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EP.13 空中訓練②

妄想主題歌(右クリック→移動 または、コピペでお願いします)

https://youtu.be/OahpETEBXxc


 サポート付きの2回目の体験も終え、もうひと休憩した後、遂に3回目の本番の時間となった。約30名の見習い聖騎士全員が3回目とは言え、1人で初めて飛ぶ事に戦々恐々としている。


「いいか。全員、2回まで失敗できるチャンスがあり、成功する限り、最大5回までチャレンジができる。評点は成功回数と、計測タイムだ」


 ロジェリオがそう説明した。


 飛ぶ順番は大枠で3組に分けられていて、普段の評点が最も高い者が最後となる。


 つまり現状、最も評点が高いのは最後に飛んだグライフだ。続いてハーディー、ジゼル、ロコ、マイルズ、ミロと続き、数名挟んでディナード、さらに数名挟んでソボルだ。


 ソボルはディナードよりレベルが高かったが、度胸の無さや性格の卑屈さで評点が低かった。そのため、第1組に入っている。ミロは第2組の筆頭で、マイルズ以上のベスト5が第3組だ。




 3人目まで飛び終わり、全員が失敗で終わった。4人目にソボルの番だ。


「ひぃいいぃぃぃぃぃ……」


「もう3回目だぞ。いい加減に慣れろ」


「……む、無茶を言わないで下さいよぉ~……」


 ロジェリオの発言にソボルは反論した。ソボルが立ちすくんで、2分ほど経過した。


「よ~し、飛び降りるまではサポートしてやる」


 ガリオンがソボルの首根っこを掴んだ。


「ちょちょちょちょっ! ま、まだ心の準備が! 心のじゅん……」


 ガリオンは有無を言わさず、崖っぷちで投げるように手を離した。


「ギャアァアアアアアアアア~ッ‼」


 ソボルの叫び声が遠のく。


 突然、「ボンッ!」と、崖の下で、衝撃音が発生し、轟いた。


 なんとソボルが勢いよく上昇し、次のクッションに向かって飛んで行った。魔法が得意なソボルは、衝撃魔法『パイネ・アールト』を放って強力な反発力を発生させたのだ。


 ボンッ! ボンッ! 


 上に飛び乗るクッションまでは順調に進んで行く。覚悟を決めたソボルの顔は、真剣そのものだった。次はジグザグエリア。側面にあるクッションをタイミング良く蹴らなければいけない。そこでもソボルは衝撃魔法を放った。


 ボゥンッ‼ バイーンッ!


 しかし、威力の調整が難しかったようだ。威力が強過ぎて、逆に次に着地すべき空気のクッションを超え、山腹の崖面にぶつかる勢いで飛んで行ってしまった。


「マズいッ!」


 ブゥンッ! ゴゥッ‼


 ガリオンが『魔神器:有翼のアンクレット』を起動させ、空中に浮かび上がって一気に飛んで行き、ソボルを空中でキャッチした。


「ひえぇえええええ……あぅ……ありがとうございますぅ……」


「あ、危なかったな……しかし、やればできるじゃねぇか!」


 ガリオンはソボルの身体を支えながらゆっくりと元の場所に着地した。


 ソボルが戻ると、「良かったぞ!」と少なからず歓声が上がり、拍手が起きた。


 続いて数名が挑戦し、全員失敗。序盤の上に飛び乗るエリアで失敗する者も少なからずいたが、やはりジグザグエリアが難所で、多くの者がそこで転落してしまった。


 ディナードとミロも、そこで失敗してしまった。


「うわぁあああああああああああああ‼」


 そして、マイルズの悲鳴が響き渡った。ジグザグエリアで失敗すると、数十m一気に転落してしまう。実は、転落中の空中にも幾つかクッションが配置されており、風属性の魔法等を上手く使い熟せば、それらのクッションを使って元のルートに戻れる術もあるのだが、まだそれができる者はいなかった。


 続いてロコの番だ。ロコは覚悟を決めた真剣な眼差しだ。上に飛び乗るエリアは、何とかクリアする事ができた。続いてジグザグエリアだが、案の定、ロコは転落していった。しかし偶然なのか、転落中に配置されたクッションを発見したロコは、拘束魔法『コンストレイン』を発動して、空気のクッションにぶら下がる事ができた。


「ほぅ……その方法を見つけたか……」


 ガリオンが感心するように呟いた。


 ロコは焦らず、拘束魔法を使いながら空気のクッションをよじ登り、ジグザグエリアの真下のクッションに到達した。


 スピーディーに反動を利用して進むだけがクリアの方法ではなかったのだ。


 そこからジャンプしてジグザグエリアに戻れば、チャンスは残っている。


 しかしロコのような大柄なタイプだと、素早く勢いをつけるのは難しいだろう。


 ここでも焦らず、ロコはジグザグエリアのクッションも拘束魔法で掴んで、ぶら下がりながら進む事にした。まさに雲を掴むような状態で、雲の梯子=雲梯という遊具にぶら下がっている状態に近い。


 しかし今度は腕力が限界に来てしまった。腕と肩の疲れと痛みが拘束魔法の維持にも影響し、拘束が外れて転落し、真下の大きなクッションに包み込まれた。失敗だ。


 断崖の中腹に待機している天鴞隊の隊員が、空気のクッションを動かしてロコを崖まで誘導し、そこから梯子を使って山道に戻る事ができる。


 戻って来たロコは疲弊していて、ガクッと肩を落とし、深く息をついた。


「惜しかったぞ」


 珍しくグライフが慰めの言葉をかけた。


 自分が認めているグライフにそう言われ、ロコは少しだけ気分が晴れた。


 続いてジゼルの番だ。


 ジゼルは腕を反対側の腕で抑えるストレッチをしながら、一歩前に出た。


「おっしゃ~! 最初の成功者になってやる……‼ お前ら、オレの活躍を目に焼き付けとけよ⁉」


 こんな口調だが、これでもジゼルはきちんとした格好をすれば美しい女性だ。


 ジゼルには考えがあった。自分が得意な電磁魔法『エレクトロ』を利用すれば、吸着と反発を繰り返し発生させ、飛び回る事ができるのではないかと。


 通常、空中に電磁魔法を使ってもほとんど効果がない。空気は対流するし、空中=目の前に広がる空間のほぼ全てはあまりにも広過ぎるため、対象が確定しないためだ。


 だが、空気のクッションという限定された空間、確かに触れたような実感のある、風船の表面のようなモノに対しては、「電磁魔法の効力を発生させられるのでは?」と考えている。風船に対してできる事であれば、魔法で生成された空気のクッションにも使えるのではないかと考えている。


「行くぞ」


 ジゼルは猫科の動物が獲物を狙うような眼差しの真剣な表情を見せた。


 ヒュンッと、ジゼルが飛び降りた。


 この時点でサポート要員が、時計を見て、時間《タイム》の計測を始めている。


 ジゼルはまだ魔法を使わず、自らの身体能力のみで上に飛び乗るクッションのエリアをクリアした。続いて側面を蹴って移動するジグザグエリアだ。


 ここでジゼルは、電磁魔法『エレクトロ』を高速で発動させる事に成功する。


 ジゼルの電磁魔法の射程距離は長くはないが、指向性を持たせて放てば、5m程度先まで届く。つまり、自分自身が空気のクッションに着地(着空)する前に、電磁魔法の効果をジグザグエリアの空気のクッションに付与する事が可能だという事だ。


 右側のクッションに移動する際には、事前に放った電磁魔法で空気のクッションにプラスの磁力を与え、右手にマイナスの磁力を発生させて吸着効果を得る。


 これにより、ジゼルが落下する事は〈ほぼ〉無くなった。


 さらに右脚にプラスの磁力を発生させ、着地と同時に右手の磁力をキャンセルして吸着力を無くせば、クッションのプラスと右脚のプラスによる強力な反発力を発生させる事ができる。それを、ジグザグに進む際に、左右それぞれで繰り返すのだ。


 キュインッ‼ ボボボボボボンッ‼


 目にも止まらぬ雷のような速さで、ジゼルはジグザグエリアをクリアした。


 ジゼルが動いた軌道上には、雷のような軌跡が残った。


 バチッ……パチパチパチッ! ……バンッ‼


 しかし、あまりにも強力な魔力の発動で、最後のクッションが破裂してしまった。


 だが、ジゼルはそのままの勢いで最後の100mの落下に入る。


 頭を下にして加速して落下し、最後のクッションの手前でクルッと猫のように身を翻し、一気に反動で大ジャンプして、ジゼルは〈ゴール地点の浮遊岩〉に無事着地した。


「おぉおぉ~っ‼」


 女神像の見晴らし台側で歓声が沸き起こった。


 しかし、クッションを破裂させてしまったため、完全な成功ではなかった。破裂させないような魔力のコントロールも求められるため、破裂させたのは減点となってしまう。


 ガリオンはホッとした表情を見せた。


「ひとまずは、成功だな……! ……だが、残念ながら、破裂させたのは減点だ……」


「惜しかったですね……」と、ロジェリオも同調した。


 サポート要員が「タイムは16秒83です」と報告した。


 計測しているのは、ゴール地点にいるサポート要員だ。『魔撚糸』という魔力を伝播させる糸を使って、〈糸電話〉のように離れていても通信できる状態にしてある。


 しかも、本来の糸電話と異なり、ピンッと糸を直線的に張る必要がない。


「な、何っ⁉ いきなり17秒切ってきたってのか……」


 ガリオンが驚愕の声を上げた。


 ミロが、「普通はどれくらいなんですか?」と聞いた。


「例年は、速い奴でも20秒前後だ。これまでの最速はガリオンさんの13秒61……」


 ロジェリオも目を丸くして驚いている。


「おしっ‼ 次は俺の番だ……‼」


 続いてハーディーが顔をバンバンと叩きながら前に出ると、ガリオンが止める。


「おっと、その前に、先程破裂した空気のクッションを再度生成するから待ってろ」


 断崖の中腹に待機している天鴞隊の隊員が、空気のクッションを新たに生成して、上空に誘導した。その間も、ハーディーは集中力を途切れさせなかった。


 ガリオンが「よし、行って良いぞ」と、許可を出した。


 ハーディーもジゼルと同じく捕食者が獲物を狙うような眼差しの真剣な表情を見せた。


 ミロとマイルズが「ハーディー、頑張れ!」「行けっ! 絶対に成功しろよっ‼」と、声をかけた。


 ハーディーは「っしゃあ! 行くぞっ‼」と叫び、スッと飛び降りた。


 ボンッ‼


 ハーディーはソボルのように、初っ端から衝撃魔法を放って、反動を利用して跳び上がった。だが、ソボルと違ったのは、着地の直前に上空に向かっても衝撃魔法を発動した事だ。上、下、上、下と、リズミカルに衝撃魔法を放っていく。


 ボンボンボンボンボンッ‼


 上下に高速で衝撃波を放つ事によって、かなりの速さで飛び移って行く。


 続いてジグザグエリアでは、左、右、左、右と、リズミカルに衝撃魔法を放っていく。


 ボンボンボボボボボンッ‼


 ジグザグエリアでのジゼルほどではなかったが、どんどん加速して、後半はペースが上がっていく。さらに、ジグザグエリアを早めに切り上げて、落下コースに入った。


 通常、このままだと転落するが、風属性が得意なハーディーは、気流を巻き起こす旋風魔法『ヴァルテージ』で螺旋状の追い風を巻き起こし、加速した。


 謂わば、下方に向かう小さな竜巻が追い風となるようなものだ。


 キュイィーーーーーーンッ‼ と風を切る音が轟き、ハーディーは点在する浮遊岩を避け、最短ルートで飛んで行く。


 ガリオンの目には、まるでハーディーが大空を自由に飛翔しているように見え、普段は冷静なガリオンですら目を輝かせた。


「やるじゃないか……‼」


 最後の巨大な空気のクッションに沈み込んだ後、タイミングよく衝撃魔法を放ち、さらに大きな反動で空高くハイジャンプ。再び旋風魔法を巻き起こし、加速して上昇した。


 ボンッ‼ バンッ! ……ドシャッ


 ゴール地点の浮遊岩への着地の寸前に、衝撃魔法を上空に放って急加速で着地したため、弾き飛ばされて不格好な着地となってしまった。だが、着地の美しさは問われない。


「タイムは⁉」と、ハーディーがサポート要員に聞いた。


「……‼ じゅ、14秒……98です……‼」


 サポート要員は驚愕の色を隠せない。


「おっしゃーっ‼」


 ハーディーは飛び跳ねて喜んだ。


 その場で待機していたジゼルは苦虫を噛み潰したような表情で悔しがった。


「……ぐっ……チクショウ……」


 だが、そんな気持ちとは裏腹に、「でも、オレの記録を超えたのがあいつで良かった……」とホッとした気持ちもあった。


「……‼ おいおいおい……一発目でこれかよ……15秒切るとはな……」


 女神像側では、「自らの記録が抜かされるのでは?」とガリオンにも焦る気持ちが芽生えていた。同時に、ガリオンは嬉しくもあり、思わずニヤリと笑みが零れた。


「……こ、今年はエラい豊作ですね……」


 ロジェリオも興奮を隠せなかった。




 続いてグライフだ。


 前の2人が異常な速さを記録したため、グライフにも焦る気持ちがあると思われたが、彼は至極冷静に捉えていた。


「人は人……。自分は自分……。俺はただ、自分にやれる事をやるだけだ……」


 全員が固唾を飲んで見守る中、グライフは無難にこなしてクリアした。


 記録は20秒43。例年であればトップレベルだが、ジゼルとハーディーの記録と比べれば、平凡な記録となった。

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次回:2025年05月03日 20時20分

EP.14 空中訓練③

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