本当のシュルクは…?
今日も、シュルクがルーウェルと一緒に集会所を出ていく。
「………」
それを無言で見送りながら、フィオリアはむすっと頬を膨らませていた。
「あ、彼氏君に置いていかれてご機嫌斜めだ?」
すぐそこのテーブルに座っていた男性が、からかうような口調でそう言ってくる。
「そうですけど、いけませんか?」
どうせ取り繕うまでもなく不満がダダ漏れなのは自覚していたので、フィオリアは素直に認めて唇を尖らせた。
「あはは。そんなにむくれるくらいなら、一緒に連れていってもらえばよかったのに。」
別のテーブルから女性に苦笑混じりで突っ込まれ、この前のことを思い出して胸が少し苦しくなってしまった。
「……言ったんですけど、すぐに断られちゃいました。」
「彼氏君はなんて?」
「足手まといだって……」
「あー…」
途端に、周囲の空気が気まずげな雰囲気を帯びた。
「いかにも、あの彼氏君が言いそうな言葉だね。」
「あの子も素直に、危ないからここで待っててほしいって言えばいいのにね。」
やれやれと息をつく二人。
「仕方ないですよ。本当のことですもん。」
自分で言いながら情けない気持ちになってしまい、フィオリアは表情を曇らせた。
シュルクが自分のことを足手まといだと思うのは仕方ないことだし、それは自分にだって否定できない事実だ。
自分にはシュルクのように霊子の動きを感じ取れる目もないし、彼ほどの身体能力も機転のよさもない。
常日頃から、足を引っ張ってばかりだというのは自覚しているつもり。
それに、彼には自分から離れて心穏やかに過ごせる時間も必要だろうと思う。
だって……
「私……シュルクに嫌われてるから……」
目を閉じて、そう言い聞かせる。
大丈夫。
身の程はわきまえている。
嫌いな人と四六時中一緒にいたいと思う人はいない。
だから、シュルクが自分を遠ざけようとするのは当然のこと。
そして、それを理解していても彼と一緒に行くことを選択したのは自分。
これ以上なんて求めない。
求めちゃいけないんだ。
「えっ…!?」
ふとそんな声が聞こえたので、瞼を上げる。
目の前に広がっていたのは、自分の話に付き合ってくれていた二人だけではなく、その場にいた他の皆もぎょっとして目を見開いているという不思議な光景。
「あの彼氏君が、君のことを嫌いだって…?」
「ええぇ……」
皆が互いの顔を見合わせながら、不可解そうに眉を寄せている。
「だってあれって、どう見ても……ねえ?」
「んー…。なんていうか……これが、若さってやつなのかなぁ…?」
「………?」
フィオリアはきょとんと首を傾げる。
皆がどうしてこんなに納得がいかなそうな顔をするのかが分からない。
自分は何か、間違ったことを言っただろうか。
シュルクは短気で率直な人だから、意味のないことでは嘘をつけない人だ。
だから、彼が自分のことを嫌いだということは、どう考えたって明らかなことのはず。
確か、シュルクだって―――
(あれ……私、シュルクに面と向かって嫌いって言われたことあったっけ…?)
記憶を手繰る。
これまで、性格や考え方のことで怒られたり、呆れられたりしたことはたくさんある。
迷惑だとか足手まといだとか、そういうことを言われたこともよくあった。
でも、彼の口からはっきりと〝嫌い〟という言葉を聞いたことはなかった。
(あれ…?)
フィオリアは戸惑ってしまい、両手で自分の頬を挟んだ。
記憶違いなんかじゃない。
だって、一度でもシュルクからそんな言葉を聞いていれば、もっとちゃんと覚えているはず。
一応一緒に行動してるわけだし、場の空気を最低限保つために我慢して言わないだけ?
それとも……もしかして、本当は心底嫌われているわけではないの?
そう思い至った瞬間、胸がどきりと跳ねた。
期待しちゃいけない。
そう思っていたけど。
でも―――
「フィオリアちゃーん。」
ちょうどその時、後ろから呼びかけられた。
「ちょっと、こっちに来てもらえる?」
カウンター席の向こうから、セルカが手を振っていた。
「あ、はーい。」
答えてそちらに向かう。
すると―――
「セルカさん、ちょいと聞いてくれよ。フィオリアちゃんったら、自分がシュルク君に嫌われてるなんて言うんだけどー。」
後ろから、誰かがそんなことを言ってきた。
「あらま。そんなこと言ったの?」
「だ、だって……本当のことじゃないですかぁ……」
ちょっと疑問が生まれたものの、すぐには思考を切り替えられないので、フィオリアは眉を下げてそう答えた。
「まあ、全責任はシュルクちゃんにあるから仕方ないわね。こればっかりは、当人たちが自分ではっきりさせる問題でしょ。部外者の私たちが何を言ったって、無駄ってもんよ。」
思いもよらないセルカの反応に、フィオリアは目を丸くしてしまう。
いつもなら怒ってシュルクに説教をすると言うセルカが、こんなことを言うなんて。
明日は、季節外れの雪でも降るのだろうか。
「あんれー? セルカさんが、お節介を焼かないなんて……」
「というか、なんか機嫌がいいね?」
他の客も目を点にして、そんなことを呟いている。
「んふふ、分かるー? ちょっと、いいことがあったのよ。さ、フィオリアちゃん。こっちに来てちょうだい。」
「え…? あ、はい。」
ちょいちょいと招かれ、フィオリアはセルカの後ろに続いて店の奥へと入った。




