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Fairy song  作者: 時雨青葉
第11歩目 嘘はつけない
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二つ目の運命石

 霊子が導く先を目指すと、ライトマイトの結晶の影に小さな洞穴(ほらあな)があるのが分かった。

 どうやら、自分が行くべき場所はここだったようだ。



 洞穴の中に入ると、穴の奥から強い風が吹いてくる。

 数度呼吸をしてみたが、体が異常を訴えてくることもない。



 この風は、有毒ガスではないようだ。



 この穴の中が、運よく無害な場所なのか。

 それとも、運命石の欠片(かけら)があるからが故の影響なのか。



 真相は分からないが、ここなら少しゆっくりしても大丈夫だろう。

 そう判断したシュルクは、フィオリアの体をそっと地面に寝かせてやる。



「シュルク……ありがとね……」



 フィオリアは弱々しく微笑んだ。



「でも……ごめんなさい。私のことは置いていって。もう……上手く、息ができないの。」



 そこまで言うのが限界だったようで、フィオリアは次の瞬間、苦しげに(うめ)いた。



 彼女の雰囲気はすでに死を受け入れた、ある種穏やかなものになっている。

 しかし、シュルクはそれを見ても一切動揺しない。



「馬鹿か。お前は、俺がなんの考えもなしに無駄な喧嘩を吹っかけてたと思ってんのか?」



 ただ単純にカッとなっただけだったなら、とりあえずフィオリアを助けた後で説教をしただろう。



 先ほど彼女が危険な状況のままで乱暴な言葉を叩きつけたのは、その状況で彼女を焚きつけることで、彼女の本音を引き出したかったから。



 そして―――自分の中にはちゃんと、彼女を助けられる自信があったからだ。



「こんな時ばかりは、この体質にも感謝だな。」



 呟きながら、シュルクは首のチョーカーに手をかけた。

 それを外すと、シュルクの周囲が瞬く間に光の海となる。



「シュルク……なんか、いつもよりまぶしい。」

「そりゃ、今は霊子を呼んでるからな。」



「呼ん、でる…?」

「何か変か? 自分の意志で霊子を弾けるんだ。その逆ができないわけないだろ。」



 どんどん強くなっていく光。

 このくらい、やろうと思えば造作もないことだ。



「見せてやるよ。(めぐ)()の本当の力ってやつを。」



 堂々と宣言し、シュルクは目を閉じた。



 呼びかければその分、霊子が無尽蔵に集まってくる。



 弾こうとする時はなかなか言うことを聞いてくれないのに、こんな時は素直な霊子たちだ。



 でも、今はそれが大きな武器になる。



 脳裏にイメージを膨らませると、それに応えて霊子が活性化するのが伝わってくる。



 集まれるだけ集まればいい。

 どれだけ霊子が集まったって、今はその全てを従わせてやる。



「霊子凝集。詠唱開始。」



 ゆっくりと、一音一音に想いを込める。



「召喚、第十霊神。」



 頭の中で作り上げた形を霊子に伝えるように意識を集中させ、シュルクは手を掲げた。



「出でよ《癒しの詩人 リーラエーラ》」



 霊子が勢いよく、シュルクの手のひらに凝縮していく。



 まぶしかった光が徐々に収まっていき、周囲に本来の薄暗さが戻ってきた頃、シュルクの手のひらの上には小さな少女がちょこんと座っていた。



 涼やかな空色の瞳ときらめく金色の髪が印象的な少女は、シュルクに対して可愛らしく小首を傾げて微笑むと、シュルクの手から離れてフィオリアの傍へと飛んでいった。



 少女はフィオリアの額を(いたわ)るようになでると、優しげな笑みで目を閉じて息を吸う。



 洞穴(ほらあな)の中に響くのは、美しい歌声。



 高すぎるわけでも低すぎるわけでもない声は、柔らかく鼓膜の向こうへと浸透していく。



 フィオリアの表情が(やわ)らいでいくのを見て、シュルクもほっとして肩の力を抜いた。



 なんだか、この声を聞いていると無性に懐かしい気持ちになる。

 母の子守歌を聞きながら眠るような、温かくて安心できる心地。



 自分の中で渦巻いていた悩みも葛藤(かっとう)も、全てが浄化されて消えていくような―――



 歌い終えた少女は、穏やかなフィオリアを見て嬉しそうに目を細めた。



 ゆっくりとフィオリアから離れた少女は再びシュルクの元へと戻り、シュルクの額に軽くキスをした後にその場から消えていった。



「大丈夫か?」

「……う、うん。」



 手を貸して体を起こしてやると、フィオリアはしばらく、信じられないという様子で手を握ったり開いたりしていた。



「どうした? どっかおかしいのか?」



 少し気になったので訊ねると、フィオリアはゆるゆると首を振った。



「違うの。むしろ、今までで一番体調がよくなってるっていうか……」

「なんだ、そんなことか。」



 シュルクは肩をすくめる。



「リーラエーラが、毒だけじゃなくて日頃の疲れも癒していっただけだろ。」



 冷静にそう言ったシュルクに対し、フィオリアはどこか焦ったようにおろおろとする。



「シュルク…。しれっと言ってるけど、自分がどれだけすごいことしたか分かってるの? 第十霊神なんて召喚できる人、今はいないんだよ?」



「それが(めぐ)()ってことなんだろ。俺にはむしろ、このくらいがちょうどいい。」



 何故か慌てるフィオリアの頭をぽんと叩き、シュルクは立ち上がって洞穴(ほらあな)の奥へと向かった。



 ひとまず、フィオリアが無事に回復したようでよかった。

 これで心置きなく、本来の目的に目を向けられる。



「……なるほどな。」



 洞穴(ほらあな)の奥で歩みを止めたシュルクは、ある一点を見つめてそう呟いた。



 そこには外と同じように、岩壁一面にライトマイトの結晶が張りついていた。



 シュルクはその中でも一際大きな結晶に手を伸ばし、力を込める。



 すると、ルーウェルが工具を使って採取していたはずのライトマイトは、まるで細い木の枝のように簡単に折れた。



「シュルク?」



 動かなくなったシュルクを(いぶか)しんだフィオリアが、そっと声をかける。

 それに振り向いたシュルクは、手に持っていたものを彼女へと差し出した。



「―――二つ目。」



 それを見たフィオリアは、言葉を失う。



 シュルクの手に収まるライトマイトは、外にあるものとは明らかに違う特徴を持っていた。



 まるで血のように鮮やかな赤い色をした結晶の中では、細かな粒子が星を散りばめたようにキラキラと輝いていたのだ。



 フィオリアは、壁のライトマイトとシュルクの手の中のそれを見比べてみる。



 壁のものよりも、シュルクが持っているライトマイトの方が輝きが強い。



 この粒子がシュルクに反応して輝きを増しているのならば、おそらくこれの正体は霊子なのだろう。



 そして、もっとも目を引くのは結晶の中心だ。



 そこに封じ込められていたのは、赤い色に負けずに存在している、淡い薔薇色の小さな石の欠片(かけら)



 間違いない。

 ルルーシェの運命石だ。



「ってことは、さっきシュルクが落ちかけたのって……」



「これに引き寄せられて、引っ張られたってところだろうな。夜にこっそり来るつもりだったのに、融通が()かないんだから。」



 やれやれと息をつき、シュルクは自分の胸元に手をやった。

 服の下から一つ目の運命石が入った小瓶(こびん)を取り出し、それをライトマイトに近付ける。



 すると、小瓶の中と結晶の中の欠片(かけら)が、それぞれ淡い光を発した。

 結晶の中の運命石が光の塊に変わり、徐々に小瓶の中へと移動していく。



 光が収まると、結晶の中から運命石の欠片(かけら)は消え、代わりに小瓶の中の運命石が大きくなっていた。



「よし、回収完了。これは、あいつへの土産(みやげ)にでもするか。騒ぎになる前に、さっさと帰るぞ。」



 運命石を回収したなら、もうここに用はない。



 小瓶(こびん)を服の中に戻したシュルクは、チョーカーを首に戻しながら、そそくさと出口を目指す。



 そんなシュルクに―――



「待って。」



 そう、フィオリアが声をかけた。



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