フィオリア大暴走
「シュルク!!」
「おっわ!?」
突然ドアを叩き破られ、今まさにベッドに入ろうとしていたシュルクは、文字どおり飛び上がってしまった。
「へっ……ちょっ…!?」
目の前の状況がにわかには信じられず、シュルクは目を白黒させる。
一体、今が何時だと思っているんだ。
もう明け方が近くなってくる時間なんですけど?
というか、いとも簡単にドアを開けたが、そこにはばっちりと鍵がかかっていたはず。
(え……もしかしなくてもこいつ、鍵をぶっ壊した?)
混乱する頭の片隅で、もう一人の自分が冷静に修繕費用の見積もりを開始する。
「……んで?」
フィオリアは、ふるふると全身を震わせている。
「なんでシュルクは、いっつもそんなに優しいの!?」
「…………はあっ!?」
たっぷりの間を開けた後に、シュルクは素っ頓狂な声をあげる。
ぶつけられた言葉の中身がぶっ飛びすぎていて、内容を理解するのに時間がかかってしまったではないか。
「ちょっと待て! 一体いつ、俺がお前に優しくした!?」
「いっつもだもん! いっつもいっつも、シュルクは私のことを優先してくれてるじゃない!!」
「はあっ!? そりゃ、お前ができない我慢をしまくって、顔を真っ青にしてたからだろうが!! いくらなんでも、そんな奴を無理やり引っ張り回すほど非道じゃねぇわ!!」
「じゃあシュルクは、そんな人がいたらみんなにおんなじことをするんだ!? 誰にでもそうやって、優しくできちゃうんだ!?」
「何が言いたい!? 突然押しかけてきたと思ったら、訳分かんない絡み方してきやがって! 俺に文句があるなら、単刀直入に言え!!」
「私にだって、分かんないよ!!」
「分からないなら、なんでここに来た!?」
「分かんない! 分かんない分かんない、分かんないだってば!!」
半狂乱で叫ぶフィオリアが、どんどんこっちに迫ってくる。
「なんで……なんで!?」
「ちょっ…」
「なんでなの!?」
「いてて!」
「なんでよ!!」
「おわっ!?」
ぽかぽかと胸を叩きながら迫ってくるフィオリアに押され、シュルクはバランスを崩してベッドに倒れ込む。
(誰か、この状況をどうにかしてくれ!!)
まるでフィオリアに押し倒されたような体勢に、本気でそんなことを願った。
しかし、生憎と辺りは静まり返ったままだ。
「なんで……なんでぇ…?」
頬に雫が落ちてきたので、思わず顔をそちらへと向ける。
「なんでいっつも優しいくせに、肝心な時は一緒に連れてってくれないの…?」
フィオリアは、まるで幼子のように泣きじゃくっていた。
「連れてってくれないって……俺が山に入るのをだめだって言ったことを気にしてるのか?」
訊ねると、フィオリアは何度も頷いた。
「私、シュルクの足を引っ張ってばっかだから……だめだって言われも、仕方ないとは思うの。……でも、これじゃあ……私、なんのためにここに来たのか分からないよ。」
「………」
「私、ちょっとでも変わりたいって思って……それで、お母様のことも助けたいって……そう思って、シュルクについてきたけど……でも、だめなの。今までの自分を捨てろって言われたけど、全然捨てられないの。……毎日毎日、夢にセイラお嬢様が出てきて……許さないって、逃がさないって、そう言うの。私、結局変われてない。だから……だから…………シュルクにも、嫌な顔させてばっかなんだ。私が弱いから……うっ……」
「…………あー……そういうこと……」
根気よくフィオリアの話に耳を傾けていたシュルクは、無意識に詰めてしまっていた息を吐き出してベッドに体をうずめた。
ほら見ろ。
慣れない我慢ばかりして、普段から小出しにでも鬱憤を発散させないから、こうやって気持ちが爆発するのだ。
そのせいで自分で何がつらいのか分からなくなって、さっきみたいな支離滅裂な暴走を引き起こしたのだろう。
―――でも、正直少し安心した。
そう思ったシュルクは、自覚していなかった。
その安堵が表面に出てきて、自分がほんの少しだけ微笑んでいたことに。




