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Fairy song  作者: 時雨青葉
第8歩目 山中にて待つ者
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意味のない調査

 小屋を出た後、すぐにはそこを離れずに壁に寄りかかる。

 気配を消した状態で少し時間を潰し、窓から屋内の様子を(うかが)う。



 ルーウェルはすでに研究モードに入っているのか、機材を眺めながららものすごいスピードでペンを走らせている。



 これなら、多少(かせ)を外しても気付かれないだろう。



 そう判断したシュルクはそっと小屋を離れ、北の方向へと足を進めた。



 ルーウェルが安全圏内と言っていた限界の場所まで進み、上空へと飛び上がる。



 そして、念のためにもう一度周囲に人の気配がないことを確かめつつ、ゆっくりと首のチョーカーに手をかけた。



「………っ」



 チョーカーを外した瞬間に目の前がまぶしくなって、シュルクは思わず目をすがめる。



 霊子が集まってきすぎて、視界がチカチカとする。



 きっと自分の周りは、他人の目からも明らかなほどに光り輝いていることだろう。

 場所が場所だけに、寄ってくる霊子の量が半端じゃない。



 他人の目に触れてしまうリスクはあるものの、こうでもしないと、こんなに広い山の調査など何日かかったって終わらないのだ。



「本当に、これってどうすればいいんだよ……」



 今まで色んな手段を試してきたが、霊子が霊子のままで自分の意思に従ってくれたことはない。



 こうなると霊神召喚で霊子を凝縮させるのが一番手っ取り早いのだが、残念ながら自分はこの辺りに危害を与えないレベルの霊神を召喚することができない。



 山で過ごす時間の内、調査に使っている時間なんて微々たるもの。



 大抵の時間は、こうして集まってきた霊子たちを振り払うことに消費しているのが現状だ。



「とりあえず、さっさと見るか……」



 一息で思考を切り替え、シュルクは目を閉じた。

 深く呼吸を繰り返して意識を静めると、脳裏にぼやけた光の筋が浮かんでくる。



「やっぱり―――山頂、か……」



 ここ数日と同じものを感じ取り、シュルクは目を閉じたまま思案げに口元に手をやった。



 脳内に、ルーウェルが見せてくれた山の地図を思い浮かべる。



 どうやら、この山の有毒ガスと霊子の濃度には、それなりに相関があるようだ。

 地図上で危険区域に指定されている場所は、総じて他より霊子の濃度も濃い。



 そして、感じ取れる限りでは、霊子の濃度が一番濃いのは山頂付近。

 もしそこに運命石の欠片(かけら)があるなら、結局は規制が緩和される日を待つしかないだろう。



「………」



 じっと黙するシュルク。



 本当に、馬鹿らしいことをしていると思う。



 こんな風に他の場所を切って捨てることをしなくても、どうせ運命石は山頂に行かないと手に入らないと分かっているのに。



 なんとなく感じるのだ。



 周辺で活発に渦巻いている霊子が、山頂に向かって大河のような流れを作っていることが。



 ―――もし……



 無意識にチョーカーを握る手に力がこもってしまい、手の中にある運命石の角が皮膚に(にぶ)い痛みを与える。



 初めてルルーシェの運命石を手にした時のことを思い出す。



 もしも自分が(めぐ)()としての能力を持って生まれたのが、この運命石を集めるためなのだとしたら。



 きっと、自分はまた導かれているということなのだろう。



 こっちだよ、と。



 冷たい湖の底に、(なか)ば無意識に引き込まれたように。

 そして今、どうしようもなく山頂に意識が持っていかれそうになっているように。



 心のどこかでそれを理解していてもなお、こんな無駄なことをせずにいられないのは―――



「………っ」



 暗い視界でさらさらと揺れる白銀色。

 それを直視したくなくて、思わず目を開く。



 目の前には、光の(もや)がかかった中でも確認できる山の風景。





 そして後ろには―――さっきまで全然感じていなかった、何者かの気配。





「―――っ!?」



 気付いた時には、もう遅かった。



 背後から伸びてきた手に口と体を押さえられ、あっという間に木々の中へと引きずり込まれる。



「お静かに。別に、取って食おうってわけじゃないですから。」

「―――っ!!」



 耳元から吹き込まれた声に、全身の神経が音を立てて凍っていくようだった。



 知っている。

 この声の主を。



 反射的に後ろの人物を突き飛ばすと、彼は特に抵抗もせずにこちらの身を解放した。



「お久しぶりです。お元気そうで何より。」



 顔面蒼白で立ち尽くすシュルクに、全身黒ずくめの彼は平坦な口調でそう告げた。



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