最後の問い
「お前…っ。なんで……」
シュルクは目を見開いて絶句する。
そんなシュルクに対し。
「あなたが霊子に呼ばれているというのは、本当なのですね。今落ちそうになったの、あなたの不注意じゃなかったでしょう?」
シュルクの体を支えて飛ぶヨルは、感心した風に告げた。
「ヨル……どうして…?」
茫然としたフィオリアの声。
それを聞いたシュルクは、ハッとしてそちらに目を向けた。
「馬鹿! 暢気に吸うな!!」
宙で棒立ちになっているフィオリアが口元を塞いでいないことに気付き、シュルクは大声で怒鳴る。
だが、時すでに遅く……
「あ、れ……」
羽が痺れてしまったのか、フィオリアがよろよろと穴の中へと落ちていく。
「ったく、あいつは…っ。いいか! それ以上は吸うなよ!」
「う、うん……」
ライトマイトの柱に寄りかかって体を支えるフィオリアは、シュルクの言葉に頷いてマフラーで口元を塞いだ。
「助けてくれたとこ悪いけど、さっさと離してくれ。」
ヨルから離れようと、シュルクは身をよじる。
しかし、ヨルはそれに首を横に振った。
「申し訳ありませんが、今はあなたを離すわけにはいきません。」
「はっ!?」
まさか拒否されると思っていなかったシュルクは、素っ頓狂な声をあげる。
対するヨルは、至って冷静だった。
「いい機会ではありませんか。今ならご自分で手を下さずとも、運の悪かった事故だと言い逃れることができますよ?」
「―――っ」
息を飲んだシュルクを地面に下ろし、ヨルはいっそ冷たく言い放つ。
「このままでは、誰も彼もが苦痛を味わうだけです。ご友人には少し静かにしていただきましたし、今この場ではっきりさせましょう。」
言われて視線を巡らせると、すぐそこに気絶して横たわるルーウェルの姿があった。
「しばらく、ここで黙っていてください。私は、最後にフィオリア様にお聞きしたいことがありますので。」
最後、と。
仮にも今まで仕えてきたはずのフィオリアを相手に、ヨルは躊躇いなくそう口にした。
「フィオリア様、お久しぶりです。」
彼がまず告げたのは、この危機的状況にはそぐわないほどあっさりとした挨拶だった。
「さて…。このままではあと十五分もすれば、毒が全身に回るでしょう。もちろんお助けすることはできるのですが、その前に私は、どうしてもあなたにお訊きしたいことがあるのですよ。」
ヨルはじっとフィオリアを見据え、淡々と次の言葉を述べた。
「私はあなた方の関係を聞いてから、常々疑問だったことがありました。あなたはいつも、リリア様のことを憂いておいででしたよね? この悲しみがご自分の過去に原因があることも、十分にご理解なさっていた。そんなあなたを見ていたからこそ、私にはどうしても解せなかった。」
そこで一度言葉を区切ったヨルの瞳に、ほんの少しだけ力がこもる。
「ご自分の存在が多くの方を苦しめると分かっているのに―――あなたはどうして、自らが死のうとは思わないのですか?」
「なっ…!?」
「え……」
突然の問いかけの内容に目を剥くシュルクと、表情をなくすフィオリア。
双方の反応を受けても、ヨルの口は止まらなかった。
「だってそうでしょう? あなたが早々に死を選んでいれば、リリア様はつまらないと思うかもしれませんが、それ以上は復讐なんてことを考えずに、心穏やかに過ごせたでしょう。シュルクさんだって、こんな風に命を狙われずに済んだはずです。あなたはご存知でしたか? ここ最近、ご自分の自由と引き換えにあなたを殺せとリリア様に言われて、シュルクさんがずっとお一人で苦しんでいたことを。」
「―――っ!?」
それを聞いたフィオリアの顔に、衝撃が走る。
「シュルク……本当、に…?」
「………」
どこか怯えたような目で問われ、シュルクは思わず、その目から逃げるように顔を逸らしてしまった。
「その様子だと、ご存じなかったのですね。そうでなくとも、彼はリリア様にそう言われるよりずっと前から、私と会っては話をしていたのですよ? 私が言うのもおかしいかもしれませんが、相当苦しい立場だったと思います。それでも彼が黙って私に従っていたのは、この町の人々とあなたを守るために他ならないのです。あなたはずっと、彼に守られてここまで来ています。彼の苦悩を、あなたはどこまで知っていましたか?」
「………」
「全部、あなたがいなければ起こらなかったはずの悲劇です。さて、時間もないのでうかがいましょうか。」
あくまでも平坦な口調で、ヨルは最後の言葉を投げつけた。
「誤解なく言っておくと、私は別に、あなたに死んでほしいと思っているわけではないのですよ。だから、最後はあなたの判断にお任せしましょう。」
最後の問いが、残酷にその場に響く。
「このままそこで死を待つか、手を伸ばして助かるか―――どうしますか?」




