悲しい決意
(そっか……)
ヨルの言葉を聞いたフィオリアが感じたのは、なんだか空虚で凪いだ気持ちだった。
(そうだよね……)
今さらだけども、すごく納得した。
確かに、ヨルの言うとおりだ。
母があんなに憎しみに囚われているのも、シュルクがこんなに苦しそうな顔をしているのも、今自分がここにいるからなのだ。
馬鹿だ。
はっきりと言われるまで、こんな簡単なことにも気付かないなんて。
当たり前じゃないか。
自分がさっさと死んでいれば、シュルクは自分と会うこともなかった。
そうすれば彼は母の目に留まることもなく、穏やかな道を歩むことができたはず。
(あなたは、私がいない方が幸せだよね……)
フィオリアは、ヨルの隣で苦しそうで切なそうな顔をしているシュルクを見つめる。
分かるよ。
こんな時でも、あなたは私のことを心配してくれてるんだね。
ヨルに行く手を塞がれているシュルクの手が、時おりもどかしげに震えている。
なんだかんだで困っている人を放っておけない、ちょっとばかりまっすぐすぎる人。
ウィールが言ったとおりだ。
こんな自分でも、彼は心配してくれる。
そして、自分が折れそうになった時に何度も支えてくれた。
―――だからこそ、彼は自分と一緒にいるべきじゃない。
こんな風に呪いを解くために旅をするのではなく、彼の自由な気持ちの向くままに旅をした方がいい。
そして帰りたいと思った時に、いつでも故郷へ帰れた方がいい。
彼のためにも。
彼を待っている、たくさんの人々のためにも。
自分がいなくなれば。
そうすればきっと。
きっと……
(あなたは、あの時みたいに笑えるのかな…?)
ずっと頭の片隅に残っている彼の笑顔が、脳裏をかすめる。
本当は、もう一度あの優しい笑顔が見たかったけど。
それでも、自分がいなくなることで彼がまたそうやって笑えるようになるのなら。
―――私は、死ぬことなんて怖くない。
そう、心の底から思えた。
「………」
フィオリアは目を伏せる。
だんだん痺れて重くなる手足。
体が確実に死に向かっているのが分かる。
でも、不思議と今までで一番穏やかな心地だった。
フィオリアは肩から力を抜き、マフラーを押さえていた手をゆっくりと下ろした。
「おい! 馬鹿!!」
シュルクが焦る。
そんなシュルクに向けて、フィオリアはうっすらと涙を浮かべながらも、今できる精一杯の笑顔を浮かべた。
「ごめんね。最後に一つ、わがままを聞いて?」
これでお別れだと思うと、少し胸が痛む。
でも、大好きな彼と彼を愛するたくさんの人が苦しむところなんて、これ以上は見たくない。
だから……
「お願い。―――――あなたは生きて。」
揺れそうになる声を強がりで隠して、フィオリアは笑みを深めた。




