭を撫でると彼女は満面の笑顔を見せてくれたが、ジゼルの冷めた視線が刺さり、気まずくなった。


 グライフが近付いてきて視線が交錯した。


「グライフ……さっきは誤解して悪かった……だが、何故お前がここに居る?」


「それはこっちの台詞だ。お前ら、こんな所でモタモタしてる場合か? グラハム王国への援軍に行くはずだろうが」


「あぁ、だが通りかかった村が襲われてるのを見過ごせるほど任務最優先の自動人形じゃねぇし、半数以上は先に行かせた」


 俺はそう答え、再び問い質した。


「改めて聞くが、何故ここに居る?」


「魔物がこの村を襲う事を仲間の占い師が予言した。それで即座に駆けつけたんだ」


「噂の透視能力者か……」


「俺達は世間では義賊と呼ばれてるが、王国の戦争に加勢できる身分じゃねぇしな……」


 確かに以前は義賊と呼ばれていたが、それは彼らが月の盗賊団クレセントと名乗っていた頃の話。月から蛇に名を改めてからは、悪い評判が増えていた。彼は悪評が立つような活動に参加していないのか、既に義賊とは思われていない事を認めたくないようだ。


 続いて、俺が説明する番だ。


「こっちは18人の少数精鋭だ。既に30人は先に向かわせた。この場は手早く片付け、すぐに俺達も向かうつもりだ」


 仲間の聖騎士が周りに集まっていた。


 全員、純白に金の装飾を施した聖騎士の装束と甲冑を身に纏っている。


 蛇の盗賊団サーペントは十数名ほどいて、顔を布で隠し、遠巻きに様子を見ていた。


 俺は振り向き、聖騎士団に指示を出した。


「さらに半数に分けるぞ! 俺の銀隼隊とジゼルの紫電隊は先にグラハム王国に向かう! 残った者に後の処理を任せる! ミロ!」


「ハッ!」


「ミロ、お前の隊に戦後処理を任せるが、良いな?」


「ハッ! 承知しました!」


 グライフはその様子を見てニヤリと笑い、ミロは引き際にグライフにウインクをした。


 彼らも旧知の仲だ。


 聖騎士団は幾つかの小隊に分かれており、ミロも小隊の隊長だ。


「ティムとヴィック! 避難した村民の様子を見てくれ!」


 ミロに呼ばれた2人の若者は「はいっ!」と返事し、広場に走って行った。


「……見違えたな」


 グライフは俺とジゼルを交互に見た。


 ジゼルは、日焼けしたボーイッシュな娘から色白の美女に変わっていた。


 俺は見た目より立場が変わり、今や聖騎士団の主力である勇隼隊・隊長だ。


「髪形と服装以外はそんなに変わってねぇな……グライフ」


 ジゼルは見た目に反して荒々しい話し方だ。


「ははっ……相変わらずだな」


「えっ? な、何がっ⁉」


 グライフは笑い、ジゼルは顔を紅潮させていた。




 ドゥッ!


 その時、突然、俺達は禍々しい魔力の波動を感じた。




 ドォンッ‼ バグンッ‼


 突如、轟音と咬み砕くような音が響き、何かが吐き出されて風を切り、地面に落ちた。


 ドッ、ボトッ……


 それは、ティムとヴィックの肉体の一部だった。


「うわぁああああぁぁ‼」


 聖騎士達が悲鳴を上げ、周囲には肉片が落ちている。俺達は目を見開き、息を呑んだ。


 ドッゴォーーーンッ‼


 地面を割り、大型の地竜が現れた。


 先程の音は砂地に隠れた地竜こいつが地面から飛び出してティムとヴィックを咬み砕き、吐き出した音だった。ドラゴン系は強い個体ほど知能が高く、狡猾で厄介だ。


 大型の地竜が放つ圧倒的な魔力の波動でビリビリと空気が震え、周囲の者は恐怖で立ちすくんだ。


「……野郎‼ 化け物が‼ ぶっ殺す‼」


 誰よりも真っ先に、ジゼルが突撃した。


 グライフが「おいっ、ジゼルっ! 無茶だっ! 止まれっ!」と、制止した。




 経験豊富な聖騎士は相手のレベルがある程度わかる。大型の地竜はレベル380以上。


 俺やグライフでも倒すのが難しい相手だ。


 ジゼルのレベルは317。本来無謀な突撃だが、彼女は特殊能力で圧倒的な攻撃力を発揮できる。俺はそれを理解していたため、彼女を止める必要はなかった。


 バチバチッ……と、ジゼルの足下から電撃が迸る。


「エレクトロ……反動ッ‼」


 バチバチッ! ヴォンッ‼ ヒュンッ!


 ジゼルは電磁魔法エレクトロを発動し、足と地面にプラス磁力を与え、反発力で空高く跳躍した。


 さらに拡縮魔法マススハールを発動した。掌と剣の柄の間にバチバチッと電気が発生し、装備する『巨像の剛剣』が「ギュンッ‼」と10m以上に伸びた。

 彼女は電磁魔法の磁気浮上効果で、ほぼ重さを感じずに巨大な剣を振り回す事ができる。剛剣を振り抜く速度は、軽いナイフのように速い。

 手元で振り抜く速度が角速度なら、剣の切っ先の速度は周速度だ。切っ先の周速度は、刃が長いほど高速になる。


「喰らえ……! 『巨人殺ギガント・スレイヤーしの剣』‼」


 空高く跳躍したジゼルは、大型の地竜に渾身の力で『巨像の剛剣』を振り下ろす。その切っ先の速度は、音速の数倍に達した――




 ボッ‼ ズザザザザァンッッ‼




 空気を切り裂く衝撃音が轟き、瞬く間に高レベルの地竜を一刀両断にした。


 ブシュウゥゥゥゥッ‼


 裂かれた地竜が血の雨を降らせた。


 圧倒的な速度と質量による物理的エネルギーは、高レベルな相手の強靭な魔霊気をも貫通する。これが彼女の強さだ。しかし、彼女は防御魔法には難があった。猛毒の可能性がある魔物の血を浴びるのは危険だ。


「アミナ・エスクード‼」


「ピュリフィカトル!」


 仲間の聖騎士達が、ハニカム構造で湾曲した〈青紫色に光り輝く魔法の盾〉を展開し、浄化魔法で血飛沫を消し飛ばした。




 ――ジゼルは圧縮魔法系と電磁魔法の2種類のみを得意とする。彼女が装備する『巨像の剛剣』は元々ドワーフ王国の巨像の約12m・約20tの剣。圧縮魔法で持てる大きさに圧縮し約1tに軽量化、電磁の鞘に納め、浮かせて持ち歩く事ができる。刀身を伸ばすと5~6tまで戻るが、電磁魔法で掌からわずかに磁気浮上させ、ほぼ重さを感じずに振り回す事が可能。柄の太さは扱えるサイズを維持できる。




 俺はティムとヴィックの犠牲に狼狽し、地面に伏せて拳を叩きつけた。


「あぁあぁ……ち、チクショウ……‼ ま、また犠牲者が……‼ クソォオオォォォ‼」


 おそらく絶望的な表情をしていたはずだ。


「くっ! 2人に指示したのは僕だ‼」


 ミロも涙目で悔やんだ。


 ジゼルが『巨像の剛剣』を圧縮して電磁の鞘に納め、近付いて来た。


「おい、隊長が狼狽えるんじゃねぇよっ‼」


「…………‼」


「ジ、ジゼルさん、ハーディー隊長を責めないで下さいよぉ……」


 ミーニャが庇ってくれたが、ジゼルは余計にイラついて「ピキッ」とキテる。


 俺は怒鳴られた事で冷静さを取り戻した。


 取り乱したが、精神を安定させる術を持ち合わせていた。


「わ、わりぃ……落ち着いたよ。ティムとヴィックを埋葬したらグラハム王国に向かう」


 グライフに「ゴッ」と軽く胸を小突かれた。


「おい、隊長よ……甘さは捨てろ‼」


「言われなくても……‼」


 俺は喉の奥から絞り出すように返した。


 グライフがミロに歩み寄る。


「悔やむな。悪いのは魔物……いや、もし使役した奴らがいるなら、そいつらだ……‼」


 グライフは語尾を強め、ミロは涙目で頷いた。


    *    *    *


 俺達はティムとヴィックを埋葬し、簡素な葬儀を済ませて花を供え、冥福を祈った。 


 グライフが歩み寄ってきた。


「村に現れた魔物の調査は俺達に任せろ。お前らはさっさとグラハム王国に行け」


「すまん。またお前に頼る事になるとは……」


 ミロが不安そうな表情で近付いて来た。


「ハー……あっ、隊長。僕達だけだとちょっと不安が……また地竜が現れたら……」


 グライフが割って入ってきた。


「それに関しては大丈夫だ。俺の仲間が索敵して、さっきの1体が最後だと言っていた」


「で、でも……ちょっと不安が……」


「蛇の盗賊団サーペントもここに残って調査しよう。邪魔じゃなければ協力するが、どうだ?」


「そ、それは助かるよ‼ ありがとう‼」


「フッ……最初からそのつもりだったから、気にするな……」


 グライフは目を閉じて微笑んだ。


「そ、それにしても、どうしてこんな場所に急に地竜が何体も現れたんだろう?」


 ミロは疑問を口にした。


「俺達が追っている地下組織ヴァルドルが関係しているかも知れん……」


 そう言って、グライフは遠い目をした。


 そして俺達は出立する準備を整え、改めて号令を発した。


「聖騎士団! グラハム王国に向かうぞ‼」


 聖騎士達は拳を突き上げ、「おぉーっ!」と鬨の声を上げた。


    *    *    *


 ――こうして、ハーディー率いる聖騎士団は再びグラハム王国を目指して出立した。


 物語は、彼らの若かりし日に遡る――

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