空を切る手
「あ……」
何度もまばたきを繰り返し、シュルクは後ろを振り向く。
「いくら柵があるからって、そんなに近付いたら危ないって。ってか、オレよりも先に行くなって言ったじゃん! 気付いたらいないんだもん。ビビったんだからな!!」
「ああ、悪い……」
半ば茫然としたシュルクが呟くと、ルーウェルはほっと安堵の息を漏らしながらシュルクを離した。
その隣で。
「うわぁ、すごいね。」
フィオリアが穴の中の様子を見て、頬を紅潮させた。
「でも……なんか、他のと色が違う?」
手に持つライトマイトの欠片と穴の中の結晶を見比べて、不思議そうに首を捻るフィオリア。
「そうなんだよ。この色の違いが濃度の違いなのか、純度の違いなのか、それとも結晶化する成分の違いなのか…。調べたくても、この中は危なすぎて、さすがに入れないからさ…。……って、違う違う。」
残念そうに唸っていたルーウェルは、ふと目を見開いて首を左右に振る。
「来て早々悪いけど、すぐに下まで戻ろう。風の動きが変だ。さっき他の奴らにもそう言っといたから、後はオレらだけのはず。」
風上の方向を仰ぎ、ルーウェルは警戒心を滲ませて目を細める。
風の動きがおかしいのは、おそらくは自分がここに来た影響なのだが……
「分かった。」
シュルクはあえて、そのことを伏せて頷いた。
「もういいの?」
「ああ。見るもんは見たし、今のところは問題ない。」
訊ねてきたフィオリアに告げると、彼女は特に言い募ることはしなかった。
どうやら、今回は詳しくは言わなくとも状況を察してくれたようだ。
「よし、じゃあ急ごう。」
ルーウェルが下山しようと、元来た道へと戻る。
彼に続いたフィオリアの後ろから、自分もついていこうと一歩踏み出したシュルクだったが……
―――――違うよ。
そんな声が聞こえたような気がして。
「え……」
ぐらりと、体が後ろに傾く。
気付けば、自分の体は柵の向こう側へと放り出されていた。
「シュルク!!」
シュルクの声を聞いて振り向いたフィオリアが、顔を真っ青にして叫ぶ。
背後の出来事が予想外で理性が飛んでしまったのか、フィオリアは勢いよく地を蹴ると、自らも柵の向こうへと身を躍らせた。
「ばっ……馬鹿!」
シュルクは瞠目する。
ガスを吸ってしまう前に飛ぼうとしていたのに、こいつは何を考えているんだ。
上昇しようとはためかせていた羽の力を少し緩め、飛び込んできたフィオリアを受け止めようと体勢を整える。
しかし―――
「うわっ!?」
突然上空から吹き下ろしてきた強風に目を潰される。
それと同時に、後ろから力強く体を持ち上げられた。
「きゃっ…」
闇に染まった世界の中、自分の背後から小さな悲鳴。
伸ばした手が、空を切る―――




